第32話

俺は、ディッキーを殺ったビーム銃を懐から取り出し、狙いを定めた。

……遠い。

俺は、こんな銃を手にしたのも初めてだ。

ここからだと間違いなく失敗してしまうだろう。

もう少し近くからにしようと立ちあがった時だった。




「何をしている…」




俺は背後から聞こえたその声に聞き覚えがあった。

ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは愛しく懐かしい俺の父さんだった。




「と……」


俺は言いかけた言葉を思わず飲みこんだ。

鼓動は速くなり、父さんに駆け寄って抱き締めたい気持ちを必死で押さえた。




「今、俺の息子を撃とうとしていただろう!」


「ち…違うんだ、俺は…」


「うるせぇ!」




父さんはすっかり頭に血が上っていた。

それも無理のないことだ。

俺は父さんの息子を殺そうとしていたのだから。

だが、本当の事情を言える筈もない。

また言う暇もなかった。

父さんは俺に掴みかかって来たのだから。

昔の俺なら敵うはずもなかったが、今の俺は父さんと対等に闘えた。

父さんに痛い想いをさせるのはいやだったが、そうは言っても俺はどうしても早急に俺を殺さなくてはならないし、話し合いも出来そうにない。。

どうしたものかと考えながら、俺は父さんに捕まらないよう…ぶちのめされないように必死になって応戦した。




「畜生、この野郎!

俺の大切なアランになんてことを…!

許せねぇ!」




なかなか決着が着かない格闘に逆上した父さんは、ポケットからナイフを取り出し構えた。

父さんは本気だ…

俺を守るため、命を賭けて闘おうとしている。

その熱い想いには感動したが、しみじみとしている暇はなかった。



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