いつかきっとハマグリになる(終)

「いそもさんですね、僕と会う時、食べ物かあなたの話しかしないんですよ」

 後日、またそれとなくきらに仲介を頼み、ショッピングセンター内のフードコートであの男――深水清雅と会ったところ、そう言って困ったように笑っていた。

 もう会うことはあるまいなどと言った手前、気まずくはあったが、かの男はどうもこうなることを予測していたらしい。

「言ったでしょう? 僕はあなたの方が好きだと、実はずっと会いたかったと。いそもさんの話を聞いているうちに、あなたのことが好きになったんです」

 それはつまり……、それだけ私のことを喋り倒してたってことだよな……。しかし、どんだけ喋ったらそうなるんだ……?

 具体的に聞いてみたいような……、いや、やめておこう。たぶん、今ここで愛刀を召喚したくなるほどろくでもない気がする。

「――で、現実に会ってみてどうだ、幻滅したか」

 男はゆるゆると首を横に振った。

「よければ今度一緒に釣りでも」

「ああ……、まあ、アナゴ釣るんじゃあなければな」

 そう言うと、また困ったような笑顔になった。

「いそもさんから春になったらイソモ掘り潮干狩りにと誘われたんですが……」

「うん、普通は元同胞狩りだけは避けると思うぞ」

 少し離れた席にいたきらの方をちらりと見ると、同意する、とばかりの表情で頷いていた。

 ……しかし、マヒトデはいいよな。基本食べられないしな。


 そして、それからほどなく、いそもの局はカステラの貯蔵庫となった。

「最近カステラばかりだな」

 いそもと一緒におやつを食べに私の局へといらっしゃったみづき殿が、そうお笑いになった。

「お気に召しませんか?」

「いいや、美味いから満足だ」

「明日はぁ、趣向を変えてぇ桃カステラにしましょー」

「……いや、いそもさん、いい加減報告書を提出してください。そろそろ半月が経つのですが」

「桃カスが先ですぅ! もぉ~もかすぅ~もぉ~もかすぅ~もぉ~もかすぅ~」

「ちょ、調子に乗るなバカモノ! 報告書が先――おい、こら! 逃げるな! 大体お前! 女官になってそれからハマグリになるんだろ!」

「ふふ! いつか、きっと、ですぅ!」


【了】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いつかきっとハマグリになる 岡野めぐみ @megumi_okano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