第8話 Sさん怒りのジャーマンスープレックス
たいへんです!
藤原が武道経験者なのがバレました。
格付けし合うDQNどもが藤原が朝からざわついてます。
とは言っても藤原は柔道は小学校のときに少し習っただけ、剣道こそ6年以上やってますが同じ道場の一番弱い女の子にボコられるレベルです。
(その後に手術した肩のリハビリで合気道をやります)
もともと根性というものに無縁な堕落しきった性格のためか、痛いのと苦しいのが大っ嫌いなのです。
某洞窟探検家とかダークソウルの主人公(序盤)よりも弱いのです。
「ふじわらー。お前武道やってたのかよー?」
自分の名前が書けないクラス一番のバカ、キングオブバカ赤羽くんが私の胸倉をつかみました。
彼は冒頭でドライバーを持ってW辺くんに襲いかかって見事に聖剣金属バットで返り討ちにあったあのゴブリンです。
私はゴミを見るような無関心そのものの表情で言いました。
「ただやってただけですよ?」
めんどくせえな。
「俺と殴り合いしようぜ!」
私が後ろからこっそり近づいて鉄パイプを振りかざした状態からならお受けします♪
「いやです」
私は痛いのが嫌いです。
「なんだよー。殴り合いしようぜー」
そのしつこさにイラッとした私は赤羽くんの指をつかんで関節が曲がらない方に思いっきり曲げました。
最近怒りっぽくなってます。
「あぎゃぎゃがぎゃぐやぎ! 折れる折れる折れる!」
バカが悲鳴をあげました。
大げさな。
関節が曲がらない方に本気で曲げても、指の関節は柔らかいので折ろうとしてもわりと折れません。
関節の遊びが他の関節よりも大きいので、ひねりながら引っ張る動作が必要です。
と言いながらバレーボールとかで簡単に脱臼するんですよね。不思議です。
なんだか虚しくなったので私は赤羽をリリースしました。
「達人か……」
赤羽は指を押さえてます。
指を曲げるのは誰でも思いつく生活の知恵程度のものだと思います。
なのにアホどもが「おおー!」とか言ってます。
もうやだコイツら。
断言します。
転生勇者プレーは絶対に楽しくありません。
「くっそー! お前覚えてろ! ぶっ殺してやるからな!」
嫌です。
口内炎が致命傷になって死ね。
私は心の中だけで罵倒しました。
あー……次のターゲットは私のようです……
その日から私の苦難は始まりました。
それは数学の時間でした。
「次、藤原。問題を解け」
私は前に出ると問題を解きはじめました。
優等生?
……夏前にもかかわらずまだ中学のおさらいですよ。
その時でした。
ひゅーん。どすっ。
びーん。
ナイフが揺れました。
黒板に突き刺さってます。
私は数学の教師を見ました。
「どうした藤原、問題を解け」
教師は見なかったことにしやがりました。
ふー。
私はため息をつくと問題を解きました。
そして自分の席に帰ると私は製図用のコンパスを取りました。
赤羽は私を見て慌てた顔で逃げました。
私は振りかぶって逃げる赤羽の背中に……
「えい」
結論を言うと刺さりませんでした。
藤原はノーコンなのです。
「ちっ死ねばいいのに!」
皆さんは気づいているかもしれませんが、藤原はすでに捨て鉢になっています。
正しいとかモラルとかはもうすでに失いました。
学校をクビになりたいのです。
ですがそんな私の行動も格付けし合うDQNにはなんの効果ももたらしません。
連中は私の襲撃を計画してたのです。
でも私への襲撃計画はある事件で頓挫します。
◇
じゅうううう。
「ぎゃあああああああああああああ!」
私以外にも捨て鉢になった同志が現れました。
電気科のSさんです。
今彼はトンカチを持って襲ってきた赤羽の脳天に充分に熱した半田ごてを突き刺しました。
「うぎゃ! うぎゃあああああああああ!」
転げ回る赤羽。
その赤羽にSさんは蹴りを入れます。
「ごびゃ!」
