第14話 オークさんと宗教
冬のある日。
血液検査で引っかかりました。
原因は蜂のような気はしますが原因の特定は困難です。
ヤバイくらい飲んでた酒かもしれないし、他の病気かもしれません。
ただ肝臓が危険な数値です。
ストレスでしょうか?
蜂の一件、あれから藤原はぶくぶくと急激に太りはじめました。
黄色い熊のような体型になってました。
30㎏は増えたでしょう。
なんでしょうね?
そんな私に最大のストレスが家族によってプレゼントされようとしてました。
あれは晩ご飯を食べていたときのことでした。
「ゴンザレス。俺、XX教に入信したから」
親父が突然言いました。
「ぶーッ!!!」
私はむせました。
「げふッ! ちょッ! あんた何を言って……げふッ!」
その宗教はH田くんとは違い、神道系のあやしい新興宗教でした。
はっきり断言します。
当時の私は非常に愚かでした。
H田くんのことを実家の宗教を理由に思いっきりバカにしてました。
私は宗教が大嫌いなのです。
だからこそ、とてつもなく視野が狭かったのです。
ごめんねH田くん。
私は世界で一番頭が悪かったよ。
私の宗教嫌いは相当根深いものです。
それは小学校のころでした。
新潟のある寺がダメな子の矯正プログラムを兼ねたサマーキャンプをやっていると聞きつけた両親は、なんと肥満を理由として私をそこに突っ込みました。
親に見捨てられたと思い完全にキレた私は寺で椅子を振り回し出入禁止になりました。
当然、親との信頼関係は修復不能。
以後、親の言葉も教師の言葉も聞かない好き勝手に生きていくスタイルができあがりました。
それ以来、藤原は神も仏も信じておりません。
新興宗教なんてもってのほかです。
「あんた! 私が宗教嫌いなの知ってるでしょ!」
両親をアンタ呼ばわりです。
儒教文化の影響がまだまだ強い日本ではかなりのタブーです。
でも私は悪くないと思います。
本当に。心の底から私は宗教が嫌いなのです。
そもそも親父はそれを知ってやがるのです。
「いいじゃないか。おっと、お前青年団に入れたから」
「うぎゃあああああああああああああああああああッ!!!」
人間は心の底からキレると叫び声しか出ないものです。
私は隣近所に丸聞こえになるほどの声量で叫びました。
そして皿を手に持つと次々と放り投げました。
いいじゃないか?
ふざけんな死ね!!!
宗教は親父一人でやれ!
俺を巻き込むな!
泣きながら暴れる私。
今度は木刀を取り出しました。
「うぎゃあああああああああああああああああああッ!!!」
テレビを殴りつけます。
読者様に誓って言います。
私は親に手をあげたことはありません。
でもこのときだけは完全にキレてしまい自分を見失ってしまったのです。
テレビを破壊した私は財布と学ランを手に家を飛び出しました。
嫌だ!
もう嫌だ!
私は泣いていました。
完全に心が折れました。
その後しばらく家に寄りつかない生活が続くのですが、それはそれは惨めな内容なので省略します。
全然笑えないの。
その後、二年間ほど父親とは口を聞かない生活が続きます。
それは小うるさいとか思春期とかではなく宗教が原因です。
ちなみに十二指腸潰瘍の悪化でたまに家に帰ってきました。
実はこの頃になると洒落にならないほど腹が痛く、高熱も出ていたのです。
でも両親は宗教のことで毎日喧嘩していて……離婚ギリギリの緊張感のある生活でしたので私の十二指腸潰瘍にかまけている暇などありませんでした。
この頃の藤原は太るほど食料を食べてるはずなのに顔が青白くなり、目の下の隈はどす黒く幽鬼のような表情に変わって行きました。
ちなみに本人は「やっべノーメイクで※コープス・ペイント。俺凄くね!? モテちゃう? 俺モテちゃう?」と密かに喜んでいたのは完全に黒歴史です。
※コープス・ペイント
サタニズムを信奉するブラックメタルバンドが好んでする化粧。顔を白く塗って目の周りと口を黒く塗る。土葬時の死体を模した化粧とされる。カッコイイと当時は思ってた。つまりこの時、藤原はマジで死にかけていたと思われる。正直言って、無神論者がサタニズムってのはカオスの極みなんですがその頃のフェイバリットミュージックはブラックメタルでしたとさ。
しかもこの頃になると体臭が血のにおいになります。
ただそのせいで顔に迫力が出て、クラスのバカどもも私に近づかなくなってきました。
だってデブなのに顔だけ骸骨ですもん。
お肌かっさかさとかそういうレベルじゃない感じです。
◇
やっほーおうちに宗教の人が来たよー。
青年団の活動がうんぬん言ってやがるよー。
うん。ダンベルを装備して……投擲!!!
「おどりゃー! 死に晒せー!!!」
私はクソ宗教どもにダンベルを投げつけました。
慌てて宗教の人たちが逃げます。
刑事事件上等。
むしろ警察を呼びたかったのです。
親父はわざとらしく叫びました。
「ゴンザレス! 何が不満なんだー!!!」
「お前の宗教じゃあああああああああああああッ!!!」
これ以上ないくらいにシンプルです。
宗教です。
宗教が嫌なのです。
「宗教で一緒に更生しよう」
「うがああああああああ! このクソ親父聞いてねえええええええッ!!!」
「大丈夫だ。精神を壊しても病院に行けばいいさ!」
「宗教のせいでストレス溜めてるんだよ。このクソ親父がああああッ!!!」
私は本当に嫌でした。
心の底から気持ち悪かったのです。
少なくとも私は宗教がなければ初対面の人に暴力を振るったりしません。
とにかく宗教が嫌で嫌で嫌で嫌でしかたがなかったのです。
元からある仏壇に設置された変な樹脂製の位牌みたいな気持ちの悪いオブジェも、送られてくる青年団の会報も、変な電話も全てが憎かったのです。
全方面逃げ場なし、全てがストレス。
これが16歳の私のリアルな生活だったのです。
……よく耐えきったな。
どうして私の人生ってこんなにクソゲーなんでしょうね?
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