15 海賊軍団の襲撃 対瀬戸内バイキングス (後編)

 一回の裏、マリンズは因島の前に、元町、富士、アンカーと次々に倒れ三者凡退。無得点を二十二イニングに伸ばした。

 二回の表、立ち直った壺は六番丸亀、七番来島、八番安芸を絶妙なコントロールで打ち取った。

 二回の裏の前、マリンズは円陣を組んだ。

「きみたちさあ、大池コーチのことバカにしていない?」

 風花が言った。

「してませんよう。しているのは監督」

 と返すのはお調子者の元町だ。

「それどういう意味?」

 風花がムキになると、

「そんなことどうでもいいぞい」

と宗谷が二人のやりとりを止めた。

「そうだ、そんなことはどうでもいい。それより、大池コーチはこう言ったはずだ。変化球は捨ててストレートを狙えと。元町くん、君は何を凡打した?」

「カーブですよ。因島のストレートなんて早くて打てないっすよ」

「富士くんは?」

「スライダーです。ストレートだと思って振りました」

「アンカーは? 沈没さん通訳して」

 風花は通訳の沈没さんに指示した。

「ストレートだそうです。コーチの指示にしたがったと言っています」

「みろ、元町くん。アメリカ人は上司に忠実だな。それに比べてお前たちは好き勝手にやっている。これがマリンズ低迷の理由だ。今後コーチの言うことを聞かないと、ものすごい罰が待っているからな。覚悟しろよ」

 その間に円陣に参加せずバッターボックスに立っていた、トラファルガーが因島のストレートをバックスクリーンに放り込んでいた。これで一点差。さらに続く、これまで全くいいところがなかった台場がライトスタンドへ二者連続ホームラン。これで同点。試合は振り出しに戻った。


 三回の表はピッチャーの因島からの攻撃だ。1アウトは固いと風花は甘く見ていたが、因島は執念でボールをよく見、ストライクはファールで粘るという、風花お得意の待球作戦をとり、根負けした壺はフォアボールを出してしまった。

「なんだよ。ピッチャーにフォアボールかよ。亀岡くんが恋しいなあ」

 風花は自軍の選手に野次を飛ばした。

 打順は一番に帰って小豆島。

「セーフティバントがあるぞ」

 風花は大声で叫んだ。うなずく壺と氷柱。警戒してボールから入る。続く第二球、バントのしにくいカーブを低めに投げる。すると、まさかの因島スタート。カーブはワンバウンドして、氷柱は二塁に送球できず。盗塁成功だ。ノーアウトランナー二塁。カウント2−0。

「ここはランナーピッチャーだし、送りバントはないな。やるならやっぱりセーフティバントだ」

 風花は読む。

 慎重になりすぎた壺は、小豆島をストレートのフォアボールで歩かせてしまう。ノーアウト一二塁。風花はマウンドに突っ走った。

「よう、壺くん。何ビビってるんだ。あんたには七色の変化球があるんだろ。幸い二塁ランナーはピッチャーだ。走ってこないだろう。最高のピッチング見せてくれよ」

 と言ってお得意のメガフォンでお尻を叩いた。顔が真っ赤になる壺。

 バッターは二番、伊予。初球を手堅く送りバント。1アウト二、三塁。バッターは長曾我部、チャンスに強い人気者だ。敬遠して塁を埋めるか? 勝負するか? 氷柱がベンチを見ると、風花はいなかった。

(ええ、なんで?)

 氷柱は焦った。焦って、横須賀兼任コーチの顔を見ると、笑っていた。宗谷コーチは微動だにしない。

(これって、自分たちで決めろってこと?)

 慌ててマウンドに走る、氷柱。

「どうします?」

 ミットで口元を隠して話す氷柱。

 壺もグローブで口元を隠し、

「勝負だ」

と言った。

「分かりました」

 氷柱はホームに戻った。

 試合再開。バッターは長曾我部。初球、内角に直球。打ったー。がサード正面。三塁ランナー因島塁に戻れずダブルプレー。バイキングスは興居まで回せなかった。


 三回の裏は壺からの攻撃だったが、風花はスッパっと代打を出した。

「代打、大和」

 開幕戦で、代打ホームランを打っている大和が登場。大歓声が上がるがあっさり三振。今度はスタンドからため息が漏れる。続いて登場は元町だ。

「俺、ストレートしか打たないもんね」

 と独り言を言ったが、それを敵のキャッチャー安芸に聞かれ、変化球攻めにあって2ストライクをとられた。

「むむむ、変化球打ちに変更」

 思ったことをすぐ口に出す元町だ。安芸はほくそ笑むとストレートを因島に要求した。すると、

「ひっかかったな。いただき!」

すくい上げた打球はライトスタンド上段に入るプロ入り初ホームランだ。(オープン戦、始球式は除く)

