第18話 オーガ村のオーガさん
さてとうとう赤羽くん以外への暴力に手を染めた私ですが、日常は普通に続いていました。
確かに当初は私に返り討ちに遭った説が流布されました。
でもヤンキー漫画のように次から次へと強敵が現れる展開は訪れませんでした。
Y岸が事故に遭ったのです。
今度こそ暴力の絡まない純度100%の事故でした。
それは親から貰った病院に行くタクシー代で(ジャンルは知りたくない)エロ本を買おうと思ったY岸が自転車を運転中に車にはねられたのです。
現場に性癖の証拠であるエロ本が散乱したかは定かではありませんが、Y岸が死にかけたため私の犯行はウヤムヤになりました。
結局、金魚並みに記憶を保つことができないオークさんたちはいつしか私の存在を忘れ、今度は楽しくK室くんを殴りはじめました。
世の中ってどう転ぶかわからないものですね。
今回はK室くんの話です。
K室くんは『俺の美女軍団』という妄想を常に口にしてウザがられている存在です。
私とはそれなりには会話をし友人と言える関係を築いていますが、正直たまにウザいです。
「いやさー美女軍団に囲まれちゃって困ったよー!」
ス○ートレックのバルカン人みたいな髪型をしたK室くんが言いました。
もう一度言いますがたまにウザいです。
彼は絶対にDTです。
私が黙ってスルーするとK室くんは空気を読まずに続けました。
「いやさー俺みたいな優秀な人物は叩かれるんだよ。出る杭は打たれるってやつ?」
出てますか?
がっつり底辺工業という沼地に沈んでいる気がしますが。
「ほら俺って美形じゃん。だからみんなの怒りを買っちゃうかなあってさ」
その態度が原因で嫌われているのでは?
「ところでさ今度のアニメだけどさ……」
はい私のお仲間です。
モテる要素が見つかりません。
「いやバカ! 俺は妹がいるから一緒に見てるだけなんだよ!!!」
エアー妹です。
なぜ彼は自らいじめのターゲットになりに行くのでしょうか?
私には理解できません。
私は呆れてました。
「ふふふ。俺の美しさに見とれているのか?」
Y岸に掘られてしまえ。
「ところで次は体育ですね。着替えないと」
さあ暴力の時間です。
「ああ、そうだな」
まあこれが酷い話です。
その日、私は開放感に満ちていました。
人を殴ってはいけないという社会的な抑圧が外れた私はかつてないほど動けました。
今まで私は自らの運動能力にストッパーを設けていたようです。
できないと思うからできないのです。
心が晴れ晴れしてます。
まるで生まれ変わった気分です。
さて今日は高跳びの練習です。
この学校の高飛びのルールは一つ。
最後まで立っていることです。
「死ね!」
K平がK室くんに蹴りを入れました。
K室くんはわざとらしいくらいにゴロゴロ転がります。
「なぐったー!!!」
泣きました。
なんでこうなった。
ですがK平は生粋のクズです。
K室くんの髪の毛をつかみました。
引き起こして後ろに回ります。
そしてアスファルトの上でバックドロップ!
ぱっかーん。
「ぎゃあああああああああッ!」
K室くんの頭が切れました。
K室くんが何をした。
お前K室くんに親でも殺されたのか?
さすがに流血は洒落になりませんでした。
こうしてK平は停学になったのです。
つうか停学ですむんだ……
もしかしたら私がY岸の足をへし折ったのはたいしたことではないかもしれません。
私が知らないだけで、連中は仙豆を持っているか、新しい骨が生えてくるのかもしれません。
私が骨折したら一ヶ月は痛い思いをしますが、彼らにとっては擦り傷程度なのでしょう。
やはり訂正します。
気分は晴れ晴れしてませんし、彼らと戦う気もありません。
やつらは頭がおかしいです。
高等部から落とすってやはり底の抜けたバカです。
関わるのは危険だし、人間にはできないことがあるのです。
はい私がバカでした。
中二病でした。
◇
さて、そんな私ですが二年になると後輩というものが出来ました。
いいですねー。
たった数年先に生まれただけで偉そうにできます。
学生時代だけの特権です。
HAHAHA!
