いつかきっとハマグリになる(7)
男は、呆然とする私の手を握ったまま、上下に振っていた手を止めたあとも、邪気のない微笑を浮かべたまま言う。
「しかし、すごく似ていますね。よく間違えられませんか?」
――同じかっこうをしていたら見分けられる方が稀なのだがな。
少し落ち着いた私は、掴まれている手をすっと引き解き、視線を逸らす。
「……姉妹、だからな」
一応そういう“設定”で市杵嶋姫命はいそもを作ったらしい。
目の前のこの男、私がマアナゴであったということは知っている。ということはおそらくいそもが元アサリであることも知っているに違いない。
案の定、
「マアナゴとアサリ、でしたよね? うっかりすると食物連鎖の上下のような気もするのですが」
笑みを引っ込めて、不思議と言わんばかりの面持ちで男は言った。
しかし、さすがのこいつも市杵嶋姫命が我らを創ったということまでは知らないはずだ。
禁忌ではないが、たかだか人間に対し、我らの主の名を語るなど、そんな下賤な真似は――
「どうして姉妹にしてしまったのですかね? 市杵嶋姫命さんは」
――まぁな、食にしかこだわりのないいそもには、神々の眷属とか人間とか、そんな垣根はないか。
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