寵姫はミズクラゲ(4)
今更だが、市杵嶋姫命は神であらせられる。
「天照大神と素盞嗚尊の
断じてウミガメやマンボウではない! と声を張り上げた私に、いそもは口を尖らせて、でもぉ、と納得いかないと言わんばかりの表情で言った。
「それはどこかで聞いたような気がするんですけどぉ」
「どこかで、ではないだろう! 女官候補が人の
我々は姫命より人の容を与えられてすぐに女官候補として女官に預けられるわけではない。
人の容を与えられてから少なくとも半年は姫命の御傍にあり、神に伺候するのに必要な最低限の知識を得るのだ。
最後には試験があって、それに合格しなければ女官になるための試練を受ける資格が与えられない――はずだと思うのだが!
「習ったようなぁ、気がしないでもないですけどぉ、でもぉ、ミズクラゲってぇ、元がウミガメだったりぃ、マンボウだったりしないとぉ、食べる気起こらないと思いませんかぁ?」
「たわけっ! 姫命は宗像三女神の一柱だと言っているだろうが!」
「だってぇ、あたしぃ、ミズクラゲが食べ物だとはどうしても思えないんですぅ」
「その理屈でいったら元々アサリのお前はマガキもマアナゴも食い物だとは思えんはずだろうが!」
「それはぁ、そうかもしれませんけどぉ……、じゃあなんで市杵嶋姫命はミズクラゲをかわいがるんですかぁ?」
下に置いていたくずきりの器を再び手に取りながらこちらを見たいそものまなざしがとても真摯で私は一瞬言葉を失った。
こういう時の顔は本当に見分けがつかないくらい鏡に映った自分と瓜二つでどうしても怯んでしまうのだ――
「ここはミズクラゲを食べると考えた方がぁ、自然じゃないですかぁ?」
――言っていることがめちゃくちゃでも。
結果、私はワンテンポ遅れて声を張り上げる破目になった。
「ば、ば、バカモノッ! 何が自然だッ! 違うだろッ! 真面目な顔してそんなこと言うな! 考えてしまうではないかッ! 一にも二にも食うことから離れろォ!」
無理だろうが、と頭のどこかでわかっていたことではあった。が、
「んー、食べることから離れてぇ……あ、わかりましたぁ! きっとですねぇ、ミズクラゲってぇ白餡の水まんじゅうっぽいからですよぉ」
うん、やっぱり無理だったようだ。
「水まんじゅうも食べ物だろうがッ! 離れろーッ!」
「あー、水まんじゅうぅ……何だかぁ、食べられそうな気がしてきましたぁ」
「食うなよ! 絶対に食うなよ!」
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