第27話 オークさんの社会科見学
ぴんぽんぱんぽーん♪
前回に引き続き暴力抑えめです。
でも次から凄いです。
社会科見学です。
お前ら小学生か!
いえ違うのです。
これは重要なイベントなのです。
就職先候補の見学なのです。
マジで重要なイベントなのです。
とは言ってもすべての企業が受け入れてくれるわけではありません。
いくつかの大きい企業から一つを選ぶ形式です。
私は某県某所の火力発電所です。
就職活動するのは原発ですが似たような施設ということでしょう。
お前大学進学組じゃなかったんかい!?
えーっと……お給料聞いたらここがいいなって思いました。
ぶっちゃけ大卒より条件がいいです。
さすが電力系……パネェッ……しかも滅多にクビになりません。
使えなくてもクビにはならないのです!
Sさんも第2志望が電力系なので一緒に行きました。
だいたいクラスの半分が同じ所でした。
ちなみに一泊二日の予定です。
「Sさんはあくまで鉄道なんですね」
「準公務員だからな。身分保障は完璧だぞ」
な、なんだってー!
「そ、そんな落とし穴があるとは……」
「藤原は大学じゃないのか?」
私は同行をかっ開きながら言いました。
「先生が言ったのです。無心で溶接すれば死ぬような苦労をしなくても月XX万円もらえると」
生々しい話です。
でも社会保険もなにもかもが大手では豪華なのです。
「それに……」
「それに?」
「独身寮があります」
家から出て行けます。
宗教から解放されるのです。
宗教問題を知っていたSさんは哀れな生き物を見るような目で言いました。
「さよか……じゃ、じゃあ俺は音楽でも聴くわ……」
「プロレス名曲集ですね」
「おうよ。そういやお前は何を聞くんだっけ? アニソンか?」
私の目が光りました。
「カンニバルコープスですよ。いいですよねカンニバルコープス! 『てめえのドタマをノコでぶっ壊してやるぜ!』ですよ」
Sさんの目が曇りました。
明らかに触ってはいけないものを触ってしまったのです。
「お、おう……」
「どうですが? 聴きますか? 聴きますか? 私的にはメロディックなやつの方がいいと思うんですが、まあいいでしょう」
「お、おう……」
Sさんがイヤホンを耳に近づけました。
「ウヴォー!!! あぎゃぎゃぎゃぎゃぐぼー!!! どこどこどこどこどこ!」
デスボイスがちょこっと入ってる最近の曲ではありません。
純デスメタルです。
「いいでしょ? もっと! もっと過激なの聴きますか? はあはあはあはあはあはあ……」
ダメだコイツ。
Sさんの目はそう語ってました。
「お前の音楽の趣味だけは理解できんわ」
だって普通の音楽は恋とか愛とかありがとうばかりなんだもん。
こっちは『死ね! みんな死ね!』とかが聴きたいの!
ファッキン!
ぐだぐだの移動を経て、発電所に着くとお仕事見学です。
と言っても施設をみて「うおおおおおおッ! これが火力発電! しゅごおおおおおおいッ!」とか言える人材は工業高校には来ません。
そういうのは理系の大学とか高専に行きます。
私たちオークさんたちは機械に感動を覚えるほど知能が高くありません。
私たちはパン工場に来た小学生と同じように頭の悪そうな顔をしてました。
口を開けて「へぇー凄いねー」です。
つまりなにもわかってませんでした。
「これは電力の……」
へぇー凄いねー。
「これは制御の……」
へぇー凄いねー。
「これは毎分……」
へぇー凄いねー。
私も口を開けて「へぇー凄いねー」を連呼してました。
基礎学力が低すぎる生き物の感想なんてこんなもんです。
へぇー凄いねー。
ほとんど口を開けてスルーした私たち。
この見学の意味が全くありません。
「お、アレなにやってるんだろうな?」
Sさんが指をさしました。
私は頭の悪そうな顔をSさんの指の先へ向けました。
そこにはドリフのコントみたいに顔を真っ黒にして床に座って日の丸弁当を食べてる集団が……
「……わざとだよな?」
「わざとだよね?」
実際の業務がわからないので断言ができません。
普通に考えれば業務中なので学生に構ってる暇はありません。
でも全員が食べてる日の丸弁当がネタ臭いのです。
ご飯に梅干しだけですよ!
明らかにネタでしょ……
ですがギリギリすぎて断言ができません。
せめて冗談か本気かわかるようにしてください!
つうかこれは将来に期待してる学生に見せちゃダメだと思うんだ……
この光景が凄まじすぎて、我々はその後の施設説明や就職した後の業務の説明などは頭に入りませんでした。
◇
二日目はソフトウェア会社の見学です。
ソフトウェアと言っても普通の所ではなく、宇宙開発とか大学関係のシステムを作っている中小企業です。
こういう会社は「何を作っている?」ってのは極秘扱いなので見せられません。
その代わりに給料と必要スキルなどの質問が行われます。
「なんでしほんきんが1000万円なんですかー? じょうじょうしないんですかー?」
資本金も株式上場の意味も知らないであろうオークさんが質問しました。
ちなみに商法まで踏み込むとこの辺は本気で難しいです。
「ははは……うちはそんなに大きい会社じゃないからね」
こんだけ無礼な質問にキレないとはさすがです。
私は質問などありません。
ロボ系やりたければ高専行ってたよなあと思うのです。
中学の私! なぜ死ぬ気で勉強しなかった!!!
過去の自分に責任を被せる。
完全にダメ人間です。
「そこの人、なんか質問ある?」
私を指さしてます。
え? なにもないですよ……
あー!
もうしかたないですね。
よっこらせっと。
私は立ち上がります。
「えー、まずはクラスメイトによる失礼な発言をお詫び申し上げ……」
担任が私を強制的に座らせ言いました。
「なんでもありません」
担任はにっこりとした作り笑いをしながら私の発言を先にブロックしました。
酷いです。
ちゃんと謝罪しただけですよ。
「あははは。元気だなあ。大丈夫、社会に出たら半年で大人しくなるから」
なるかなあ?
なるかなあ?
大事なことなので二度言いました。
その後、いろいろお話をしましたが実際の業務はわかりません。
というか、この見学で我が校は受け入れ先を一つなくしたような気すらします。
就職って難しい!!!
こうして我々は現実を突きつけられていきました。
もう我々は子どもではいられなくなるのです。
だからみんなもオークさんを辞めて大人になるときが……
……なんて思った私が甘かったのです。
ここからが本番だったのです。
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