ひまえび

　主人公ソラの強みが、最初から「勝てる力」ではなく「積み上げる余地」として置かれている点が、この作品の読みやすさにつながっている。Cランク止まりで切り捨てられ、家賃も払えない現実か…続きを読む

　『レオナルドとベアトリーチェ』は、冒頭の『ある女の死』で毒と嫉妬の破壊力を突きつけ、その惨劇が後の宮廷へ火種として残り続ける構えが鮮やかである。愛が宝石であり、同時に危険な薬でも…続きを読む

『ねーうしとららん』は、誰もが知る十二支の昔話を、神々の会議という「決め方」の場面から組み替えて見せる。担当神が得意げに「ねー、うし、とら、らん」と読み上げた瞬間、会議の空気が一段…続きを読む

　題名どおり「失敗したことがない男」を、腕前ではなく発想のねじれで立てたのが巧い。村長に「狩りはしたことあったか？」と問われ、「ありません。でも失敗したこともありません」と胸を張る…続きを読む

　『由衣ちゃんの血を舐めたい。』は、寒い朝のだるさ、給食のけんちん汁の温度、教室の風の唸りみたいな「身体の手触り」から、じわじわと心の奥へ入ってくる物語だ。小5の世界の解像度が高く…続きを読む

　神話の大事件を、現代日本にそのまま投げ込む乱暴さが気持ちいい。イシュタルの口調も行動も遠慮がなく、読者のツッコミ待ちみたいに暴れてくれるから、読む側は振り落とされずに笑える。 …続きを読む

　『桜坂に残る声』は、春の光と花びらの動きに「声」を溶かし込み、読者の耳にだけ残る約束を鳴らし続ける作品である。教師という立場が効いていて、生徒の笑い声や何気ない一言が、過去の恋の…続きを読む

　地球が星間連合に加盟し、日本人サラリーマンの清田が単身TA－11星へ営業に向かう。そこで出会うのは、生魚の匂いが立ちこめるお茶、やたらと巨大な取引先夫婦、そして「アドーレイ！」と…続きを読む

　本好きなら一度は妄想したことがある、「このレジの人が、今買った本の作者だったら」という夢。それを実際にやらかして（？）しまったのが、このエッセイの作者です。ゲーム会社から地元の書…続きを読む

「ならば私がインタビュー！」は、作者とインタビュアーがどちらも志草ねなという、脳内二人芝居のセルフインタビューエッセイです。書籍化の見込みがないことをあっさりネタにしつつ、「どうや…続きを読む

　「ヒーローになりたい」と願いながらも、教室では舌を噛んでクラスに溶け込めないクロエ。そんな彼女が、夜になると黒衣に身を包み、寮の屋上から校舎の屋上へ影を伝って跳び移り、満開の夜桜…続きを読む

神話から始まり、雲海と断崖、機械竜とドラゴンライダーへ一気につながる導入が、とても心地よく胸に入りました。ドラゴンと人の慢心が世界を何度も作り変えてきた神話が、そのままロンたちの「…続きを読む

　三題噺に挑戦しようとしてまったく何も思いつかない高校生・素宙電人。その「書けなさ」にジタバタする姿が、まずとても等身大で笑えます。お題が「フレミングの左手の法則」「滝廉太郎」「ア…続きを読む

学校の中心で会議が息をする――職員室が草原に切り取られ、電気も通信も絶たれたその瞬間から、物語はサバイバルと日常の境目を確かに歩き始める。頼れる校長と切れ味鋭い教頭、気配りの養護教…続きを読む

　量子計算の硬質な輝きと、都市の影に立つ少女の体温が同じページで鼓動する――そんな物語です。最新のTSP（巡回セールスマン問題）やアダマールゲートといった語彙が出てきても、焦点はつ…続きを読む

　架空投稿サイト『よみかき』で、高校生の美紀奈と辛口だけど優しい朋子が、創作の『あるある』を笑いに変えて教えてくれる連載コメディ。読みやすさの基礎と『最低限のリサーチ』が、軽快な掛…続きを読む

　瀬戸内の『ミカン王国』を舞台に、国語教師・虹子の小さな日常が、はっさくの香りとともにふわりとほどけていく全4話の連作短篇。玄関をふさぐ『コンテナでおすそわけ』から始まり、「これは…続きを読む

