寵姫はミズクラゲ(3)

 マガキがミズクラゲに嫉妬する――なんていうと実にシュールだし、万が一、そんなことがあったとして、その理由を問われても私は答えられない。

 が、しかし、ここ厳島の宮にいる元マガキの女官候補かきが、同じく元ミズクラゲの女官候補みづきに嫉妬しているという件に限ってなら答えることができる。

「まあこさぁん、全ッ然わかんないんですけどぉ」

 視線を宙にさまよわせ、ミズクラゲでしょ、ミズクラゲの食品利用の研究ってぇ、確かにぃ聞いたことあるけどぉ、とまったく見当違いなことを必死で考えて、当然の帰着ながら白旗をあげたいそもに私は言った。

「みづき殿に対する我らが御主、市杵嶋姫命の御寵愛が一方ならず篤いからですよ。それがかき殿を始めとした女官候補の嫉妬の原因となっているのです」

 というか、まさかいそも本当に知らなかったのだろうか。いや、可能性は大いにあるが。

 黒蜜に浸かるくずきりが入った硝子の器を脇に置いたいそもは腕を組み、視線を床に落とした。

 手にした食べ物を置いてまで考えるとは、よほど真剣に思考しているのだろうが――

「市杵嶋姫命ってぇ、もしかして何でも食べることができるんですかねぇ……」

 ――やっぱり食べ物かという以前に聞き捨てならんぞその台詞!

「いそもッ! お前は姫命を何だと思っているんだッ!」

「そういえば元々は何なんですかぁ? クラゲを食べるということはウミガメとかぁ、マンボウ?」


 ――市杵嶋姫命よ、こいつ本当にこれでいいんですか?

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