第8話




「残念だが、長くはないだろう…

こんなになるまで生きていたのが不思議なくらいだ。」


「えっ…!?」


そんなことは薄々わかっていたはずなのに…何の縁もなければ名前さえも知らない人なのに、医師からはっきりとそう言われると、俺は妙に衝撃を受けてしまった。




幸いなことに、町に着くなり俺はそこに神父の姿をみつけた。

内心、ものすごくほっとしたのだが、それでも何と言えば良いのかと俺は戸惑い、言葉を捜してまごまごしているうちに、神父は俺の傍に駆け寄って事情を訊ねてくれた。

俺がありのままを伝えると、すぐに俺達を教会へ案内した。

神父は若い神父に医者を呼びに行かせ、老人をベッドに寝かせて濡れた身体を丁寧に拭いてくれた。




医師の診断が終わった後、俺は久し振りにまともな食事にありついた。

老人を助けたことを誉められ、身元を訊ねられた俺は、両親が亡くなったので故郷を離れ、都会に行って働こうと思っていると嘘を吐いた。

神父に嘘を吐く事は心が傷んだが、そうでも言わなけりゃ家に連れ戻されるかもしれないと思ったからだ。

神父は俺の言う事を信じ、しばらくはあの老人の世話をしながら教会で働く事をすすめてくれた。

おかげで、ありがたいことに、俺はその晩から温かなベッドで眠ることが出来るようになった。

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