第7話

一人で生きることにもそれなりの自信が付き、故郷のことをあまり想わなくなったある小雨の日の午後……




俺はあの老人と出会った。




大きな木の根元に背中を預け、ぐったりとした様子で座りこんでいたその老人を見た時、俺は老人が死んでいるのかと思った。

痩せこけた手足、まばらな髪…

俯いて半分隠れた顔は土のような色をして、唇も白い。

怖ろしかったが、かといって素通りすることも出来ず、俺は恐る恐る老人の傍に近付き、声をかけた。

すると、老人はゆっくりと頭を上げ、虚ろな目を開いた。




「あ、あの…大丈夫ですか…?」


「あ…あぁ…大丈夫だ…ありがとうよ…」




消え入りそうな声でそう言うと、老人は再び目を閉じた。

老人の体調が良くないことは、医者でなくとも容易にわかる。

こんな雨の中に放っておいたら、余計に具合が悪くなることも予想が付いた。


俺は、老人を背負って走り出した。

最初は放っておいてくれと言っていた老人も、俺が止まらないでいると何も言わなくなった。

まるで子供を背負っているような軽くて固い骨と皮だけの身体の感触…

走っているうちに死んでしまうのではないか…

そう思うと、怖くてたまらなかった。

俺は泣き出したいような気持ちを懸命に堪えながら、ただひたすらに走った。




医者に診せる金等持ってなかったが、町に行けば親切な誰かがなんとかしてくれるのではないか…

そんな願いにも似た想いを支えに、俺は小雨の中を走り続けた。



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