第8回カクヨムWeb小説コンテスト 大賞受賞者インタビュー|緋色の雨【恋愛(ラブロマンス)部門】

2024年2月1日11:59まで応募を受け付けている、第9回カクヨムWeb小説コンテスト
かつて、応募者の皆さまと同様にコンテストへ応募し、見事大賞に輝いた受賞者にインタビューを行いました。
大賞受賞者が語る創作のルーツや、作品を書き上げるうえでの創意工夫などをヒントに、小説執筆や書籍化への理解を深めていただけますと幸いです。

今回は、12月28日発売回帰した悪逆皇女は黒歴史を塗り替える 1の著者、緋色の雨さんにお話を伺います。

第8回カクヨムWeb小説コンテスト 恋愛(ラブロマンス)部門大賞
回帰した悪逆皇女は黒歴史を塗り替える(緋色の雨)

kakuyomu.jp

──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

 きっかけはいくつかありますが、しいてあげるなら小学生時代にロードス島戦記を読んだこと。そして中学時代に自分で書いた小説を友人が面白いと言ってくれたことです。自分の世界観を人々の心に残したくて作家になりました。

 影響を受けた小説は『ロードス島戦記』『文学少女シリーズ』『Unnamed Memory』『オーバーロード』『86-エイティシックス』など、数えきれないくらい多くの作品の影響を受けました。それに小説以外の作品からも多くの影響を受けています。マンガやアニメ、映画などの物語は言うに及ばず。最近は声優や音楽家など、様々な分野で活動する方々の世界観や、その生き様からもインスピレーションを得ています。

 構成技術で参考になった本はシド・フィールドの脚本術。
 彼が生み出した三幕構成を基礎として、多くの作品を参考にしながら、現代に合わせた構成を構築しています。

──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

 誤解を恐れずに言えば、今作はオリジナリティのある設定なんて少しも考えていません。『回帰した悪逆皇女は黒歴史を塗り替える』(書籍化で改題)は、いわゆる悪役令嬢モノの派生作品です。
 皆様の中には、テンプレという言葉に悪いイメージを持つ人が多いのではないでしょうか? 自分もただのテンプレで終わってしまうことはよくないことだと考えます。ですが同時に、テンプレとは宝石の原石であると考えています。そして、そのテンプレという宝石の原石を磨き上げたのが王道です。
 しかし、王道は一つではありません。テンプレと同様に、同じジャンルの中にいくつもの王道があります。であるのなら、その王道にも改良の余地はあるのではないでしょうか? 王道を更に磨き上げればどれだけの輝きを放つのでしょう? 今作はそこを目指して書き上げました。
 選考委員や読者の皆様に支持していただけたのもその点だと考えています。

──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。

 一番気に入っている登場人物はアリアドネです。
 回帰前の知識と記憶を武器に、権謀術数に塗れた世界で他を圧倒する頭脳。人心を掌握する圧倒的なカリスマ。こうと決めたら決してためらわない心。アリアドネは多くの読者の憧れになるような存在として描きました。そうして出来上がった完璧な彼女に年相応の弱さを与え、人間らしさを表現してあります。

 ストーリー展開でこだわったのは、キャラクターの行動原理を単純にしないことです。
 善と悪に分けるのではなく、それぞれが求める未来のために信じる道を行くようにしました。ゆえに、彼らは味方を裏切ることを厭わず、敵と手を組むことも厭いません。それは彼らが悪人だからではなく、己の求める未来のために前に進む『人間』だからです。
 味方だけではなく、敵側の人間も愛されるような作品を目指しました。 

──受賞作の書籍化作業で印象に残っていることを教えてください。

 担当編集者さんの異才な手腕です。
 表紙を見ていただければそれだけで伝わると思うのですが、色合いや構図が異質な表紙になっています。
 編集者さんが手掛けた作品を以前から知っていて、今作も同じようにとお願いしたんですが、予想よりずっと異色で、ずっとずっと素晴らしいカバーにしていただけました。と言いますか、あの色合いはまだ想像できましたが、まさか逆さまのイラストになるとは夢にも思いませんでした。
 構図を見た直後、絶対これでお願いしますと伝えたほどのお気に入りです。
 またその制作過程に触れることで、どうやったらあのようなカバーを作ることが出来るのか、その考え方の片鱗を知ることができました。
 とても貴重な体験だったと思います。