開幕から一気に引きこまれました。主人公は『成り代わり』で異世界に来たシリアルキラー。静かな語り口に黒いユーモアが混じり、重い題材でも読み口は軽やかです。難しい言葉に頼らず、情景と行…続きを読む

神々の確執と世界の崩壊を神話調で開く導入が見事で、その流れのまま現代の物語へ滑り込む筆運びが痛快です。見どころは2つ。まず、神官見習いキプスが当番中に見た『白衣の女と一角獣』の夢─…続きを読む

『役立たずとパーティーからもこの世からも追放された無気力回復師、棚ぼたで手に入れたユニークスキル【銀化】で地味にこつこつ無双する！！』は、『弱い自分でもやり直せる』を明るく見せてく…続きを読む

『消えた駅の秘密』は、都市伝説の『うつろい』を手触りのある感覚で描く、静かな恐怖と郷愁の物語です。最初のハイライトは、古びたレンガ塀に触れた瞬間に冷風が走り、凍りついたような静寂と…続きを読む

『RELOAD ―0.1秒の奇跡―』は、憧れと挫折が『チーム』へと熟していく手触りが生々しい。プロローグで伝説の「0.1秒クラッチ」に胸を撃ち抜かれた主人公が、第1話で神代司から「…続きを読む

『「お助け先生」マリアさん、指導に恋に大忙し！？』は、教室の温度と心の鼓動が同時に上がる快作でした。初日、登校を拒むガイウスにマリアがしゃがんで目線を合わせ、金糸で縫われた犬の刺繍…続きを読む

『指を賭けたじゃんけん』という極限の単純ルールが、人の心の温度差と嘘の重さをむき出しにする快作でした。無機質な部屋、プレゼン調で淡々と進行するミスターX、手の選択制限や賞金テーブル…続きを読む

りょーめんさんの『皇女は異能の者たちと躍る【本編完結】』、序盤から胸を掴まれました。開通式の爆発と瓦礫の少女に誓う「この土地を変える」が物語の芯。トロイメア（新市街／旧市街／東岸）…続きを読む

りょーめんさん、『聖女は皇女を狙っている』拝読しました。霧雨の街道から迷宮都市〈ソルディム〉へ滑り込む導入の清涼と、「聖女は皇女の命を狙っている」という宣言の鋭さが、胸を一気に掴み…続きを読む

ここグラさん、いつも更新ありがとうございます。※16話までの感想です。 のり子の「人を観る目」と「寄り添う心」が、事件の緊張と日常のやわらかさを行き来させ、読むたび胸がきゅっとなり…続きを読む

読んだ部分だけでも魅力が伝わる、あたたかい日常ファンタジーです。文体がすっきりしていて会話も軽やか。2DKの部屋に、信吾・美沙・ゴンちゃんの『家族感』が自然に根づいていきます。 …続きを読む

物語は、白菊とユリの匂いに当てられて主人公が頭痛になる場面から始まる。とても印象的な書き出しです。平成2年7月27日という日付が、じめっとした夏の空気をはっきり感じさせます。水瀬ミ…続きを読む

本作が狙うのは、海・呼吸・手順が結び合う具体の連鎖によって「男同士が救い直していく」過程を静かに可視化することです。第1話で燃え尽きた湊人が久遠島へ帰郷し、ポスターの『青』が錆びた…続きを読む

とにかく推したい開幕10話。神戸港に入る客船「チカプカムイ」へ誘われる第1話の高揚から、「孔雀の羽のステンドグラス」「虹の噴水」「果樹園とパゴラ」と、豪奢なのに体温のある景色が次々…続きを読む

著者の観察眼と論理の切れ味は痛快で、会話だけで学校という小さな社会の歪みを次々に見せます。皮肉は辛口でも当事者を笑いものにせず、読後に考える余白が残るのが魅力です。「校則」ではポニ…続きを読む

暗いサーカスの現実と白百合の清さが強く対比され、ステリアとアシュレイの物語がはっきり始まります。 「花が力になる」という発見と神々の加護の設定が、恋の気配をまっすぐ支えます。 読者…続きを読む

応援したくなる快作。志草ねな『密室殺人できるかな』は、30周年特番『推理スペシャル』で『密室トリックが決まらない』混乱を、笑いと風刺に昇華した業界コメディ。冒頭の決めゼリフ「これは…続きを読む

