年の瀬てぇと、長屋住まいの貧乏人にゃ掛け取りの期限てぇのが相場なもので。
どいつもこいつも汲々として十も言えねえありさま。
ここで素浪人の熊さんが、明ける年は腹ぁ決めて身の振り方変えるってんです。
八百屋の八さんは、卵を並べながら思案顔。
はてさて、どうなりますやら。
市井に住む者が、つましい日々のなかでより良い生活を目指そうとする決心。
併せて、ムリをして身を立てる危うさへの助言を描いた落語調の物語です。
お題である〝卵〟にかけて以下の語が擬えられています。
ただし、笑いを解くのは野暮の極みです。
技巧の解説として確認したい方だけ以下をご覧ください。
卵の殻を思い通りににならない〝暮し〟〝現状〟
殻の白さをまだ定まらない〝ゆく末〟
白身と黄身を〝より良い未来〟〝定まらない未来〟
それぞれの意味が卵に係る言葉に擬えられています。
また熊さんが武士だけに〝割卵〟と〝割腹〟を暗喩として置いています。
ムリをしての現状打破が、身の破滅にならないように戒めてもいます。
言葉遊びと人情物らしい人物の愉快な会話劇であり、ほっと一息つける物語です。
どうぞ、ご一読ください。
『朝飯前の誓い』は、「卵」という小さな題材を、年の瀬の長屋と八百屋の空気にすっと溶かし込み、読む側の腹まで温めてくる一席だ。熊さんの貧乏浪人という立場が先に置かれるので、「卵を眺める」という動作そのものが切実で、そこから言葉が転がり出す流れが自然である。
特に印象に残るのは、熊さんが卵を手に取って「新年に書き込む願いってのは、この殻みてえだ。中身は白紙、割り方次第」と見立てを立て、そこへ八っつぁんが「覚悟がねえと、何も出てこねえぞ」と返して、笑いながらも話を現実へ着地させる場面だ。卵の殻は確かに薄いが、割り方を誤れば台所が汚れる。その生活感があるから、「生き方を変える」大げさな誓いも、誇張に見えず、むしろ年の変わり目らしい小さな決意として胸に残る。最後に八っつぁんが「割るのは卵だけにしときな」と釘を刺し、熊さんが「まずは卵一つ、腹八分」と照れて引く。この順番の良さが、落語の型を守りつつ、読後感を軽くしている。