第33話

「や、やめてくれ!」


俺は父さんの振り下ろすナイフを交わしながら、なんとかナイフを取り上げようとしたがなかなかうまくいかない。

父さんはそれを俺の反撃と思ったのか、揉み合いはさらに激しいものになった。

ナイフを奪い合いながら、全力でぶつかりあい、もつれるように倒れ込んで絡み合う。




「う…うぅっ…」


不意に発せられた父さんのくぐもったうめき声と共に急に感じた生温かい感触……




「あ…あぁっっ!」



俺は真っ赤に染まった自分の両手に驚きの声を上げた。


揉み合っているうちに、ナイフが父さんの胸に深く突き刺さっていたのだ。




「と、父さん!

しっかり!しっかりするんだ!」




俺は、父さんの身体を揺さぶったが、その身体はぐったりとしもはや何の反応も示さなかった。




(……ど、どうしよう…

俺は……俺は父さんを……)




その時…俺の脳裏を恐ろしい記憶が過った。




(そ、そんな……父さんを殺したのは俺だったのか…!?)




時間の仕組みは、俺もまだよくわからない。

だけど、俺の父さんは刺し殺されて、結局、犯人はわからず仕舞いで…




それは、俺が殺したからだったのか…!?




俺は、信じがたいその現実に全身の力が抜けるのを感じながら、がっくりとその場に膝を着いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る