第24話 スキー合宿2 ~Sさんの覚醒~

 ヒャッハーする暴走族を避ける苦行を負えた後、Sさんたちは満身創痍で寮に帰りました。

 テンションは駄々下がり、苦痛以外の何物でもありません。

 ご飯を食べ、風呂に入りあとは寝るだけとなりました。

 そう解放されるのです。

 Sさんはウイスキーを飲みました。

 酒を飲んで寝てしまえばいい。

 その時は甘い考えを持っていたのです。

 それは皆が寝静まってからでした。


 もぞもぞもぞもぞ。


 Sさんは全身をまさぐられる感触で目覚めました。

 財布か!

 財布なのか!

 Sさんは焦りました。

 財布の中にはお小遣いとやましいアルバイト代の残り3万円が入ってました。

 金は命より大事です。

 苦労人のSさんはそれを知っていました。


「おどりゃあああああああああッ!」


 Sさんは起きました。

 我が金を盗まんとする愚か者よ!

 死ぬがいい!!!

 Sさんは布団を蹴飛ばし、転がりながら何者かから距離を取ります。

 そしていつでもジャンピングニーパッド(飛び膝蹴り)ができるように腰を落とした体勢になりました。

 そしてSさんが見たもの。

 それは全裸のY岸でした。


「Sちゃん……す、少しでいいから舐めさせてくれよおおおおおぁッ!!!」


「ご、ご奉仕したいタイプだと!!!」


 身の危険を感じたSさんの括約筋がきゅっと締まりました。


「M藤とやればいいだろ!」


 もう必死です。

 生け贄を差し出すことを躊躇しません。


「飽きた」


 ご奉仕に飽きたらしいです。


「いいだろ? なあちょっとだけ舐めさせてくれよ!」


「絶対ヤダ!!!」


「藤原がいない今がチャンスなんだ! わかるだろ?」


 なにその酷い言いぐさ。

 ちなみにSさんは私とY岸の間に起きた出来事は知りません。

 私は高校時代の友人には未だにこの事実を隠しています。

 Y岸のこの台詞は後に「私とY岸に肉体関係があるんじゃないか?」という最悪の疑惑に発展します。

 あるかボケ!!!

 本当にバカばかりです。


「知るかバカ! 服着ろアホ!」


「な、なあ、ちょっとだけ!!!」


「死ねー!!!」


 Sさんは必死に抵抗しました。

 焦って武器になるのがないか辺りを見ました。

 武器はありません。

 その時、脳裏に藤原の言葉が響きました。


「Sさん……新聞を丸めて二つ折りにするのです。それで殴打すれば充分な威力の武器になるのです!」


 それは※ミルウォールブリックでした。

 たしか当時、ハッキング的な雑誌の別冊で読んで知っていたのです。

 要するに雑誌で見たうろ覚えの知識を適当に教えたのです。

 私はうろ覚えの知識で生きてるテキトーな生き物なのです。


 ※ミルウォールブリック

 新聞を丸めただけで作れる暗器。フーリガンが好んで使った。振り下ろすと結構洒落にならない威力がある。


 その時、週刊紙が目に入りました。

 たぶん私が買ってK室くんにあげたエロなしの週刊紙だと思います。

 もう一度言います。

 エロなしです。

 私が好きなグラビアが載ってる雑誌とかではありません!

 ないからね!


 さて普段はストロングスタイルの塩以外は認めないと公言するSさん。

 このときばかりはルチャドールの如き動きで週刊紙を拾いました。

 そのまま丸めます。


「うへへへ。Sちゃーん♪」


 Y岸がにじり寄りました。

 ぶらぶーら。

 なぜ余裕だったのか?

 Y岸は雑誌でペチペチ叩かれるのだと思っていたのです。

 この喧嘩を見ていた他のオークも同じ事を思ってました。

 周りからクスクスとオークさんたちの笑い声が聞こえました。


「絶対起きてるよな? なあお前ら」


 Sさんの叫びはクスクスという笑いでごまかされました。

 情報技術科の連中は狸寝入りをしています。

 関わりたくなかったのです。

 Sさんは思いました。

 「うん殺そう」と。

 さようなら学校!

 こんにちは刑務所!!!

 ※ほとんど藤原と同じ事を考えてました。

 Sさんは雑誌を振り上げました。


「うへへ。そんなもんは効かないよー!」


 Sさんはそのまま、迷いなく、拳槌けんついを振り下ろしました。

 簡単に説明するとグーを握ったままの振り下ろしチョップです。

 雑誌を持っていたので、雑誌がY岸の顔面に突き刺さりました。

 悲鳴もあげられずにY岸が倒れました。

 拳槌は元々丈夫な部位です。

 しかも雑誌がグローブ代わりになって、全く手は痛くなりません。

 ノーリスクのSさんは全力で殴り続けました。

 Y岸が完全に倒れると馬乗りになって殴り続けました。


「ちょッ! S! それ以上やると死ぬぞ!」


「だりゃああああああああああああッ!」


 それでもSさんは殴り続けます。

 190㎝、110㎏を止められるものなんていません。

 ボッコボコ所ではないくらいの圧倒的な暴力です。

 これが後に食品用ラップフィルムの芯だけでDQNを教育する鬼が産声を上げた瞬間でした。


 ※少し小突かれただけで死ぬほど痛いです。


 ちなみに1分ほど殴り続けたせいでY岸を殺したと思ったSさんは直ちに教師の下へ出頭しました。

 隠蔽に荷担する藤原にはできない潔い決断です。


「あー……夜に抜け出してスキーで滑ってたらコケた。みんないいな?」


 担任の大岡裁きが炸裂しました。

 誰一人逆らおうとしませんでした。

 電気科E組情報技術科T組の心が一つになったのです。

 全員、図書室で一生懸命勉強している藤原も含めて全員がクズだったのです。

 こうしてY岸は勝手に外に出てコケたということで病院に運ばれていきました。

 もちろんお医者様は素人ではありません。

 そんな言い訳が通用するはずがありません。

 どう見ても顔面を複数回殴打されてますもん。

 しかも刑事事件だと判断した場合には通報義務があります。

 でもお医者様も人間なのです。

 よそ者が起こした事件には関わりたくないのです。

 だって面倒でしょ!

 こうして事件は完璧に隠蔽されました。

 とは言っても全て伝聞なのでどこまでが真実かはわかりません。

 ただ帰って来た後、Sさんの扱いはまたもや変わりました。

 クラス一の危険人物として。


 ちなみに二日目もマッドマックスみたいな感じだったそうです。

 行かなくて良かったわー。

 マジ行かなくて良かったわー。


 ちなみに進学校ではないため三年時にあった修学旅行はもっと酷いものでした。


 もうホントに全員死ねばいいのに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る