いつかきっとハマグリになる(2)
人間とはいえ高橋仙太郎は御寵姫の“戦闘代理人”だ。
「とりあえず今後、みづき殿が南蛮漬けを食べられないとがっかりしない程度に釣りは控えるようになさい」
そう言い渡すと、また三匹ほど口のなかに放り込み、むぐぅ、と顔をしかめ、不満の声を上げた。そして、驚異の速さで咀嚼と嚥下をし、口を開く。
「ええええええ、困りますぅ」
……どうして口のなかに入れる前に言わない? という、きっとロクでもない答えしか期待できない疑問は飲み込んで問う。
「何が困るのです」
現状、困っているのは高橋仙太郎の方だろう。
あと、短時間かつ餌なしで魚をガンガン釣り上げ、瞬く間に三十リットルのクーラーボックスをいっぱいにする女の隣で釣りをしなければならない釣りの愛好家たち……は、困っているというか恐怖だろうな……。
「少なくともあなたが困る要素はないと思うのですが」
「困りますよう」
どうせ食べる量を確保できないとか、そんな理由だろう、と――
「あたしを待ってるひとがいるのにぃ」
「は……?」
――なんだそれは。
ひと? ヒト? ヒトデか?
「きらですか?」
私の同期で、元マヒトデの女官の名を挙げる。
きらは諜報部所属。人間に身をやつして女官候補の動向を探り、監視する任にある。
諜報部員は監視対象にそれとわからないよう業務をこなす向きが多いが、きらは特に隠さない――監視がついていること自体は皆知ってんだからさ、人間観察していたらそのうち誰がそれかわかるでしょ? ムダムダ――ということらしい。
そんなわけで、たまに一緒に夕食を食べに行く程度には監視対象のいそもと付き合いがあるようなのだが――
「あー、きらさん……、美人ですけどぉ、マヒトデってちっとも美味しくないのでぇ……、残念ですよねぇ」
――きらよ、悪いことは言わんから、付き合い切っとけ。
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