第26話 オークさんの進路
ぴんぽんぱんぽーん♪
今回は進路回なのでオークさんは出ません。
暴力シーンもありません。
でも酷い話です。
二年も冬になると進路のことが問題になります。
通常は就職とか就職とか就職です。
進学は藤原のような変人しか望みません。
だって勉強好きだったらこんな場所に来ませんもの。
就職先はわりと豪華です。
ほにゃらら電力やほにゃらら電鉄。
ほにゃららソフトウェア。
ほにゃらら銀行(ただし技術の陳腐化により30前に首を斬られる)。
藤原は大学に行く予定なので就職活動をする気はありません。
というか模試の点数が取り返しのつかないことになっていたのです。
その日も職員室にお呼ばれしてました。
職員室には先にSさんがいました。
担任はまだ来てません。
なので私はSさんと雑談をします。
「Sさん。どこ受けるの?」
「鉄道」
「鉄でしたっけ?」
「いやコネがある」
「なるほど」
Sさんは現実主義です。
ちなみに数年後に風俗のお姉さんと駆け落ちをして半年ほど行方不明になって会社を辞めるのですがそれはまた別のお話です。
「おーっす」
楽しくもない就職の話をしていると担任が入ってきました。
「来ましたよー」
「おう藤原」
担任は微妙に機嫌が良いです。
さあ進学相談会の始まりです。
「なんでお前は数学と国語だけ異常に点が良くて英語と社会が悲惨なの?」
担任が私にペンを向けました。
いきなりのお説教です。
数学は普通科の上の方。
国語は特進科入れて圧倒的にトップでした。
それで普通科の普通レベルまで落ちるのですから世の中わかりません。
「学校で習ってないからじゃないですかね?」
「おまッ! 勉強を教えるのは予備校の役目だろ!」
酷い言いぐさです。
「行ってませんもん! 疲れちゃって行く気力もありませんがな!」
本当は一度行ったのですが、同じクラスの普通科に行ってる人たちが眩しすぎてお試しだけで辞めました。
なんかキラキラしてるの。
あの空間に放り込まれるとなんだか自分がウジ虫みたいに感じるのよ。
いやマジで。
ただ生きて空気吸ってるだけで悪いことしてる気分になるのよ!
あ、すいません。
底辺工業のクズです。
エロゲみたいな恋がしたいのにケツに花火刺すバカしない学校で人生を浪費してます。
生まれてきてごめんなさい。
こんな感じですよ!!!
誰にも悪意をぶつけられてないのにSAN値がガリガリ削れるので自分で勉強することにしました。
「じゃあ理科系は?」
担任は『得意じゃねえとおかしいだろが』という顔をしてます。
ふざけんな。
「化学丸ごと習ってませんもん! わかるのも物理っちゅうか電気以外なにもわかりませんもん!」
取り返しがつきません。
「社会は暗記だから気合さえあればなんとかなるな……」
「暗記ができたらこんな学校来ませんわ!」
「これとこれとこれ来月までに覚えろ」
3冊ほどテキストを並べられました。
新品です。
「先生……もしかして私のために……」
なにこの感動ストーリー。
「いや教科書会社のサンプルの余りだ。くれって言ったらくれた」
仄暗い闇が垣間見えます。
「それ汚職……」
「なに言ってるんだ。普通科なんてもっとあるぞ。要らねえから毎年何冊も処分してるんだよ」
酷い話です。
「それとな藤原」
「はい?」
「お前文系の受験も視野に入れろ」
「はい?」
「いやだから文系も受けてみろ」
「なにを言ってるですか!? 3年間も我慢を重ねた時間を全否定とか鬼ですか!」
刑務所にずっといたような灰色の青春を返せ!
