12月1日から応募受付が始まった第8回カクヨムWeb小説コンテストは多くのカクヨムユーザーの皆さまにご参加いただき、例年以上の盛り上がりとなっています。12月19日現在の応募数は長編:約7,450作品、短編:約5,050作品です。
そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。受賞者が語る創作のルーツや作品を作る上での創意工夫などをヒントに、小説執筆や作品発表への理解を深めていただけますと幸いです。
第2回目は明日12月20日に書籍が発売される『俺だけデイリーミッションがあるダンジョン生活』の著者、ムサシノ・F・エナガさんです。
第7回カクヨムWeb小説コンテスト 現代ファンタジー部門大賞
ムサシノ・F・エナガ
▼受賞作:俺だけデイリーミッションがあるダンジョン生活
kakuyomu.jp
──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。
小説を書きはじめたのは会社に就職したくないなぁと思ったのがキッカケでした。小説家になろうで作品を投稿しはじめまして、そこで書籍化して上手い事売れっ子作家になって、印税生活が出来ればいいなとか思いながら始めたんです。どうやら甘くはないとわかったのはそのあとでしたが。
影響を受けた作品はライトノベルならオーバーロードや俺ガイルかなぁと思います。漫画ならワンパンマン、ゲームならブラッドボーンなどの影響は常に自分のなかに感じます。最近ではエルデンリングで有名なフロムソフトウェアの傑作です。またSCP財団コンテンツのテイストや、クトゥルフ神話系の物語も私のアイディアの土壌には常にあると思います。
──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?
オリジナリティに関しては言えばデイリーミッションかなぁとは思います。あとはスタンダードな素材を使いました。現代を舞台にしたダンジョンもの。モンスター倒してレベルアップ、大金ゲット! 王道的で外れない素材です。こういった素材を使ったのが成功の秘訣かなぁと思っております。というのも、私はどうやら王道を外すのが好きなようでして(自覚は薄いです)、いつも変な展開にしたがるんです。なので題材を王道的に外れづらいものにし、そこにひとつまみのデイリーミッションを添え、あとは私の奇妙な料理の腕のままに任せました。結果として、王道的な面白さをしっかり押さえつつ、デイリーミッションという題材と作者の変なところでを足せました。おかげで、いい感じに独自性が宿った多くの読者に受け入れられる作品になったのかなぁと、個人的には思っています。
▲2022年12月20日発売『俺だけデイリーミッションがあるダンジョン生活』のカバーイラスト(イラスト/天野英)。
──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。
主人公:赤木英雄とヒロイン:修羅道の関係性は気に入っていますね。修羅道はいつだって自信に満ちていて、赤木英雄を強引に導いていくんです。ダンジョンを取り巻く奇妙な世界のなかで、どうすればいいか、どのように振舞えばいいか、彼に示唆を与え、時にミステリアスな一面を見せます。赤木英雄はあくまで読者と等身大の主人公で、そうしたダンジョンを取り巻く世界へ足を踏み入れていくことになるのです、古典的ですが、主人公が謎めいた美少女の手で日常から非日常へ巻き込まれる展開は、とても気に入っていますね。
▲本作の主人公・赤木英雄と、ヒロイン・修羅道のキャライラスト。
──受賞作の書籍化作業で印象に残っていることを教えてください。
イラストのイメージを共有する作業では結構、学びを得ることになりました。編集者さんを通してイラストレーターの天野英先生にイラストを起こしてもらった時に、実は赤木英雄のコートが短めでした。あと他にも微妙に変えてほしいなぁと思ったところがありまして、キャラクター原案の段階で要望を出すことになりました。最初からバシッとイメージを正確に伝えられていれば、天野英先生に要望を出し直すこともなかったので、そこに関しては次からイラストイメージはあいまいにせず共有していこうと思った場所でした。
▲天野英先生による迫力満点の口絵イラスト。
──書籍版の見どころや、Web版との違いについて教えてください。
書籍版の見どころはいろいろあるのですが、大きな加筆箇所としてヒロインと主人公の冬キャンプがあります。WEB版では序盤の赤木英雄と修羅道のからみがやや少なめなので、そこを補う形で加筆した部分となります。面白く、また一時的にラブコメ的な甘酸っぱい雰囲気になりますので、ぜひぜひ楽しんでいただけると嬉しいです。
──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?