「なんでだよ」

 安芸がブーたれると、

「これが本当のささやき戦術」

元町は言い放った。

 これで3−2。マリンズ勝ち越し。


 四回表から、マリンズのピッチャーは日本丸一にほんまる・はじめに代わった。日本丸は宗谷コーチに似た体型で、よく間違えられる。重い速球が得意球である。力士のように大きな手で包み込んで投げるボールは岩のようにバットに食い込み遠くに飛ばさせない。その代わりスピードは140キロそこそこである。体の大きさを利用して思いっきり投げればいいのだろうが下半身が案外細くて、体重を支えきれないのだ。

 さて、バイキングスは四番の興居の登場だ。こちらも巨漢。巨漢どうしの対決だ。相撲ではないよー。

 第一球、重いストレート。興居見送る。ストライク。第二球変化球だ。興居強振。鋭く落ちてストライク2。第三球は外に外してボール。カウント1−2。第四球、内角にストレート。興居打った。ライトスタンド方向に打球が飛ぶ。入るか? いや届かない。潜水捕ってアウト。惜しいあたりのライトフライ。1アウト。

 ここで、遍路監督が五番の室戸に囁く。

「セーフティバントであのデブの下半身を攻めろ」

「はい」

 うなずく、室戸。バッターボックスに入る。初球。おっとバントの構え。日本丸前進。室戸バットを引いた。ボール。第二球。またバントの構えだ。日本丸突っ込んでくる。これまたバットを引く室戸。ストライク。これは巨漢の日本丸にはきつい。第三球。またバントだ。今度はやった。セーフティバント。日本丸捕って一塁に送球。きわどいがセーフ。次は丸亀の登場。初球。あっ、バントの構え。日本丸前進。バットを引いた。ボール。肩で息をする日本丸。ついにフォアボールを出してしまう。続く来島が疲れて威力を失った日本丸のストレートをレフト前ヒット。室戸帰って同点。

「ちくしょう。日本丸くん。減量して出直しだ! 審判、ピッチャー住友」

 えっ? 昨日完投したばかりの住友純一郎の登場だ。

「純一郎、体力は有り余ってるよな」

「はい、監督」

 住友は投球練習でビシビシ速球を投げる。それを見た遍路監督は、

「いかん。打てそうもないピッチャー出されたわ」

とほぞを噛んだ。

 住友は四回1アウトから八回までパーフェクトピッチング。一方、因島も気迫のピッチングでマリンズ打線に追加点を与えない。試合は九回までもつれた。


 九回からマリンズのピッチャーは大陸に代わった。同点の場面だが、信頼できるリリーフがいないので仕方のない登板だ。大陸はバイキングス自慢のクリーンアップを三者三振に仕留めて、味方の援護を待った。

 一方バイキングスも抑えの切り札、山ノ内龍馬やまのうち・りょうまを送ってきた。ところが山ノ内、チームの負けがこんで登板間隔が空いたため、制球が定まらない。三番、アンカー。四番、トラファルガー。五番、台場と歩かせて、六番門脇との勝負となった。その第一球。ワー、頭部に直撃の死球。押し出しサヨナラだが、門脇立ち上がれない。おっと風花監督、山ノ内に突進した。応戦する山ノ内。風花得意の相撲に持って行った。すくい投げだ。なおも倒れた山ノ内を蹴りつけようとするのを宗谷コーチが必死に抑える。その間に両チーム大乱闘だ。審判団が止めようとするが勢いがすごくて止められない。近年稀に見る大乱闘になった。その時、サイレンがなって大乱闘は止んだ。グランドに救急車が入ってきて、門脇を乗せる。

「試合は終わっていない。まず山ノ内投手は危険球で退場。風花監督は暴力行為とチーム管理の責任を持って退場。遍路監督もチーム管理の責任を持って退場。あと全選手に厳重注意します。罰の方はコミッショナー事務局が決めます。宗谷監督代行。早く代走を告げてください。それでゲームセットです」

 末永主審が叫んだ。

「へい、代走屋形」

 屋形が一塁まで走って、アンカーがホームイン。押し出しサヨナラが成立した。しかし、後味の悪いゲームになってしまった。


 幸い、門脇は軽い打撲ですみ、脳に異常はなかった。しかし、今後の選手生命に関わりかねない死球であった。

 なおコミッショナー事務局より、発表があり、風花監督は厳重注意と罰金百万、遍路監督は厳重注意と罰金三十万。他の選手、コーチ全員に罰金十万が課せられた。この罰金は震災の被害に遭われた方に送られることとなった。

 

 

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