第2話 バットは人を殴る道具です。けっしてスポーツ用品なんかじゃありません。
バットは人を殴る道具です。
けっしてスポーツ用品なんかじゃありません。
なにを言ってるかわからねえと思いますが未だに自分でも理解できません。
まずはバットのお話をしましょう。
入学式が終わり、私たち電気科が世間の洗礼を受ける日が来ました。
それはクラス替えです。
入学初日にクラス替え。
意味がわからないと思います。
それには深い理由があるのです。
私の記憶では私は情報技術科に入学しました。
プログラムやデータベースやサーバー、それに各種ハードウェアを学ぶ学科です。
CADやCAMなんかの実習もします。
そのころはまだ3Dプリンターは存在しませんけど。
そんな楽しい学科ですが……10人しか入学しませんでした。
工業ってだけで行きたがらないのです。
困った学校側は比較的人数の多い電気科と情報技術科を合併。
一部の実習は分れていますが、晴れて私も電気科の一員になりました。
偏差値-10。
もはや偏差値測定不能エリアです。
これは誇張でもなんでもなく冒頭のゴブリンは自分の名前を漢字で書けません。
おっと、外国育ちだとかそういう意味ではありません。
複数の意味で人外ですし日本語で会話しても話は通じませんが、彼は日本生まれの日本育ちです。
彼は自分の名前を漢字で書けません。
この国の教育行政への理不尽な怒りがこみ上げますが、あくまで彼の存在はイレギュラーだと思います。
だって東大出たお役人はあんな生き物見たことないでしょ!
実際に見た私だって何かの悪い夢じゃないかって思うレベルです。
……どうしてこうなった?
さて話を元に戻しましょう。
本来なら普通科と同じ本館で授業を受ける予定だった我ら10名は、
まあ世の中って理不尽♪
みんな死ねばいいのに。
さてさて、クラス替えが終わると格付けし合うDQNたちが活気づきました。
私たちオタクは彼らの奴隷でしかないそうです。
そうなると誰がオタクから抜け出すかが問題になります。
簡単に言うと誰が誰を半殺しにするかという話です。
さて、ここで問題があります。
冒頭の無軌道な暴力。
あれはいつものことです。
実は今の私は某武道の指導者資格を持ってます。
黒帯も複数の格闘技で持ってます。
他にもフィリピンの武術やイスラエルの格闘技も習いました。
ナイフなんかもちゃんと習ったので得意な武器と言えるでしょう。
でも未だに彼らに勝てる気がしません。
頭を潰しても起き上がってくるビジョンしか見えません。
半殺しって無理ゲーですよね?
私たちはお互いを見ました。
ギャルゲーと妹キャラが好きなK谷くん。
「俺は女子にもてるんだよ!」が口癖のK室くん。
ティーン雑誌を読みふけっているけど、髪の毛が油ギッシュなA地くん。
俺、ヤンキーに友達多いからと言いながらエロゲマニアのS田くん。
嘘しかつかないサイコパス、K田。
女のことしか考えてないM本。
どこまでも希薄な存在感O本。
なぜか野球部にケツを狙われる悲劇のヒロインM藤。
偏差値68だけど家がカルト宗教、H田くん。
学校に初日に持ち込んだ本がキングの※ハイスクール・パニックだった藤原ゴンザレスこと私。
※ハイスクール・パニック 著:S・キング
学生が銃を持って学校を襲撃ヒャッハーする小説。最後は全員が狂気に飲み込まれる。コロンバイン高校事件が起こったせいで現在絶版。
アマゾンで中古がまだ売ってるよ。超オススメ。
訂正します。
情報技術科も見事にクズばかりです。
このクラスには超高校級のクズが集まっているのです。
このメンツでつぶし合いをしなければなりません。
実はこの時はまだ私はクラスのヒエラルキーピラミッドに興味はありませんでした。
武道をやっていたせいで自分より強い人間がいるという現実は知っていましたし、私はこのとき交通事故で両肩を壊していて一回目の手術が終わったばかりだったのです。
はっきり言って一番弱いの私よ。
というわけで私は音楽プレーヤーで自分の世界に閉じこもることにしました。
ガッデムファックシットという罵声を脳内でリフレインしながら私は音楽に耳を傾けました。
その日はそれで終わったのです。
ちなみに私はオタクを辞める気などさらさらありません。
だってオタクを辞めた報酬がDQNとのお友達券です。
パシリと言う名のお友達券です。
なんの罰ゲームよ。バカじゃねえの?
はっきり言いますが私は誰とでも仲良くしたいなどという分不相応な願いは持っていません。
それは中学時代から一貫してます。
私と中学の教師はわかり合うことはできませんでしたし、お互いその努力はしませんでした。
教師は私の存在に価値を見いだしませんでしたし、私も教師の存在に価値を見いだしませんでした。
人間関係なんてそんなものなのです。
教師が大好きな『みんな仲良く』なんて傲慢さが生み出した虚構でしかありません。
だから私は彼らに媚びるつもりはありませんでした。
なので私は彼らの視線を無視します。
死ねばいいのに。
「おいテメエら殴り合えよー!」
意味のわからないことを電気科のY岸が言い出しました。
一言で言いましょう。
うぜえ。
ですが彼らはクトゥルー世界の生き物と同じです。
SAN値が少なめのキャラは影響を受けてしまうのです。
いあいあ。
「あうあうあうあうあうあ」
A地くんが恐慌を起こしました。
SAN値が限界だったのです。
そして彼は椅子を持って野球での推薦入学、クラスのDQN王W辺に殴りかかりました。
W辺は自前のバットを冷静に引き抜くとキーバッティング。
かっきーん。ホーム★ラン!
「ぎゃはは! だっせー!!!」
「顔押さえてる!!! ねえ痛い? 痛い?」
バカどもが血の臭いに興奮しました。
完全に新聞に載るレベルの傷害事件ですが、気にしたら負けです。
だって自分じゃないし。
さてここで重要なのは野球で推薦を受けた人物がバットで殴りました。
そこに一切の躊躇はありません。
ぜったいに過去にバットで人を殴ってます。
殴り慣れてます。
このひから ぼくは ばっとを ひとを なぐるどうぐ だと おもうように なりました まる
BGM:高校野球のアレ
このように私たちはバイオレンスの洗礼を受けました。
暴力が身近にあるとIQがガンガン下がるのがよくわかります。
でもなんで親に言わないんだって思うでしょ?
やめちゃえばいいじゃんこんな学校って思うでしょ?
「俺……学校辞めるわ」
三日は耐えました。
ママン。褒めてください。
「アンタ! あの学校辞めたらアンタの行く場所なんてないよ!!!」
母は私が五月病を発症したと思ったに違いありません。
なんせ母は私が埼玉を追い出されたダメ人間だと思っていたのです。
あまり間違ってないのが悪質です。
ですので私の言葉を良く聞かずに却下しました。
我慢さえすればいいとでも思っていたに違いありません。
でもしかたありません。
たとえ私の言葉を聞いたとしても信じてもらえなかったでしょう。
だって私の高校時代の話は誰も信じてくれませんもの。
私自身も「あれはすべて鏡花水月の完全催眠だったんじゃ……」とか思うくらいですから。
いやわりとマジで。
そのせいで一年半後にたいへんな事件が起きて母は後悔することになるんですが、それはまだ誰も気づいていませんでした。
いやだって、私だって埼玉を追い出されたクズなんですよ?
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