第22話
十年が近付いた頃、俺はミシェルにすべてを打ち明けた。
老人から聞いた不老不死の果実をみつけて食べ、それ以来、俺は年を取らなくなった事、そのことで気味悪がられないようにあちこち転々としていること、以前の妻や娘には悪魔だと思われ捨てられたこと…
ミシェルはとても信じられないといった表情を浮かべて話を聞いていたが、それでも俺と一緒にいたいと言ってくれた。
俺はミシェルを連れて町を離れた。
打ち明け話を聞いてからも、ミシェルの態度は、少しも変わることはなかった。
改めて彼女に、信頼感というものを感じた。
彼女が支えのように思えるようになった。
時は過ぎ…何度目かの移動の時には、俺とミシェルは周りから母子のように見られるようになっていた。
その頃には、もうミシェルを女として見ることは出来なくなっていたが、その代わり人としてこの上なく深い愛情を感じるようになっていた。
誰よりも信頼出来る唯一無比の大切な存在…
そんなミシェルが老衰で死んだ時、俺の心は粉々に壊れた。
俺はまたひとりぼっちになった…無限に続く時の中で、孤独と不安に覆い尽される日々がまた始まるのだ…
支えを失った俺は、衝動的に自分の心臓にナイフを突き立てた。
激しい痛み、噴水のように赤い血が吹き出て、悪寒を感じ気分の悪さに吐きそうになった…
だが、これでようやく俺はこの長い地獄から解放される…
死ねないという苦しみから解放されるんだ…!
そう思ったが、その痛みと苦しみは終わりがなかった。
あまりの痛みに意識を失ってはまた気が付き、再び激しい痛みにもだえ苦しむ…その繰り返しだった。
いつ終わるともわからない苦しみがようやく終わったのは、確か、一週間程した頃だった。
その時には俺が刺した心臓の傷はほとんど消えていた。
俺は年を取らないだけじゃない。
俺の肉体はどれほど損傷を受けてもそれを治してしまうのだと、その時いやという程思い知らされた。
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