第13話 バカと酒

 私はビールの缶を開けました。

 一気に流し込みます。

 げぷー。

 高校生が酒飲むな?

 うるせー!!!

 飲まなきゃやってられないじゃあああああああああッ!!!

 それにあやしい薬に手を出してないだけ私はマシです。

 電気科の半分は学校にあやしい薬を持ってきてるんですからね!

 (ちなみに二年の時に便所で覚醒剤が発見されました)


 それは地の果て無法地帯。

 秋の大イベント体育祭でした。


 ちょっと待て酒?

 ええ、酒ですがなにか?

 酒ですよ。

 あっと言う間に一本飲み干した私は担任の前でもう一本開けます。


「つまみ食うか?」


 担任がイカをくれました。

 私は血走った目でそれを食べます。

 咎めたら殺す。

 そういう緊張感が二人の間にあったのです。

 教師も本当の狂人にはなにも言いません。

 言っても無駄だからです。

 なぜ私がここまで狂っていたのか?

 それは体育祭にありました。

 体育祭。それは暴力です。

 何を言ってるかわからないと思いますが、事実K室くんが殴られました。

 赤羽も蹴られています。

 情報技術科の連中も次々と痣を作ってます。

 あはは。

 いつもの学校での光景ですね。

 みんな死ねばいいのに♪

 でも私は知らなかったのです。

 それが私が美味しく味わえた最後の酒だとは。


 やけになってゲロ吐く寸前まで酒を飲んだ私。

 そんな私の前になにか大きなものが飛ぶのが見えました。


 ぶいいいいいいいいいん。


 ドローンではありません。

 それは黄色と黒の危険色。

 オオスズメバチでした。


「スズメバチですね」


「スズメバチだな」


 私は蜂に特に興味がありませんでした。

 とにかく酒でも飲んでこの罰ゲームが早く終わることを祈っていたのです。

 ちなみに藤原の横にはSさんがいます。

 Sさんはグラウンドに来る前にすでにできあがってました。

 すでにへべれけで競技に参加できそうにありません。


「もうね。なんでこんなクソイベントやるんですかー?」


 私は教師に絡みました。

 ホントダメ人間ですね。


「俺が知るかよ!」


「でもあのクソどもはクビにしなきゃダメでしょがー!」


「そりゃ無理だ」


「なんでよ?」


「W辺はヤ○ザの息子だ」


「へー」


 もはや驚きでもなんでもありません。

 なんで必死になって警察の介入を阻止するのかがよくわかりました。


「クラスにはもっと凄いのがいるぞ」


 この学校には個人情報という概念はありません。


「例えばH田な。アイツの家XX教な」


 外国産の宗教です。


「教育を受けると悪魔の影響を受けやすくなるから大学は行かないそうだ」


「ブッフー!!!」


 私は酒を噴き出しました。


「じゃ、じゃあ就職ですか?」


「いや巡礼の旅に出るそうだ」


 どんなに優秀でも親は選べません。

 完全な人生デスモードです。


「じゅ、巡礼が終わったら……?」


「共同で運営してる農場で働くらしい」


「なななななな。なんで工業科に来たんですか!」


 意味がわからん!


「さあ?」


「さあ? って気にならないんですか!?」


「藤原。世界にはな知らない方が良いことがあるんだ。生徒の親の職業とかな」


 世界。それは薄汚すぎる!

 私の酔いは一気に醒めました。

 あーやだやだ。


「それに俺が何をしたって法律が親のやりたい放題を許してるんだ」


 マジで親の宗教を子に押しつけるのやめませんか?

 藤原は人ごとのように思いました。

 この3箇月後に人ごとではなくなるというのに。

 私があきれ果てているとアホどもの騒ぎ声が聞こえました。


「なんでしょうね?」


「なんだろうな? 見てきてくれるか?」


「はいよー。帰ったらもう一本もらいますよー」


 私はアホどもの所に行きました。

 バカですね。あと数分で酒が飲めない体になるというのに。

 アホどもが嗤いながら石を投げています。

 おかしいです。A地くんは学校に来なくなったはずです。

 他に石を投げつける生徒はいたでしょうか?


「……なにをしてるんですか?」


 しかたなく私は聞くことにしました。

 聞いた相手は赤羽です。


「おう、木の枝にスズメバチの巣があるんだ。それに石を投げてた」


 今考えると恐ろしく頭の悪い遊びです。

 でもそのときの私は酒が入ってました。

 かなりバカになっていたのです。


「へぇーげぷ。ところでなんで石投げてるんですか?」


 私は酒臭いゲップをしながら言いました。


「だって刺されたら痛いだろ」


 私は小首をかしげました。

 だってそんなリスクのない遊びなんて面白いはずないでしょ?