──書籍版の見どころや、Web版との違いについて教えてください。

 さきほどもお伝えしたように、今作は洗練した王道を行く作品です。ウェブ版はただの王道ではなく、洗練された王道作品。書籍版はそこから更に限界までブラッシュアップし、今作の魅力を限界まで引き出した作品となっています。
 また、この後の質問にて後述していますが、今作は三幕構成に改良を加えた独自の構成を使っています。その構成に仕込んだギミックは書籍で読むことを前提としているため、ウェブで読むよりも書籍として読んだときの方が楽しんでいただけると思います。

──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんな中で、ご自身の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

 さきほど、今作にはオリジナリティのある設定を入れていないと言いました。
 けれど、構成においては独自の構成を反映しています。
 具体的に言うと、三幕構成を四幕の構成に改良しました。
 四十数年前、名作映画の共通点をもとに作られたのが三幕構成です。しかし当時は娯楽が少なく、また映画は映画館で見るのが主流でした。そのため、三幕構成は面白そうであることと、面白かったという結果を生み出すことに重きを置いています。
 映画館で途中退席する人は滅多にいないという背景があるからですね。

 ですが、現代は娯楽に溢れています。
 特にウェブ小説は毎日のように誰かが新作をアップしていて、読む候補はいくらでもあります。
 そのため、目にとまることが重要で、興味を持っても最初の数行で読むのをやめる人も少なくありません。ライトノベル、特にウェブ作品は序盤に力を入れる必要があります。ラストが面白くなければ評価が得られませんが、序盤が面白くなければそもそも読まれないからです。
 その対策として、今作は王道を使いました。王道を使うことで、類似作品のように楽しめるのだとプロローグ単体で分かりやすく明示してあります。その上で第一幕を短くし、一幕だけでも楽しめる短編のような展開にして、テンポを上げるために、エピソードごとの文字数を少なめにしました。
 これらが、序盤で読者を飽きさせない工夫となっています。

 けれど、一話ごとの文字数が減った分、三幕構成のエピソード数で作ると長編に満たない文字数になってしまいます。そこで、更に圧縮した三幕構成のエピソードをラストに加えました。エピソード4までが圧縮した三幕構成で、エピソード5が凄く圧縮した三幕構成となっています。こうすることで、一冊の中で二冊分のエピソードが展開されるため、小説を読み慣れている読者はあっという間に読み終わったと錯覚する。
 ――というのが、今作の構成コンセプトとなっています。
 実際にそうなっているか作者の自分は体感できませんので、ぜひあなた自身が体験してください。

──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

 需要を知り、己の武器を知ってください。
 自分は二つのウェブ小説投稿サイトで活動していますが、某サイトに対し、カクヨムの読者数は数十分の一以下です。これはカクヨムの問題ではなく、自分の書くジャンルや作風と、サイトの相性によるものです。
 そのため、同じように複数のサイトで活動していても、カクヨムの方が読者が圧倒的に多いという人も多くいます。
 重要なのは需要に合わせること。これはコンテストや市場、レーベルでも同じことが言えます。どこかでは四半期一位をとるような作品であっても、公開/応募する場所を間違えれば見向きもされない可能性がある、ということを知っておいてください。

 ただし、これはコンテストや書籍化、多くの人に物語を届けるために必要な技術です。それらが目的でないのなら、書きたいモノを書くことに制約はありません。創作は本来自由なモノなので、自分が何処を目指しているのかで判断することをおすすめします。

 ――と、色々と書きましたが、自分もまた上を目指す道の途中です。
 数年後にはまったく違うことを言っている可能性だってあります。だから皆さん、人の意見を参考にすることは重要ですが、それを鵜呑みにはしないように気を付けてください。一番大切なのは、多くの意見を取り入れた上で、自分なりの答えを出すことだと思います。

 最後に、このインタビューがなにかを頑張るあなたの力になることを願って――

                                  緋色の雨

──ありがとうございました。


関連記事:カクヨム出身作家のインタビュー記事一覧
kakuyomu.jp