私たち漫研は買い出しに出ていました。
画材を買いに行ってたのです。
とは言っても私たちは他の多くの高校の漫研と同じように目的らしい目的は持ってませんでした。
適当に同人誌を描いたり、イラストを描いたり、電子工作をしてたりしました。電子工作? まあ私です。
でも画材の種類くらいは買い出しに行きながら教えねばなりません。
と言うわけでお出かけしてました。
ちなみに中等部から二人ほど入部しました。
ある意味茨の道ですが楽しければいいんじゃないですかね?
エロ物件を買うために部室で私服に着替えて買いものにゴーです。
買いものはすぐに終わり、一度学校の前まで来て解散と相成りました。
高等部の私たちはこのあとゲームセンターに寄る予定です。
私たちは中等部の二人と別れました。
そして思い出せないくらいくだらない話をしながら歩いていました。
しばらく歩くと声が聞こえました。
「助けてー!」
私たちは声の方を見ました。
学校の側にある公園からです。
「おい行くぞ!」
建築科のOくんが言いました。
え? そんな熱血キャラ?
「ボケッとしてんな! 行くぞ!」
同じく建築科、趣味で八極拳を習っているY村くんが言いました。
なんでよー!
二人のダッシュに置いて行かれながら私もトコトコと後を追いました。
公園に着くとブレザー姿の学生三人が二人を囲んでいました。
ブレザー姿の二人は近所の大学付属校の生徒です。
それは由緒正しいカツアゲスタイルでした。
つうかブレザーの三人!
お前ら大学付属だろが!!!
中学生相手にカツアゲとか気が狂ってるのか!
まあリスクとかは話し合えばわかる人間に違いありません。
私は話しかけようとしました。
「なにやってるんだよ!」
ですが建築科の二人は違いました。
相手が私の問いに答える前にラ○ダー★キック!
いきなり攻撃した!!!
私たちオーク族もたいがいですが、建築科のオーガさんも理屈が通じません。
「よし仲間を呼ぶぞ! お前らは学校で教師に知らせろ!」
中学生は逃げました。
カッコイイ!
バカだけどカッコイイ!
私のようなモブキャラとは大違いです。
Y村くんが威嚇する中、Oが携帯で仲間を呼びます。
オーガは仲間を呼んだ。
「オドレボケコラァッ!!!」
泣き声が聞こえました。
バットで武装する集団が走ってきます。
ちなみに全員が関東人です。
「テメエコラァッ! ザケテンノカ! オラァッ!」
たぶん魔法の詠唱です。
「オラテメエラカコメ! イカシテカエスナ!」
三人をオーガが取り囲みました。
さらに後ろから声がします。
「ぶっ殺すぞコラァッ!!!」
オーク語です。
誰かがオークさんも召喚しました。
「舐められんな! 殺すぞ!」
オークさんがバットを手に突っ込んでいきます。
「げひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
あーあ、知らねえ……
帰ろうっと……
と、思った私がバカだったのです。
ぱーぷーぱーぷー
パトカーでした。
パトカーが何台も来ました。
学校外だから近所の人が呼んだのかもしれません。
とにかく近くに国家権力の召喚術士がいたのは事実です。
伝説の召喚魔法『110』です。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや。
今回は私たちは悪くありません。
中学生を助けただけです。
あとは犯罪者を現行犯で市民の権利として逮捕しただけです。
このシナリオで行きましょう。
私は召喚された国家権力に近づいていきます。
「あの中学生がカツアゲされてたので逮捕を……」
「大人しくしろ!」
そう言うと私は腕をつかまれました。
え? ちょッ! なに?
「テメエら! 大人しくしろよ!!!」
私は拘束されます。
え? ちょっとなんで?
たいーほ……
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