5-4 外道家 VS 外道家
その言葉を聞いて
「愛っ!!」
どんっ、と。愛は突き飛ばされる。
「――えっ?」
暗青龍の爪が知紅の身体を切り裂いた。おびただしい量の
【あら。一番強い方が先に亡くなりましたわね】
柔らかく微笑むと、殺せなかった少女へ顔を向ける。愛は声も上げずに全速力で古城の門へと走っていった。
【命を救って頂いたのに
地面で
【
「で? どうするよ」
【別にどうともしませんわ。歩くたびに目の前にあらわれる
「そうか」
知紅は後方を確認する。すでに残りの三人は門の内側へと逃げ込んだようだ。
【あなたこそ、どうするおつもりで?】
「外道家に単身で勝てるのは、同じ外道家かあたしの親父だけだ」
〝極真〟を限界まで引き上げる。必要以上に膨れ上がった赤い気は空高く昇ってゆき、烈火のごとく燃え上がる。無くなるまで消費し続ける。
「だからあたしは外道に
気を
「〝外道 極真〟」
知紅は
【知紅さんは一番大切な方を殺しに行かれないのですね】
【もうやった。お袋は殺した。親父は殺せなかった】
【ふうん? まあいいですわ。同じ外道家同士とはいっても、青龍の外道家と朱雀の外道家。力の差は
つらつらと言葉を並べ始めた。
【〝外道
知紅はまともに受けずに避けると、同じく音速を超えた斬撃を恋の身体に数回加える。
恋はひるまずに知紅の
【〝外道 極真剣〟】
一秒で数千回以上の鋭い突きを頭、背中、足に加え続ける。二秒目ですぐさま恋は伸ばしておいた龍爪を振り向きざまに
【さすがに速さでは本家に
自分と倒也を覆ったときとは比べものにならない
【〝外道
地面を暗青色の気で満たすと、そこから十体の暗青龍が現れた。
【一度、喰い殺しますわね。血を一滴残らず暗青龍の体内に閉じ込めておけば復活しても何もできないでしょう】
十体の龍は巨大な
【〝外道
暗赤色の殺気を圧縮した十つの刃が、十体の暗青龍を同時に真っ二つにした。
◇◇◇
【…………あら?】
冷や汗が
わたくしは思い出す。自分が戦っている相手が誰なのかを。
更科知紅。最強の武道家の一人娘。史上最年少で武術を極めた天才。それが外道家となってわたくしの前に立っている。
(
〝殺気〟は使えば使うほど増えていく。暗青龍を
大量の汗を噴き出しながら全速力で横に飛び
その光景を
両手を前に向け〝龍神遣〟を放とうと思ったときにはすでに遅く、視界の両端で回転して飛んでいく自分の両腕が見えた。
暗青龍の両腕と両足を生やせば戦いを続行することはできる。でも駄目だ。絶対に勝てない。この人はあえて首を狙わず、
だるま状態になったわたくしの身体は、草原を転がり勢いをなくすと、仰向けに倒れ込んだ。そのまま青空を見つめる。
世の中は理不尽だ。今まで努力を積み重ねてきたのに。人生を諦め、外道に堕ち、家を捨て、四肢を失っても。好きな人一人、殺せないのだから。たったそれだけの
わたくしは何のために生まれてきたのかを考えるとむなしくて、
草を踏みしめる音が近づいてきて、視界に知紅さんが映り込んだ。
無意味だった人生。せめて笑顔で終わりを迎えてやろうと、微笑みながら別れを告げた。
【とどめをさして下さいな】
【あぁ】
短く返答した知紅さんが腕を振るうと、わたくしの首は身体から切り離された。
◇◇◇
「……終わった、のか」
「お姉ちゃん……」
静かになった戦場へ、避難していた皆が城門にあらわれた扉から次々と出てきた。
草原にはおびただしい血が広がっている。その上には真っ赤な少女が立っていて、一つの死体が転がっている。
外道家同士の死闘は、更科知紅に
【……】
血にまみれた知紅は、涙に濡れた少女の生首を血だまりから両手で
【《
草原に広がった血が動き出す。少女の死体が血液に包み込まれる。散らばった腕と足も血液へと変わり集合していく。知紅は生首をその血だまりの中に落とした。
「……過去異能? 何をする気だ」
「お姉ちゃんの過去異能は……〝蘇生〟……」
血だまりは
知紅はしゃがみこむと、恋の頬をぺちぺちと叩き始める。
【おい。起きろ】
【……んっ……ん!? えっ!?】
恋は飛び起きて自分の身体を確認する。切り離された手も、足も、首も。すべて元通りにくっついていた。
【あなたが、やったんですの……?】
【あぁ。死んでから五分以内なら、両手で
【……どうして、助けたんですの? 外道家は殺しても罪に問われない。あなたがわたくしを助ける義理なんて……】
【あたしは、あいつらに救われた】
三人を親指で指し示す。
【あいつらがあんたを救おうとしてたから、代わりにあたしが救った。別にあんたのためにやったんじゃねぇよ。勘違いするな】
【……わたくしは……また襲いかかるかもしれないのに……】
【ここにはあたしがいるだろうが。〝殺気〟がなくなるまでじっとしてろ】
そう言って知紅は、草原の上に座った。
【……はぃ】
恋は涙で
「やっぱあいつ、すげえな。勝てる気がしねえ」
「私の自慢のお姉ちゃんですからねっ!」
「……愛だけのお姉ちゃんじゃなくなるかもしれねえぞ」
「えっ? どういう意味ですかっ?」
草原には、幸せそうに眠る少女と、仏頂面の少女が残り、正気に戻るまで待ち続けるのだった。
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