第15話

(……こ、これは……!)




俺は目の前の光景に息を飲んだ。

どこにでもあるポプラに似たその木に、ぼんやりと鈍く光る木の実が一つだけ実っていたのだ。

その光りは、脈動するようにわずかに光りの強弱を放っている。




あの老人の言った通り、鶏の卵より一回り小さなその実…




(これが、不老不死の実なのか…?

いや、そんなことはない…出現すると言われた年はもう何年も過ぎてるんだ。)




俺は恐る恐る果実に腕を伸ばし、震える手でその実をもぎとった。




「あっ!」




取ったと同時に光りが消えた。

俺は、その実をポケットに突っ込み、足早に家に戻った。

何度も後ろを振り返り、尾行している者がいないかと注意しながら…

言い伝えのせいか、新月の夜は森どころか町にも人影は少ない。

俺は、誰にも見られることなく家に戻ることが出来た。




長椅子に座り、酒を一杯ひっかけてから、俺はポケットの果実を取り出した。




「う…」




片手にすっぽりとおさまったその実は、真っ白だということがわかった。

赤いような黄色いような色だと思っていたのに、実際にはその実は白く、俺はそれを見た瞬間、先日の伝言を思い出し、背中に冷たいものを感じた。




(そうだ…あの伝言には白と黒の実と書いてあった。

だが、これは白だ。

黒なんてどこにも…)




果実をひっくり返しては、あらゆる角度から眺めた俺は、あることを思い付いた。




(……まさかな…)




俺は、近くにあった果物ナイフで、実を真っ二つに切り分けた。




「うわっ!」




真っ白な皮に包まれた果実の中身は、その対極の黒だった。




(白と黒の実は毒の実……)




俺は、身体からすーっと血の気が引いていくのを感じていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る