第12話




老人が亡くなってからも、神父は俺を教会で働かせてくれた。

神父の道を歩んでみないかと持ちかけられ、それも良いかもしれないと考えながらも、俺の心の中にはずっとあの老人の不老不死の果実の話が居座り、片時も離れることはなかった。

半年近くが経った頃、俺は老人の家族を探したいと嘘を吐き、町を離れた。




馬鹿げていることは十分にわかっていた。

だけど…あの老人が…いや、その祖父や父親もが命を賭けて追い求めた夢なんだ。

不老不死の果実はなくとも、もしかしたらそういう伝説の源に辿り着く事は出来るかもしれない。

それを俺がみつけられたら、あの老人はきっと喜んでくれるはずだ。

俺には行くあてだってない。

だったら、それを探すことを道標にすれば良い。


神父は、十五の俺には手が震えるような金を持たせてくれた。

今にして思えば、それ程驚くような金額ではなかったが、子供だった俺には大金だった。

いざという時のために、極力使わないようにしながら旅を続け、行く先々で俺は仕事をみつけては真面目に働いた。




十五年の歳月はあっという間だった。

いつの間にか、俺は立派な大人になっていた。

好きな女にも出会ったが、所帯を持つ気にはなれなかった。

……あの老人の不老不死の果実のことが、俺の心の中にしっかりと刻み込まれていたからだ。

始終、そのことを考えているわけではないのだが、いつしかそれは俺の人生の生きる目的のような存在になっていたのだ。

果実を探すことが、まるで当たり前のことのように俺は感じるようになっていた。

心のどこかでは馬鹿げたことだとわかっているのに、だけどやめることは出来ない。

好きな女よりもずっと大切な存在になっていたのだ。

だが、果実が実るとされた十五年が過ぎても、まだ地図の場所はみつけられないままだった。

今度、果実が実るのは百年後…

どう考えてもその頃俺が生きている道理はない。

いや、端からそんなものがあるとは考えていない。

その木の場所を付き止めることが重要なのだから、俺は十五年を過ぎても躊躇うことなくその木を探し続けた。

もしかしたら予想には数年の誤差があり、今なら間に合うかもしれないという気持ちが心の片隅にあったのも事実だ。

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