胸に刺さる、とびきり優しい短篇でした。・みすみ・さん『おやすみ、親友だったひと』は、嫉妬と愛情が同じ手つきで同居する瞬間を、息を呑む筆致で切り取っています。冒頭の「ふわり」で始まる…続きを読む

ユーディーさんの筆が冴えわたる一作。〈魔水晶〉や〈ギルド〉、〈処刑課〉、通貨〈ツカ〉まで生活と戦いが噛み合う世界観がまず圧巻です。「崩壊まで五日」のカウントダウンが物語を強く牽引し…続きを読む

率直に、とても楽しいコメディ短編でした。仕掛けの小ささ（簡易版）と結果の大きさ（天気予報が外れる）がズレとして効いていて、〈……〉で入る冬野のツッコミがテンポ良く読ませます。「…人…続きを読む

タンスを開けたら狼男がいる――その一行で心を鷲づかみにされたのに、読み進めるほど、笑いと祈りと痛みが幾重にも香り立つ物語でした。第1話、嵐の中を〈ニケ〉と進む青年が油紙に包んだ「小…続きを読む

まず、タイトル勝ち。そして中身はもっと面白い。日常の不調やメンタル、他作品に影響されやすい瞬間まで、「創作しないほうがいい時」をユーモアと実感で描いたエッセイです。冒頭のぶっ飛んだ…続きを読む

核心は「縛る契約より、信頼で結ぶ」だと強く感じました。カルメアが用意した“絶対的忠誠”の魔法契約を、フレメーリがその場で破り、魔法《点火》で燃やす場面は象徴的です。ここで二人は、命…続きを読む

　悪役令嬢×百合×ARPG転生を、軽妙な一人称と堅実な設計で牽引する快作である。魔王城の冒頭で「バフ…じゃなくて」とメタに滑り込む掴みが巧い。 　見どころは“痛み”の実在感だ。魔…続きを読む

若い夫婦の“日々の手触り”がやさしく描かれた最良質の作品です。夕立の帰り道、彼が傘を差し出し「僕の後ろへ」と庇う場面に胸が温かくなります 。その前に彼女が吊るしたてるてる坊主も、ふ…続きを読む

応援レビュー（10話到達おめでとう！） 海乃マリーさんの「毎日更新チャレンジ・好きなもの」は、長さは控えめでも体温はしっかり。正直さとユーモアが素直に立ち上がる“等身大日記エッセ…続きを読む

応援レビュー（3だけではなくシリーズ全体のレビューです） ・みすみ・さんの『少女未満のわたしたち』シリーズは、少女たちの「痛み」と「芽生え」を、手触りまで届く具体（ペンケースの重…続きを読む

ましら佳さん『偃月刀と強欲な慈鳥』、第1〜10話を拝読。まず目を奪うのは宮廷の熱量と息づく生活感。夏至祭の舞台で戴勝と目白が一躍寵愛を受け、総家令の立場も動く政治の“温度”が、場面…続きを読む

GYAKさんの『描線眼鏡　または師匠の異常な情熱』第1話から第10話まで拝読しました。確かに緻密な構成で、一度流れに乗ると引き込まれる面白さがあります。 まず魅力的なのは、「描線…続きを読む

・みすみ・さんの『少女未満のわたしたち（「みつけた日」）』を拝読しました。忙しさで出遅れ、一番乗りでレビューできなかったのが本当に悔やまれます。私の心に深く突き刺さる作品でした。 …続きを読む

志草ねなさんの『彼女の運命は私が決める』は、創作の舞台裏と物語世界が巧みに絡み合う、極めてユニークで知的なエンターテインメント作品です。 特筆すべきは、主人公・芽吹の脳内に擬人化さ…続きを読む

ユーディさんの『リーゲンのスキルハント』は、怒涛のテンポと濃厚なアクションが魅力の痛快バトルファンタジーです。主人公リーゲンの「能力を奪い、自らの力に変える」というシステムは、読者…続きを読む

物語全体を通して、著者の世界観づくりとキャラクターの掘り下げが際立っていた。本編は、銀行強盗から少女を救い「神」と名乗った少年ひょうが自らの力と存在意義に悩む第１章から始まる。覆面…続きを読む