あんこと餌付けと下心(5)

 しかし、私もいそもの扱いに慣れてきた。

「別に高橋のような性格の人間を傍に置けと言っているわけではありませんよ」

 深く長く溜息一つ。

 そうして何とか気を取り直し、いそもと向かい合うようにして座る。

「高橋のような“戦闘代理人”か、あるいは“情報提供者”を置き、女官候補の責務をはたすつもりはないのかということです」

 殊更穏やかな口調を心掛けて話しかけると、いそもは眉根を寄せた。

「“戦闘代理人”か“情報提供者”――つまりぃ、料理人かグルメライター、ですかぁ? でも、女官候補の責務にはぁ、あまり関係ないような気がするんですけどぉ」

 ……耐えろ。耐えろ耐えろ耐えるんだまあこよここで怒鳴ったら話が続かなくなるから何としてでも耐えるんだ。

 そうしてやりすごし、笑みを作る。

「そ、そうですね、女官候補の仕事のなかに“食べ歩き”など、そんなものありませんからね」

 お前はいっつもしてるがな、と言外に皮肉を込めてみたが、

「ですよねぇ」

 華麗にスルーされた上、

「でもぉ、それだったら“戦闘代理人”と“情報提供者”って何ですかぁ?」

「い、い、い、いそもォォォオオオッ!」


 ごめん、臨界点突破。


「貴様ぁ! 女官候補の最重要任務は何だ! 言ってみろ! 言えぇぇぇっ!」

 いそもの衣の衿を掴んで力一杯揺らす。ていうか本当にこいつ今まで何考えて女官候補してきたんだ?

 いそもは、いたいですよう、と大して痛くもなさそうににへらと笑み、そして、ふと真顔になって言った。

「便宜上『想い』と呼ばれている、持ち主から離れ漂う思念を石に封じて市杵嶋姫命に納めること――だったと思うんですけどぉ」


 ……しっかりわかってるじゃん。

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