いつかきっとハマグリになる(4)
――ひとは、人。人間だったらしい。
食べ物関連の寄り道があまりに多いいそもの話をさっくりまとめると、どうやら一月と少し前に釣り場でナンパされたらしい。人間に。人間の男に。
で、そのナンパしてきた男が待っている、と。
実はこれまでにもその男とたびたび食事に行ったり、行列必死の有名スイーツ店に行ったり、はては泊まりがけで久留米までラーメンと焼き鳥を食べに行ったりしたらしい。
……そういえば、あったな。久留米ラーメンセットを持って帰ってきた日が。
てっきり貰い物だと思っていたのだが、あれはいそも自身が現地で買ってきたお土産だったのか。
「次はぁ、釣りのあとぉ、持ち込みで料理してくれるっていう民宿に行く約束をしたんですぅ!」
「……そうですか」
「だからしばらくぅ、釣りもぉ、仙太郎君に南蛮漬け作ってもらうのもぉ、やめられないっていうかぁ」
いや、持ち込みで料理してくれる民宿なんぞ知ってるなら、高橋仙太郎に南蛮漬け作ってもらうのはやめられるだろ――と、言いかけて、けれども言葉にならなかった。
なんだ? なんだかすごく……気分が悪い。
というか、よくないのではないか?
その人間の男は――誰だ?
約束があるならばひとまず釣りの件は保留ということにして、いそもを退出させ、局の隅にある固定電話の受話器を上げ、プッシュボタンを押す。
人間たちの使うものと同じものだが、回線は神々の御力によるもの。
綴り出した数字は――きらの携帯番号。
人間たちの回線に割り込むための無音のあと三コールで、聞き馴染んだ同期のあっけらかんとした声が耳に届いた。
『まあこ? めずらしいけど、どうしたの?』
「話を聞きたい。いそものことだ。いつ宮に来られる」
『うーん?――それはどういう立場での呼び出しかしら?』
「おそれ多くも我らが主、市杵嶋姫命より女官候補をあずかる女官としてのだ」
『かしこまってるねえ、硬いよ?』
そう笑い声を立てたきらが私の局を訪れたのは、それから間もなくのことだった。
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