第6話
『俺は、おまえ達とは違う。
親父のことを裏切らないのは俺だけだ!
俺だけが親父のことを心から愛しているんだ!』
頑なで未熟なつまらないプライドが俺の背中を押した。
一泊の宿賃にも満たないはした金と何枚かの着替えを持って、俺は故郷を離れた。
後悔はすぐにやって来た。
暗闇がそれほど恐ろしいものだとは俺は考えたことすらなかった。
町の片隅で震えながら明るくなるのを待った。
そして、空腹…
木の実と水だけで、育ち盛りの俺の腹が膨れることはなかった。
空腹を忘れたくて、寝てしまいたいのに眠れない…
今なら戻れる…
許してもらえる…
何度も故郷の方へ足を向けてはまた引き返す。
十五の子供にしては、俺は意志が強かったのだと思える。
それから、俺は最初の犯罪を犯した。
畑の作物を盗んで食うという小さな犯罪だったが、その時の心の葛藤は今でも忘れられない。
物を盗むということが悪いことだとわかっていたから。
迷い…躊躇い、結局、俺は本能からの欲望に負けた。
暗い畑に座り込んで、むさぼるようにその葉を口の中に詰め込んだ。
美味くなんてなかった…しかし、それでも俺の腹は満たされた。
生き延びることが出来た。
いつか、謝りに来よう…そう思う事でのしかかる罪悪感を無理矢理に打ち消した。
不思議なもので大きな壁を一つ越えてしまうと、その後は最初程の罪悪感を感じなくなった。
俺は、次に畑の傍にあった作業小屋に入り込み、ランプと油を盗んだ。
おかげで、夜の闇も以前程怖くはなくなった。
何かを得れば、不安は不安でなくなることを俺は学び、悪い事をした後の罪悪感が薄れるのと同時に奇妙な自信を感じるようになっていた。
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