Sさんはゴミを排除すると何事もなかったように中断してた作業を再開しました。
これが私への襲撃事件が頓挫した後のSさんです。
Sさんは絶望していました。
こうなったのには涙なくして語れないストーリーがあるのです。
実はSさんはこのとき私と同じように格付けし合うDQNのターゲットにされていたのです。
Sさんはたいへん繊細で、かつドジっ子です。
こんな苦境は耐えられなかったのです。
「お母さん。俺いじめられてるんだ」
Sさんは母親の前で泣きました。
怖かったのです。
お母さんは息子の苦境に学校へ抗議することにしました。
いいお母さんですね。
ですが数日後に事件が起こったのです。
それは赤羽でした。
バカが放課後にSさんを殴りに来やがったのです。
(ちなみに開き直った私は漫研の入部届を書いてました)
「おうS! 殴りっこしようぜ!」
昭和の悪役のような台詞を赤羽は吐いたそうです。
そしてSさんを激しく殴りはじめました。
「や、やめてよー!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
パンチの連打。
もうSさんの心は折れてました。
「ひゃはははは! 死ねよ!」
さらに殴り続ける赤羽。
ですが赤羽は知らなかったのです。
一番怒らせてはならない人を怒らせたことに。
それは赤羽のキックがSさんの顔面をとらえた直後に起こりました。
※実は藤原は短編版を書いたときには詳しくは知らなかったので、改めて詳しく聞いたところ凄まじい話でした。
Sさんがむくりと起き上がりました。
そしておもむろに手を振り上げました。
それはラリアットでした。
いわゆる見せ技です。
実戦で使うものじゃありません。
ですがSさんは185㎝、110キロでした。
べこん。
赤羽の首から嫌な音がしました。
ですがSさん、容赦なんて一切しません。
フラフラする赤羽に本気のドロップキック。
どっごーん!
机ごと赤羽が吹っ飛び、頭を打ちながら後ろの机へダイブ。
もうすでに赤羽は流血してたそうです。
そして鬼になったSさんは虫の息の赤羽の襟をつかんで引き起こしました。
そして彼の尊敬するジャンボ鶴田のごとくバックに回り込み、腰をホールドしました。
そのときでした。
「きょうちゃん! ママが助けに来たわ!!!」
担任を伴ってお母様がやってきました。
お母様がやって来ちゃったのです。
どっごーん!!!!
それは美しいジャーマンだったそうです。
受け身など知らないゴブリンは頭から机に突っ込みました。
「きゃあああああああああああああああ!!!」
お母様の悲鳴が響きました。
担任の目の前で行われた凶行。
すでに言い訳はできませんでした。
「うけけけけ。Sは強いものには媚びへつらい、弱いものには暴力を振るう。そんなやつなんですよ。うけけけけ!」
担任が余計な事を言いました。
この親父、常に一言多いのです。
もう! 人生であんなに恥をかいた事なんて一度もなかったわよ!
Sさんは今でもその言葉を思い出すと死にたくなるそうです。
それ以降、Sさんは赤羽を同じ人間だと思わなくなりました。
藤原もだんだんと同じ人間だと思えなくなりました。
酷い話ですが、二人とも同じ心情になったので心理学的な効果だったのかもしれません。
なんとか刑務所実験的な。
こうして悪は滅び、私たちの周りはいくらか安全になりました。
Sさんは学校を辞めなかったし、私も退学レベルの事件を起こさなくてすみました。
でも少し大人になった今は……ふと思うのです。
オークだらけのクラスにゴブリンが一匹。
圧倒的な絶望感です。
赤羽くんの凶行のすべては生き残るためにしかたなくやっている事だったかもしれません……
実に悲しいことです。
でも死ねばいいと思います。(きっぱり)
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