「重すぎるわ! 文系だったら国語が圧倒的なんだから社会さえどうにかすればいいだろが!」
「な、なにい! だって文系に行ったらここの連中と同じ職場になってさんざんバカにしてからポイ捨てにする遊びができなくなるじゃないですか!!!」
「どんだけ陰湿だったら気がすむんだよ! お前心にどんな闇を抱えてるんだよ!」
闇を作ったのはこの学校です。
全ての責任はこの学校にあります。
「こんなクソ学校行った時点で幸せな家庭を作るとか無理なんですから、せめてリベンジに人生丸ごと使ったっていいでしょうが!!!」
「怖すぎるわ!!!」
※全国のDQNの皆さんへ。
いじめられっ子はあなた方を潰すことはできなくても差し違えることはできます。
恨みを買うと怖いですよ?
「それは冗談として、マジで文系ですかぁ?」
「うん文系」
文系がダメだとは思わないのですが、今まで積み上げてきたものを崩すのはなかなか難しかったのです。
※3年時に血迷って芸術系大学も受験します。当時の自分が目の前にいたら馬乗りで殴ると思う。
「あー……そこまで嫌ならいいけどさ。あと、それがダメだったらお前就職しねえ?」
「就職? どこです?」
そう言うと担任はぶ厚いファイルを出してきました。
中を開くと薄い書類が数枚……
「なんでそんな大きいファイルなんですか?」
「昔は良かったよなあ……ここにたくさんの書類があって……」
「不景気っすね……」
「あーあ、第三次世界大戦起こらねえかな」
※教師の言葉です。
「人類滅ぶ寸前までの戦争起こりませんかねえ」
んで男が絶滅して世界最後の男になるの……って面倒くさいわ!
その中から先生はとあるページを開きました。
「あーこれこれ。XX電力。へえー原発ですか。これ現地採用ですよね?」
「そうそう。本当は現地の人用の求人なんだけど、東京の工業高校にもたまに来るんだよ。でもXX県は遠いからみんな受けないんだよ。お前は東京にこだわりないんだろ?」
「まあ、こだわりはありませんね」
全くこだわりはありません。
「だよなあ。お前、確か溶接の免許持ってたよな?」
「夏に興味本位で受けたアーク溶接だけですよ」
なぜか地元埼玉で講習がやってたので参加しました。
夏のクソ熱い中、デッドスペースのアイザックさんみたいな格好でひたすら溶接の練習ですよ。あと座学。
たぶん※USG石村に閉じ込められてもネクロモーフと戦えます。
ちなみにその後一度もやらなかったので今は完全に忘れてます。
※洋ゲー『デッドスペース』の舞台となる宇宙船。
中はネクロモーフと呼ばれる怪物だらけ。超怖い。
「あとは資格なに持ってるっけ?」
「英検に情報関係のがたくさんとCGにCADと製図ッスね。あと※関数電卓の二級、あとボイラーですね。国家資格じゃない方」
全部、長期休みの暇つぶしに取ったものです。
コンピューターグラフィックスだけ渋谷に取りに行きました。
※関数電卓
方程式やら三角関数やら複素数やらまで計算できる電卓。関連の資格には計算技術検定がある。
その後の人生で一度も使ってない件。
「無線は?」
一番の爆弾がやって来ました。
「陸上特殊無線落ちたの知ってるでしょ?」
シャレで受けて落ちる。
一番恥ずかしいパターンです。
どうやら私は無線に向いてないようです。
「お前……就職した方が幸せなんじゃね?」
「なに言ってるんですか! ヤリサー入って人生エンジョイする予定なんですから! うぇーい!」
「純度100%の嘘じゃねえか! お前みたいなオタ仲間からもハブにされるレベルの変人がヤリサーに入れるわけねえだろ! あと理系舐めんなよ! そんな時間ねえよ!」
「人生に絶望した!!!」
完全にバカです。
このときの私は人生を舐めきっていたのです。
いえ……正確に言うと完全に絶望して自暴自棄になっていたのです。
ちなみにこの就職先って嫌な予感がするじゃないですか?
だって原発ですもの。
うん、あの原発です。
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