第15話 便所で見つけた宝もの(いい話風)

 二年になりました。

 バカが数人消え、さらに新たな留年生の出現など濃いイベントがありましたがいちいち気にしたらこの学校では生きてけません。

 そんな日々に疲れ果てた私は……


「お兄ちゃん♪ 大好き♪」


 血走った目でマウスをクリックしてました。

 思いっきり現実から逃げ出してました。

 エロゲと暴力と酒の生活。

 酒が飲めなくなり一角が崩れた途端、全てが破綻しました。

 クソゲーすぎる人生に見切りをつけ現実逃避です。

 家では親父が「はんにゃーはんにゃー」言ってますし、学校では圧倒的物量の暴力です。

 死ね! みんな死ね! ゾンビ映画みたいにな世界になれ!!!

 私は世界の滅亡を本気で願っていたと思います。


 そんな私ですが、二年のしょっぱなに大ピンチを迎えることになります。

 風紀委員。

 暴力の取り締まりはしません。

 もっぱら服装とかを取り締まる役員です。

 ただし工業科のDQNは野放しです。反撃されますから。

 そんなわけで誰もやりたがらない役職です。

 つまり簡単に言うと私はその役職を押しつけられたわけです。

 ある日、私は担任とともに便所にいました。


「まったくなーこういう狭い隙間にタバコを隠すんだよなー」


「W辺が先生の目の前で吸ってましたけど」


「藤原……都合の悪いことは見えなくする。それが大人として生きていくためのコツだ」


 クズです。

 クズがいます。

 でも何か間違ってません。

 それでも私は嫌味を言うのをやめません。


「A木くんはXXXX(危険ドラッグ)を教室で吸ってましたけど」


 ※当時は合法です。


「……藤原も都合の悪い現実は見ない方がいいぞ」


 死ね。死んでしまえ。

 私は笑顔のまま心の中だけで罵倒しました。


「それでなんでしたっけ。くだらないタバコでしたっけ?」


 タバコの前に暴力とドラッグを取り締まれ。

 いい加減にしろやボケ。


「まあ気にすんな。でなアホどもはタバコをこういう所に隠してるんだって」


 そう言うと担任はトイレのタンクの裏を確認します。


「藤原も他の便器を頼む」


「えー。私ゴキブリ嫌いなんですけど」


 私は嫌々タンクの裏を見ます。

 なにもありません。

 タンクを開けます。

 ぱかっ。


「……」


 私は押し黙りました。


「どうしたいきなり黙って」


「ナンデモナイデスヨ」


「嘘だな見せろ」


 先生が私の所に来て無理矢理中を見ます。

 あー!

 見ない方がいいのに!

 そこにあったのはジッパー付きビニール袋でした。


「ほう……」


 先生はタンクに手を入れてビニールを出します。


「……」


「ね? 後悔したでしょ?」


 私がそういうのも無理はありません。

 中には熱帯魚飼っている人御用達の塩素中和剤ハイポにそっくりな物体が入ってました。

 なんの薬なのかは知りたくもありません。

 でも実物を見たことなくてもそれを知ってました。


「Sですね」


 覚○剤のことです。

 ちなみに現物を見たのは初めてです。


「……藤原。お前はなにも見なかった」


「がっつり見ました」


「藤原……ラーメン好きか?」


 それは慈愛に満ちた薄汚い眼差しでした。


「学校の近くのラーメン屋はマズイのでいりません」


 学校の近くのラーメン屋は冷凍のやつよりマズイのです。

 だれが買収されるか! くぺぺぺぺぺ!


「駅前の鍋ではどうだ?」


 ピクリ。

 藤原の耳が動きました。

 スッゲー高い店です。

 じゅるり。


「はあはあ、も、もうやっだなーなにも見てないですって。はあはあ」


「先生は物で買収できる子は好きだぞ」


「げへへへへ」


「げへへへへ」


 もう最悪です。


「じゃあ俺は職員室でどう隠蔽するか話会ってくるから、藤原は教室に帰れ」


「あいあいさー!」


 私は教室に戻りました。

 るんたったーるんたったー♪

 もう上機嫌です。

 お高いお高い鍋ですもの。

 うふふふふ。

 私が教室に戻ると地獄の門を見下ろす考える人みたいになった生徒がいました。

 G田くんです。

 もちろん私は声をかけません。

 面倒だからです。

 私が素通りしようとするとG田が私の手をつかみました。

 がしり。


「……なんですか」


「た、担任はなんか言ってたか?」


「『なんか』ってなんですか?」


 私はシラを切りました。

 関わりたくなかったのです。


「いや……なんでも……」


「そうですか」


 ふー。よかった面倒なことに巻き込まれなかった。

 がしり。

 またつかみやがった……


「なんですか?」


「同じヤク中のお前と見込んで頼む。なにか見なかったか?」


「おまッ! 同じヤク中ってなによ!」


 たぶん目の下の異常な隈と青白い顔のせいだと思います。

 残念。それはただの十二指腸潰瘍です。


「いいだろ。なあ、仲間だろ? 教えてくれよ。便所でSを見なかったか?」


「見てませんよ?」


 私はお高い鍋のためなら何でもします。


「本当だな? 信じるぞ!」


 お高いご飯を驕ってくれるなら本当の事を言ってあげましょう。

 G田くんは私の言葉を信じてガッツポーズ。


「よっしゃああああああああッ!」


 ふっバカめ!!!

 私はほくそ笑みました。

 うけけけけ。

 バカめ!!!

 こうして私はバカに嘘をついたのです。



「おっなべ♪ おっなべ♪」


 お鍋を食べてました。

 ヒャッハー!!!

 賄賂の味は最高ですね。


「鍋はおいしいか?」


「はいー♪」


 うんめー!!!


「じゃあ、お前も共犯者だな」


「い、今なんと?」


「共犯者♪」


 くっ殺せ!

 とは言えないのが残念です。


「……そうですか。じゃあアレはどうなりました?」


「教員の全員一致でトイレに流した」


 うわぁ……

 まさに外道!!!


「ところで……誰かなにか言ってなかったか?」


「いえそれは私の信頼の問題になりますので……」


 教えないもんねー。


「追加注文してもいいぞ。焼き鳥とか」


「はい! G田くんが発見した物体を気にしまくってましたよ!」


 「この薄汚い密告野郎め!」と言いたくなるかもしれません。

 でもここでハッキリしておかねばなりません。

 私はG田には貸しはあっても借りはありません。

 仲間でも友達でもありません。

 そしてクライアントは鍋を驕ってくれた担任です。


「そうか。シメはなんにする?」


「雑炊で!!!」


 人の不幸で食べる雑炊はおいしいれす。

 その後、G田くんは停学になりました。

 私が密告したと疑われましたが、私も中毒者だと勝手に思われていたため容疑者にはなりませんでした。

 つうか誰が中毒者じゃ!!!

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