このインタビューの回答欄は私の実施したすべての投稿戦略と作品戦略を書き記すにはやや手狭ですので、今も意識していることを、いくつか答えさせていただきます。
まずは投稿時間です。常識的な感覚でみんながスマホを触っていそうな時間に投稿しています。ただし厳密に投稿時間を気にする必要はないです。ひとまずは17:00~00:00くらいのどこかで投稿していれば問題はありません。
次に題材です。オリジナリティのある作品を書きたい? ランキング上位にあるようなありきたりな物語は書きたくない? でも読まれたい? これらは私の欲求です。オリジナリティを出しながら、読まれたいので、王道的な素材9割に個性的な素材1割をいまは心がけています。変な思想の人間が個性的な素材で料理をしては大惨事です。素材くらいは外さない努力を心がけています。
長くなってきたので最後です。最後はタイトルです。タイトルの長さは作品を伸ばすうえで重要な要素ではないと思っています。ただタイトルが果たすべき仕事はあるとは思います。作品がどういうものであるか、作品に関連するキーワードをわかりやすく入れる事です。結果としてタイトルが長くなります。俺だけデイリーミッションがあるダンジョン生活。主人公だけがデイリーミッションなる特権を持っていて、ダンジョンに挑むんだなぁ──と思えるでしょうか? 意外と短くて、シンプルなタイトルでしょう。ほかにも短いタイトルで伸びている作品は数多くあります。しかし、そのどれもが重要なポイントを押さえたタイトルになっています。ウェブ読者に作品の世界観の広がりを伝えることができています。ただし、こんな自慢げに語っていても、他にも無限に効果的なタイトルの付け方はあるのを知っています、なのでこの項の最終回答は、ウェブ特有の空気感を掴む、とさせていただきます。とにかく、ウェブ小説にはウェブ小説特有の効果的なタイトルの付け方があります。もし伸びたいのならそれを知り、実施する必要があります。
──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。
私が作品投稿をはじめて4年が経ちました。幸運にも大賞という名誉な賞をいただけました。今は良い時代です。かつてならば作家になるためには公募に応募して半年、あるいは1年後の結果発表に一喜一憂し、そこでダメだったら次に挑戦していたことでしょう。ウェブ小説なら何度でも挑戦できます。それどころか作品を投稿した瞬間、あなたは作家になれます。もし出版社から書籍を出したいと思ったのなら、それに向けて挑戦することもできます。作品を投稿して、伸びなくて悩んで、また新しい作品を書いて、前より少し伸びて、そうして作家として経験値を積んで、爆速レベルアップできます。いつか作品が伸びたらどこかの編集部が拾ってくれるかもしれません。あなたの作家生活は進むにつれて、やがてファンがついて、次回作ではそのファンが読みに来てくれて、感想をくれて……そうしたウェブならではの物語も経験できます。続けていれば、サイト内でペンネームも浸透していってだんだんと認知されていきます。あなたの歩みはすべてが成長に繋がっているんです。だから何度でも挑戦してください。カクヨムならばロイヤリティプログラムもあって、上手く行けば大きな報酬も期待できます。このままウェブ小説の文化が成長していけば、きっと小説のロイヤリティだけで生活することも可能になるかもしれません。すばらしいですね。ありがとう、ウェブ小説、ありがとう、カクヨム。
さあ、これを読み終えたのなら執筆しましょう。不安にならないで。失敗しても、伸びなくてもいい。疲れたのなら一度、筆をおいて休んでもいい。何度でも挑めます。コンティニューの制限はありません。楽しみましょう。
──ありがとうございました。
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