赤い花を握る無力な書商が、記録で運命を折り返し頂点へ挑む緊迫譚必読作
- ★★★ Excellent!!!
@kairo_archeさんの『十九歳に戻った村の書商は、契約した魔女と共に人類の頂点を目指す』は、滅びの夜の手触りを最初に刻みつけてから、やり直しへつなぐ導入が強い。特にエピソード0で、限界の鋼の守護者がトレイアウルスの前に膝をつき、言葉の代わりに赤い花を差し出して、背を向けて魔物の群れへ身を投げる場面が効いている。戦える者の勝利ではなく、逃げ延びる者の記憶が物語の芯になると、ここで読者に分からせる。
そのあと黒猫から魔女リナへ、禁じられた契約へと迷いなく踏み込むが、主人公の武器が「書の刻印」である点が、転生ものの既視感を外してくる。坑道で「音のしない足音」に気づいた瞬間の冷え、爆ぜた空気、そして生存そのものが新しい本に変わる流れは、成長の納得が「勝った」ではなく「記録できた」に置かれていて気持ちがいい。書商が戦闘の中心に立たず、情報と更新で戦場の形を変えていく予感が、連載を追う楽しみに直結している。
細部では、主人公名がトレイアウルス/トラヤウルスと揺れる箇所があるので、表記を統一すると読みやすさがさらに上がるはずだ。白柱の都市に入ってから「力で回る都市」の空気が濃くなってきたので、書の刻印が都市の仕組みそのものに噛みついていく展開を期待している。