サ終迫るVR世界で首なしボスが自由に暴れ、笑いと哀感を残す怪作一読必至

 サ終まで3か月という期限を、世界の終末ではなく「生き方の選び直し」に変えてしまう導入が強い。首なし騎士のダンジョンボスであるクローカーが、自意識を持ってしまったがゆえに、労基真っ青の24時間労働と孤独を笑いながら告発し、そのまま「プレイヤーになりすまして家出する」と踏み切る。皮肉とテンポが良く、読者の視線をぐいっと引っ張る。

 途中まで読んだ範囲で特に印象に残ったのは、武器屋【剣商 矛盾】で獣人商人ミスティルテインに捕まる場面だ。距離感のバグみたいな絡みがコメディとして跳ねる一方で、鑑定魔法【深淵をのぞくとき】が発動し、クローバー(偽名)のステータスが「対プレイヤーだけ異様に強い」と露見する瞬間に、彼の正体が一気に危うくなる。そこへ「有名さ(悪名でも可)で火力が伸び、ページにキルログが刻まれる本の戦槌アンクラーゲ」が提示され、笑いと背筋の冷えが同じ棚に並ぶ。ボスとして積んだ過去が、プレイヤーとしての未来を増幅させる仕掛けが、設定の見せ方として鮮やかだ。

 さらに、VRの外へ視点が切り替わり、ミスティルテインの中の人が散らかった四畳半でゴーグルを外す場面が効いている。ゲーム内の過剰な明るさや過激さが、現実の息苦しさの裏返しとして立ち上がり、物語がただの悪ふざけで終わらない。サ終作品にしか出せない「今しかない」という焦りと、だからこそ人が本気になる温度が、地の底でずっと燃えている。続きも、枝イベントの駆け引きと、クローカーが「消滅」へどう抗うかを見届けたくなった。

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