第20話 K田の野望 ~教室版~
A地くんが地獄を去った後、クラスのヘイトを一身に集めるキリストみたいな男がいます。
それはK室くんです。
彼はその誰をもイラつかせる独特のユーモアと根拠不明の自信によってクラスのサンドバッグ係を2年間勤め上げます。
右の頬を殴られたら己の身を乗り出しアスファルトでバックドロップされる聖人です。
まさに情報技術科の人間から見れば救世主です。
自分たちに被害が及ばないという意味で。
そんないじめっ子もいじめられっ子もやたらキャラの濃い底辺高校ですが、もちろん薄味のキャラもいます。
電気科のO倉くんとK矢くんです。
彼らはなんでこの学校いるのかわからないレベルで真面目な子で、藤原のように興味のない科目は適当に流すようなダメ人間ではありません。
私は常日頃からなぜ彼らがわざわざこんな学校に入るという苦行に至ったのかについて興味がありました。
「つかなんで高専行かなかったの君ら?」
ある日私は聞きました。
彼らは遠い目をしました。
「いじめで学校ほとんど行ってなかったし……」
納得です。
「藤原くんは?」
刃物で刺されて埼玉を追い出されたなんて言えません。
あの理不尽の説明もできません。
「パソコン触ってても怒られないから」
嘘です。
最近では私の両親がパソコンを触ることこそが私の性格が捻くれた原因ではないかという真実に辿り着きました。
そのせいか受験勉強してないと叩かれます。
「学校の勉強なんてしてる暇なんかあるか!」という勢いです。
十二指腸潰瘍で死にそうなのには気づきもしない辺りがありがちすぎて面白くありません。
「ふーん……それで大学行くの」
「入れてくれる大学があれば」
「ふーんがんばってね」
このように彼らは電気科でありながら人間の言葉を理解できます。
ですがそれは決して幸せなことではありません。
なぜなら、ここに入った以上一生DQNと付き合わなければなりません。
コミュニケーションが暴力一択なのに彼らは暴力を拒否しているのです。
まるで拳王様に踏みつぶされる村のようです。
むしろオーク語しか話せず過剰に暴力的な方が幸せに違いありません。
そんな彼らは毎日一つの場所に固まってはトランプに興じるという生活を送ってました。
彼らはトランプが好きなわけではありません。
トランプに興じることを口実に数人で固まることが重要なのです。
彼らは小魚の群れのように群れを作っていたのです。
私はなんだかイラつきました。
なぜ普通に過ごしているだけの私たちがこんな情けない自衛手段を取らねばならないのでしょうか?
教室の隅で迷惑かけないようにコソコソ生きていくべきなのはDQNのはずです。
私が見ていると予想通りクズ度だけならクラス王者のK平が来ました。
「オラァッ! この出てけこのクズども!!!」
K平はそう怒鳴ると机を蹴りました。
ガラガラどごーん。
ジャングルの猿が人間をクズ呼ばわりする事案発生。
「おいおいおいおい。俺の美しさに嫉妬するな、ゲブッ!」
K室くんが最後まで言い終わる前にその顔面に拳が突き刺さりました。
なぜ彼のユーモアはここまで人を苛立たせるのでしょうか?
「うわああああああああんッ! 叩いたー!」
いえ、それは叩いたというレベルではありません。
それは『殴った』です。
これだけやられても次の日にはケロッとしてます。
K室くんの精神耐性はチートレベルです。
クトゥルーの邪神に会っても無傷で戻ってくるに違いありません。
あーあ、アホばっかり……
私があきれ果てているとK平がキレました。
「何だテメエ! このクズ野郎! 殺すぞ!!!」
なぜそんなに興奮しているのでしょう?
そのまま脳の血管切って死ねばいいのに。
「テメエ! なんか言えよ! オイコラ!」
コイツ喧嘩売ってるのかな?
私がそう思ったとき事態は動きました。
「おいやめろ!」
Y岸が止めに入りました。
「おいY岸どうしたんだよ?」
「いいから!」
……なに?
なにがあったの?
猿より頭の悪いY岸が止めに入ってます!
この日からどういうわけかY岸はK平たちを止めるようになりました。
不思議ですね。
オークさんには、もしかすると学習能力が存在するかもしれません。
強力な暴力さえあれば言葉が通じるかもしれません。
動物学者の皆さん。実験してみてください。
尻に電流が流れる棒を突き刺すとか。
麻酔なしで頭部を切開して電気を流してみるとか。
私以外なら自由にどうぞ。
◇
さて、そろそろサイコパスに触れねばなりません。
K田です。
K田は常に自己の利益のために生きている人間です。
お前もそうじゃないか?
いえいえ、私なんてかわいいものです。
彼の一番恐ろしいところ。
それは己の楽しみのためだけに争いを煽るのです。
K田がラーメンと話してました。
ちなみになぜラーメンかというと、顔がキン肉マン二世に出てたラーメンマンそっくりだからです。
私は別にそれを眺めていたわけではありません。
たまたま目に入りました。
するとK田がニヤッと悪い表情をしました。
「あのなラーメン、S平が悪口言ってたぞ」
まさに小学生レベルです。
いえ、小学生じゃないと許されないレベルの低さです。
ですがこのクラスのオークさんには実に有効なのです。
「おどりゃあ! K平殺すぞ!!!」
バカが乗せられました。
鉄パイプを持ってどこかに出かけていきました。
打ち所が悪くてK平が死にますように。
ささやかなお祈りです。
実はK田はこれをほぼ全員に仕掛けています。
クラスメイトを争わせてゲラゲラ笑っているのです。
今度はSさんのところにやって来ます。
「ようS。藤原がお前の悪口を言ってたぞ」
「藤原が悪口を言わないわけがないだろ。口を開けば毒しか出てこないのに。あいつから悪口と絶望を取ったら何が残るって言うんだ!」
酷い言いぐさです。
まるで私が寿命のある悪魔みたいじゃないですか。
だいたい私はこれでも半分も言ってませんよ!
「おう、でも陰でお前の悪口を言いふらしてるぞ」
あの……思いっきり私に聞こえてるんですが。
もうちょっと賢くやってくれませんかね?
「陰でって、藤原なら本人に堂々と言うだろ?」
だからSさん!
アンタの中で私の評価はどうなってるの!
「い、いや……だから……」
やはり彼もオークです。
バカ丸出しです。
するとK田は私を睨みました。
私がなにかしましたか?
私がキョトンとしてるとK田が私の方にやって来ます。
「テメエ藤原ぁッ! 俺は空手やってんだよ! わかってるのか?」
それはかつてないほど頭の悪い脅しでした。
空手やってるから何だというのでしょう?
「いえ全然」
私は正直に答えました。
意味なんてわかりませんもの。
「テメエ! 俺に喧嘩売ってるのか? ああコラァッ!」
「あなたには喧嘩を売るほどの価値もなければ、接点も存在しません。そもそもあんたに関わりたくありません」
私はしっしと手で追い払いました。
K田は舌打ちをしました。
加齢臭漂う行為ですし育ちの悪さを宣伝している行為です。
「おいテメエ。舐めてると殺すぞ!」
「はいはい。オ○○ーの最中に心臓発作でも起こして死んでください」
私は適当にあしらいました。
実は私はこの数ヶ月後に倒れます。
私が入院した直後、Sさんがピンチを迎えるのです。
バカでもサイコパスは厄介なのです。
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