 そして私は人生最大の過ちを犯します。


「じゃあ私も混ざろうかな」


 そう言うと私はダッシュしました。

 そして木に向かい喧嘩キック!!!

 どっすーん。

 ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ。


「へ?」


 おっとスズメバチに囲まれました。


「うんぎゃああああああああああッ!!!」


 辺りは大パニック。

 みんな半べそかきながら逃げます。

 事件を起こしたテロリストである私も泣きながら逃げます。


「おぎゃあああああああああああッ!!!」


 生まれてはじめて本気で走りました。

 その藤原の耳に「ぶぶぶぶぶぶぶ」という音が聞こえてきました。

 ぎゃああああああああ!

 耳の近くにいる。


 どっがーん!


 鉄パイプで殴られたような激しい衝撃がしました。

 一瞬の間を置いて刺されたのだと認識できました。


「おごごごごごごご!」


 痛い!

 人生で二番目に痛い!!!

 鉄パイプで殴られるより後が痛い。

 そんな藤原の耳にはまだ「ぶぶぶぶぶぶ」という音が聞こえてました。


「おどりゃあああああッ!」


 藤原はスズメバチをキャッチ!

 そのまま握りつぶします。

 こういうときだけ反射神経が良くなります。

 ですが頭が激しく痛みます。

 でも足は止めません。

 なぜなら死ぬからです。

 オークさん達が見えました。

 ヒャッホー!

 あそこまで逃げればゴールだ!

 私はようやく辿り着きました。


「し、死ぬかと思いました……」


 頭痛い!


「お、おい……藤原」


「なんですか」


「その耳……」


「はい?」


「倍くらいに腫れてる……」


「え?」


 その瞬間、喉が詰まりました。


「うげ、おごッ!」


 息ができません。

 この時、私は呼吸ができなくなったのです。

 私は倒れました。


「うが、おご!」


「っちょ! せんせー! 藤原が青い顔して倒れたー!!!」


 ぱーぷーぱーぷー。

 ……と言いたい所ですが実際は違います。

 事態を隠蔽したい教師どもにより私は車で病院に運ばれました。

 死んでたら証拠隠滅のために山に埋められていたに違いありません。

 そして手遅れ気味で運ばれた私は軽く死にかけたのです。

 ちゃんちゃん。


 数日後……


「お酒ください」


 私は家にいました。

 まあオークの驚異的な生命力で何とか死なずにすみました。

 なんとか元気になった私はお酒を飲みたくなったのです。

 私は冷蔵庫の缶酎ハイを開けました。


「うけけけ。お酒♪ お酒♪」


 そして口に含んだ瞬間……


 それは缶酎ハイのはずでした。

 でも私の下からは液体歯磨き……リ○テリンの味が。しかも一番エグい黄色。


「あ、あれ?」


 今度はビールを開けて飲みました。

 ○ステリンの味です。


「あ……あれぇ……?」


 日本酒も焼酎も同じ味です。

 味覚がおかしくなりました……

 そして直後に私の顔が青くなりました。

 そして吐き気が襲いました。

 もちろん吐きました。

 レインボーカラーのモザイクでお送りしてます。


 な、なにがあった?

 私は吐きながら自問自答しました。


 スズメバチの毒。

 それは私の体に変化をもたらしました。

 私はアルコールを一切受け付けない体になってしまったのです。

 だって消毒用アルコールで皮膚が溶けますもん。


 人生は理不尽の連続です。

 ちょっとの選択の差でこれです。

 私はそれから酒は自主的に飲むことはありません。

 付き合いで飲んだら必ず吐く体です。

 酒の味もわかりませんし、体が酒を受け付けません。

 幸いなことに味覚異常は酒だけですみました。

 自業自得とは言え、これはあまりにも酷すぎやしませんか?

 神様的な存在は絶対に私のことが嫌いに違いありません。

 いくら何でもこの仕打ちは酷すぎやしませんかね?

 私の前にバチを落とすべき人間がいっぱいいるでしょ!!!


 うああああああああああんッ!!!


 みなさんはスズメバチの巣を見つけても木を蹴っちゃダメですよ。

 お酒飲めなくなりますから。


 これ藤原との約束です。

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