第6話 A地くんは止まらない 2 ~オーク王の大遠征~
ごおおおッ!
それは炎でした。
電気の実習から帰った私たち情報技術科の子羊たち。
それをスプレー式火炎放射器の炎が我々を襲いました。
しかもスプレーは殺虫剤です。
調子にのったオークキングK池が我々を焼き殺そうとしたのです。
転生勇者に会ったら3秒で肉塊に変えられるレベルの行為です。
つうか人に向けたらだめだろが!!!
「ぎゃああああああああッ!!!」
A地くんに被弾。
ワーニン! ワーニン! ワーニン!
A地くんが転がりながら火を消します。
(大げさに書いてますが実際は制服と髪の毛が燃えた程度です。でもA地くんはブロッコリーみたいな髪型になりました)
我々は我先にと逃げ出します……っていつまでもやられてると思うな!
「死ね!!!」
誰かが大型のケーブルカッターを投げつけました。
もちろん殺すつもりです。
投げたのは藤原ではありません。
「どわああああ!」
オークキングが避けました。
ちッ! 死ねばよかったのに。
何度も言いますが投げたのは藤原ではありません。
「誰だ! 危ねえだろ!」
殺虫剤火炎放射器を人に向けるアホに言われたくありません。
それは丸ノコで冷凍マグロみたいに解体されても文句が言えない行為だからね!
藤原じゃなくて、匿名の誰かは野郎を殺す道具はないかと周囲を見回しました。
残念なことに刃物は相手しか持ってません。
どごんッ!
困った藤原は野球部の席を蹴飛ばしました。
やっぱりあった。
ダンベルです。
これだったら30回くらい顔を殴り続ければ相手を無力化できるはずです。
こんな学校、退学上等です。
最悪捕まっても、あることないこと言いふらして被害者ぶる準備はできています。
がんばれ匿名の人!
「ちょッ! お前それは死ぬからな! やめろよ!」
火炎放射器の炎を浴びせてきた野郎がなにを言ってやがるのでしょうか?
いいから黙って死ね。
匿名の人は生まれて初めて人様に洒落にならないレベルの暴力を振るうことにしました。
K地くんは焦った顔で匿名の人に火炎放射器を向けます。
「死ねよ! この下等生物が!!!」
お前にだけは言われたくないわ!!!
突っ込む気力も絶え絶えでしたがもうそれも今日で終わりです。
さよなら高校!
こんにちは少年院!
匿名の人がダンベルを振りかぶりました。
K池くんがスプレーを発射。震える手で火をつけました。
匿名の人が大ピンチ!
ちゅどむ!
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
匿名の人ではなく、オークキングが悲鳴をあげました。
まだ匿名氏はダンベルを投げていません。
一体なにがあったのか?
それは恐ろしい光景でした。
缶が爆発したのです。
温度なのか圧力なのか?
すべてを揉み消した今となっては原因はわかりません。
幸いK池はオークだったのでちょっと血が出ただけですみました。
その後、近くに総合病院があったのでK池は先生に運ばれていきました。
そして翌日には停学処分になりましたとさ。
この事件以外にもW辺(野球部兼糸○流黒帯)に喧嘩で負けてボスザルの座から顛落させられたとか複数の理由がありますが、K池くんは5月に学校からフェードアウトしましたとさ。
めでたしめでたし……
……なぜ新聞に載らなかったのでしょうか?
今でも不思議でなりません。
VRMMO『人生』 ~オーク王の大遠征~ END
※学校関係者の皆様へ。藤原ゴンザレスからのお願い。
いじめで火炎放射を行うような危険人物を高校に入学させないでください。
周りが危険にさらされます。
◇
サ○エさんをエクストリームにしたようなアヴァンギャルドそのものの髪型をしたA地くんがニコニコしてました。
言いにくいことは外来語にしてごまかすのが一番楽ですね。
そんなダメダメ人間藤原は短い人生で一番驚いてました。
「あなた神奈川県民ですよね?」
私は固まりました。
なんでいるんでしょうか?
そこは藤原の巣がある埼玉県。
朝の通学に使っていた駅でした。
藤原の前にいるのはA地くん。
残念なことに眼鏡っ娘の幼なじみではありません。
「やあ! 一緒に学校行こうよ!」
「……なぜに?」
私の方もここで「死ね!」とか言い出すほど不条理慣れしてないわけではありません。
ただ驚きは隠せませんでした。
まだ友達と言うほどは仲良くなかったのです。
「友達だからさ!」
誰と誰が?
おかしいです。
どうしてこんなよくわからないフラグが立っているのでしょうか?
「さ、遅れるよ!」
なんでしょうか?
この嫌な偽幼なじみポジション。
なぜ神は私にあからさまな嫌がらせを仕掛けてくるのでしょうか?
人生へのやる気をなくした私がため息をつきました。
「はあー……」
私たちは東京行きの電車に乗り込みます。
すぐにドアが閉まり電車がガタンガタンと揺れました。
車内で私は必死に考えてました。
神奈川から埼玉某所まで約一時間。
今は朝の七時半。
六時半に電車に乗ったとして、そこから予想される起床時間は四時から五時半。
……いつ寝てるんだコイツ。
私は少し怖くなりました。
なぜ美少女アイドルとかではなく汚いオークにつきまとうのでしょう?
意味がわかりません。
その時でした。
軽い絶望は人生のスパイスです。
私の脳裏にある考えが浮かんだのです。
ルートを変えてしまおうと。
XX駅からXX線に乗って逃げてしまえばいい!
明日から時間も変えよう。
逃げてしまえ!
次の駅に着くや否や私はダッシュしました。
短足で足は遅いといえども土地鑑は我が輩の方が上!
撒いてくれる!!!
ぬははははははは!!!
あっと言う間に私は人混みに消えました。
そのままXX線のホームになだれ込みます。
タイミングよく電車が来たのでぱんつ一丁で暗殺任務に挑むゴルゴの如き動きで電車に飛び込みます。
よし撒いた!!!
「ふう、今回はピンチでした……」
私は額ににじむ汗を拭きました。
さてこれで拒否の心は伝わったことでしょう。
つかいきなり家に押しかけてくるキャラを友達にするのは死亡フラグのような気がします。
ばんばん。
「ふー」
ばんばん!
ドアが揺れました。
「はい?」
私が見たもの。
それはホームで列車を全速力で追いかけるA地くんでした。
あわわわわわわわわわ!!!
ですが、しょせん人力です。
あっと言う間に引き離され見えなくなります。
たたんたたん。
たたんたたん。
たたんたたん。
たたんたたん。
ガチで漏らしそうになりました……
私は二度と人に優しくしないことを心に決めたのです。
VRMMO『人生』初心者プレイヤー攻略の手引き。
・中途半端な同情はしない
・人を殴るときは殺すつもりで
・他のプレイヤーは絶対に助けないこと
・底辺工業高校生を無力化するにはダンベルで顔を30発くらい殴ろう
さてさて、そんなA地くんですが実はこの後に他のプレイヤーさんの家を突き止めて突撃したり、通学に使っているバスを特定して突撃したりしたため、誰にも相手にされなくなりました。
そして6月から学校に来なくなり、12月頃にまるで消えるように退学していきました。
ストーカー。
そう言っていいのかは未だにわかりません。
でもこれだけは言えます。
彼もまた底辺工業のオークさんだったのです。
もしかするとA地くんはアニメ業界で元気に生きているかもしれません。
……テキトーなことを言いました。
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