あんこと餌付けと下心(1)

 宗像三女神の一柱、市杵嶋姫命の御寵愛を一身に受ける女官候補みづき殿が最近よく私の局に御出でになる。

 お目当ては私などではなく、私が姫命よりおあずかりしている女官候補のいそも。

 まあ、いそもの局は食糧備蓄庫――もちろん、いそも専用だ――になっているため、いつもいつもいそもは私の局にいるしな。

 で、市杵嶋姫命の御寵姫といっても差し支えないみづき殿が、なぜ自分の局を食糧備蓄庫にしてしまうような女官候補のもとにやってくるのか。

 あまりに頻繁なので、みづき殿にそれとなくうかがったところ、何でも市杵嶋姫命が「あれは決して汝に害を与えぬから仲よくしておくように」というようなことをおっしゃったからのようだ。

 市杵嶋姫命の御真意はどうあれ、御寵愛篤い女官候補の傍にいることができるというのはいそもにとって悪くないことだと思う。そして、そんないそもをおあずかりしている私にとっても。

 だが――

「まあこ、質問がある」

「どうかしましたか、みづき殿」

「いそもがわたしに白餡の菓子ばかり食べさせようとするのだ。なぜだ?」

 言えない。絶対に言えない。

 みづきちゃんは元ミズクラゲ、ミズクラゲといったら白餡ですよねぇ、そっくりですしぃ、白餡の水まんじゅうに……などと、どこか遠くを見るようなまなざしで時折涎を衣の袖で拭いながらいそもが白餡の菓子を掻き集めていること。

「なぜ白餡なのか、白餡に何かあるのか、我らが主にもお尋ね申し上げたのだが」

「申し上げちゃったんですか!?」

 思わずはしたない声を上げてしまった。

 我らが主というと紛うことなく市杵嶋姫命。

 姫命は神であらせられるので、そのいそもの乱心というか……は御存知だと思うが、その――

「まあこよ、何か問題でも」

「い、いえ……、それで姫命は何とおっしゃって」

「万が一齧られるようなことがない限り気にすることはないだろうとのことだった」

 ――市杵嶋姫命よ、いや、万が一どころか近いうちにみづき殿は齧られてしまう可能性が高いです。

「しかしだな、まあこよ。わたしは抹茶餡が食べたいのだ。前に抹茶餡の入った大福を食べたのだが、大層薫り高く美味しかったのでな。白餡も悪くはないが、あの抹茶の香りがやはり――どうした、まあこ。妙な顔をして」

「……いえ、お気になさらず」

 もしかするとその前にみづき殿がいそものようになる気がしないでもないですが。

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