第3話 英語の授業。それは破滅の味。

 W辺くんにボコボコにされたA地くんは電気科の奴隷になりました。

 みんなが叩いたり殴ったりして遊んでいます。楽しそうに。

 あーあ、私が休んだときにテロリストが学校に来てみんなを殺さないかなあ?


 さて授業が始まりました。

 その前に一泊二日のオリエンテーリングがあったんですが、すべての時間が暴力に当てられるという悪夢でしかない内容だったので省略します。

 だって陰惨なだけでつまらないもん。

 A地くん……よく生きてられたね……マジで。

 つうかお前ら下がアスファルトのところでマウントパンチをするな。

 ストンピングをマジで入れるな。

 いつか死人出るからな!

 めっ!


 さて、授業は工業高校なので普通の科目はコマ数が少なめで、そこに電気やハードウェア、プログラミングなんかが入ってます。

 二年になるとCADとかも入るんですよ。

 とりあえず目標は第二種電気工事士と基本情報の取得です。

 出来の良い子だと電験三種や応用情報とかも取ります。

 出来の良い子などいませんが。

 もう一度言います。

 出来の良い子なんて想像上の生き物です。

 もうやだなあ。からかっちゃって。

 子どもなんて少年刑務所に行く子と行かない子しかいないんですよ。


 授業のはじまりと同じくして担任によるホームルームも始まりました。

 まずは初回のホームルームです。


「いいか。この学校の卒業者の一割が将来ムショに入る。途中で辞めたやつはほぼ全員がムショに入る。お前らに逃げる場所なんてどこにもないからな。以上」


 クラス全員が人生終了のお知らせを受け取ったに違いありません。

 私も少しだけ固まりました。


「あと進学希望者に言っておく」


「あーこれは私ですね」


 きっと「しっかり勉強していい学校行けよ! 世間を見返してやれ!」とかの励ましの言葉に違いありません。


「この学校に来るような知能でまともな大学に行けるとかという痛い妄想は捨てろ。金の無駄だ。働け」


「……」


 大学進学全否定。

 今だったらすべての発言が問題になるでしょう。

 ネットで晒し者です。

 ですが実はこの言葉は「みんなには明るい未来がある! 可能性は無限大だ!」っていうクソ教師よりは誠意にあふれています。

 透明性あふれる情報開示に客観的な分析、ビターだけど現実的なアドバイス。

 ちなみにこれはもの凄い死亡フラグだったんですが、それはあとから判明します。


 さてさて、朝のホームルームの後は英語です。

 英語ですよ。

 藤原は英語をまともに習ったことがないのでわくわくします。

 え? 中学?

 中学はまともに授業を受けてたら高校行けないレベルの腐れ授業でしたがなにか?

 学級崩壊がデフォの公立に期待なんかしちゃったら「めっ★」だぞ♪


 さてさて英語の先生はやや太めの男性でした。


「やあみんな! メタリカは好きかい?」


 先生とは友達になれそうです。

 私はメガデスの方が好きですが。

 いやむしろ※バーズムとかカニバルコープスとかナパームデスとかが好きです。



 ※バーズム


 ノルウェーのブラックメタルバンド。メンバーはヴァルグ・ヴィーケネスたった一人。

 ヴァルグ・ヴィーケネスは極限までこじらせた中二病の末、教会(国宝レベルの建造物)への放火を繰り返し、さらに殺人までやらかす。

 1993年に逮捕。家宅捜索で爆発物150キロと3000発の弾丸が発見される。

 懲役21年の実刑判決が下される(ノルウェーには死刑はない)。

 2009年に刑期を短縮して釈放。

 ノルウェーの教科書に載るレベルの極悪人。

 ヒップホップの方が過激だとは限らないのですよ。



 私の心にかつてない期待感が去来しました。

 過疎ジャンルの仲間です。

 ドルオタや、わけのわからんポップスや、もっとわからんヒップホップではない過疎ジャンルの仲間がいたのです。

 きっと授業は楽しいものになるに違いありません。

 授業が楽しくてなにが悪い!

 先生はニコニコしながら授業予定を話します。

 もう最高!


「さーて、今日から半年はアルファベットだね」


 はい?

 今なんと?

 ちゃんと聞こえたけど脳が処理を拒否した。

 もう一度プリーズ。


「さてじゃあブロック体から」


 ファアァァァァァァァァァァァック!!!

 ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 私の頭の中でブラストビートの爆音が鳴り響きました。

 言葉通りだった!

 ちょっと待て!

 ものすげえ初歩のおさらいから開始ですと!

 さすがにできてないとダメだろが!

 それヤバいだろが!

 奥歯からカチカチと音がしてきました。

 私は真っ青になった唇を震わせながらクラスメイトの様子を見ました。

 私以外にも憤慨している人がいるに違いありません。

 さすがに電気科の連中ですらバカにするなと怒っていいレベルです。

 さすがにこれはバカにしすぎでしょ!

 ですが全員が無反応でした。


 な、なんだって!!!


 い、いや……もしかして……まさか私一人だけ異世界転生をしたのでは……

 それは狂人そのものの妄想でした。

 それほどまでに私は頭が悪くなっていたのでした。

 たった数日で私もアホになっていたのです。

 他の情報技術科の連中も同じです。

 その証拠にクラスメイトの一人がぽつりと言いました。


「アルファベットって難しいよな」


 はい? いまなんて言いやがりましたか?


「俺、英語苦手……」


 どう考えてもヌルゲーだろが!

 Aボタン連打でクリアできるレベルだろが!

 私の荒ぶるツッコミは止まりません。

 頭の中ではブラストビートとギターそれにデスボイスが鳴り響き続けています。

 私はもう一度クラスメイトの方を見ました。

 そこにあったのは絶望感。

 こんな授業を受けた事による将来への不安ではありません。

 難しい英語への絶望感だったのです。

 このとき私の胸に去来した圧倒的絶望感は忘れません。


 つうか、おかしいだろが!!!

 プログラムの学科にアルファベット書けないやつと漢字で自分の名前を書けないやつを入学させるな。頼むから。お願いだから!

 ……ツッコミ疲れました。

 もうどうにでもなーれー。

 ……あ、※死兆星みっけ。



 ※死兆星


 漫画『北斗の拳』に登場する見たら死ぬ星。死亡フラグ。

 ちなみにこの時の藤原は乱視を発症したため隣の星がダブって見えるようになっただけと思われる。



 自分の人生がバッドエンドルートに猛突進していることに気づいた私は昼間だというのに北斗七星の近くに星を見ました。

 嗚呼、なにも知らなかった子ども時代に戻りたい。

 すでに私の心は死にました。

 でもそこで私は思い出しました。

 K池くんがいる!

 ヌルゲー学校のヌルゲー学科である電気科を留年した先輩(笑)がいる。

 いじめで自殺未遂者を出して留年した、男塾で言えば大豪院邪鬼を極限までみすぼらしくした生き物です。

 さすがに二度目だから彼なら私と同じで怒っているに違いない!


「おれ……あるふぁべっとにがてなんだよな……」


 K池オークキングがつぶやきました。

 お前も書けないんかい!!! 二回目だろが!

 ぜえ、ぜえ。はあ、はあ……

 スタミナ切れだというのにツッコミが止まりません。

 よく考えると私が自殺したいと本気で思うようになったのはこの時かもしれません。

 疲れた……もうなにも考えたくない……

 私はとうとう考えるのをやめました。

 だうーん。

 私がスタミナ切れで呆けていると一人がテロリストのように教師につめよりました。


「テメエ! 英語やるとか舐めてんのか!!!」


 え?

 英語の時間。

 英語の時間に英語をやるなとはどんな禅問答?

 どうやら私は哲学者たちの中に放り込まれたようです。


「はいはい。席について。じゃあまずはABCDEFG……」


 先生は哲学者を完全スルーして授業をはじめました。

 哲学じゃ……ない……だと……

 皆さんご存じの英語の歌です。


「えーびーしーでぃーいーえふじー」


 私は虚ろな目で歌いました。

 オワタ。

 完全にオワタ。

 私の人生オワタ。

 正直泣きたいです。

 悲しいことが多いほど人に優しくできるというのは嘘です。

 どんどんコイツらぶっ殺したいと思うようになりました。

 私が何か悪いことをしたというのでしょうか?

 露骨なまでに神様的な存在に嫌われています。


 なお、この時の光景は大分経った今でも夢に見ます。

 悪夢として。

 あーあ。みんな死ねばいいのに。

 私が手を汚すことなく。

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