寵姫はミズクラゲ(2)
普段、他の女官候補がどうであろうと気にしないいそもだが、“嫉妬されるみづき殿”にはこれ以上ないほどの興味を示した。
「みづきちゃんをうらやむ女官候補が多いってぇ、でもぉ、あたしぃ聞いたことないんですけどぉ?」
それはそうだろう。いそもは食べ物以外に興味を抱かず、そして、いそもに掛かればすべてが食べ物の話になる。どうやっても食べ物に絡められそうにない話でも、本題を置き去りにして言葉の端々からでも最終的には食べ物に持っていくのだ。誰が誰を嫉妬しようともまず気付かないだろうし、誰もそんな話は振らないだろう。
まぁ、私自身、ある程度予想はしていたとはいえ、今し方よしこ殿から教えられて知ったのだから、いそものことは言えないか。いや、色々言わせてほしいけれども。
「伝達係のよしこ殿の見立てでは――」
「よしこ殿っていうとぉ、シロギスですね! 天ぷら!」
「天ぷら言うなこのたわけが! ともかく!――よしこ殿の見立てでは、ほとんどの女官候補がみづき殿を妬んでいて、なかには害そうと目論んでいる輩もいるのではないかという話です」
「えー、でもでもぉ、ミズクラゲより美味しくなさそうな女官候補ってぇ、いなかったと思うんですけどぉ、誰がみづきちゃんいたぶろうとしてるんですかぁ?」
みづき殿に害をなそうとしているのは、厳島の宮では知らぬ者などきっといない優秀で傲慢な女官候補、かき。
女官候補となった年は違うが、いそももかきのことは知っているだろう。
が――
「えぇ! かきさんってマガキですよぉ! 牡蠣鍋牡蠣御飯お吸い物フライグラタンパスタまで! でもぉ一番のオススメは七輪で殻ごと焼いたや・き・が・き! それもかきさん! 広島名産ぷりっぷりの養殖牡蠣なんですよね! マガキは冬が旬だしぃ、あたし今年の冬に人の
――予想通りの反応に私はぬるく笑った。
笑うしかないだろう、ンなもん。
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