第5話




そう…あの日はこんな空じゃなかった…

もっとずっと沈んでた。

まるで俺の心を表すかのような暗い鉛色が広がって、湿った雨が降っていた。




大好きだった親父が亡くなって、一年も経たないうちにおふくろは違う男と暮らし始めた。

あの頃の俺は最も多感な年頃で、そんなおふくろのことが許せないような気分になっていた。

今思えば、あの男は悪い奴ではなかったことがはっきりとわかる。

おふくろや俺や弟のことをとても大切にしてくれて、親父の墓参りも何度か一緒に行ったことがあった。




元気だった親父が、突然、何者かに刺し殺された時のおふくろの嘆きようは尋常なものじゃなかった。

おふくろも後を追ってしまうのではないかと思う程、酷くうちのめされていた。

それを救ってくれたのがあの男だ。

経済的な面でも精神的な面でも、あの男は俺達を助けてくれた。

そう…今、思えばあの男には感謝こそすれ、憎むべき理由等ひとつも思い当たらない。

なのに、当時の俺はあいつのことが憎くてたまらなかった。

親父のことを簡単に裏切ったおふくろも、あの男に懐いた弟も、まるで本当の家族のように家に居座るあの男のことも、すべてが憎くてたまらず、俺はある日、書き置きさえ残さずにこっそりと家を出た。




行くあても頼れる者もいない心細い旅立ち…

それを決断させたのは、偏に家族へのあてこすりのようなものだったのかもしれない。

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