第8回カクヨムWeb小説コンテスト 大賞受賞者インタビュー|Saida【現代ファンタジー部門】

12月1日から応募受付開始となった第9回カクヨムWeb小説コンテスト
かつて、応募者の皆さまと同様にコンテストへ応募し、見事大賞に輝いた受賞者にインタビューを行いました。
大賞受賞者が語る創作のルーツや、作品を書き上げるうえでの創意工夫などをヒントに、小説執筆や書籍化への理解を深めていただけますと幸いです。

今回は、12月15日発売異世界から来た魔族、拾いました。 うっかりもらった莫大な魔力で、ダンジョンのある暮らしを満喫します。の著者、Saidaさんにお話を伺います。

第8回カクヨムWeb小説コンテスト 現代ファンタジー部門大賞
異世界から来た魔族、拾いました。うっかりもらった莫大な魔力で、ダンジョンのある暮らしを満喫します。(Saida)

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──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

子供の頃から、小説を書こう、書かなくちゃと思う時期が長くあった気がします。
しっかり書き始めたのは、おそらく大人になってからのことです。
小説を書き始めたきっかけは「小説家になりたいと思ったこと」が大きかったと考えています。
「小説家」という存在をとてもかっこいいものだと感じていて、自分もそれになりたいと思いました。
影響を受けた作品ですが、今、思いつくのは「あひる」(今村夏子)という小説です。
(影響を受けたというよりも、ただ好きなだけかもしれません)

──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

賞を頂いたWeb連載時の作品は、「自分の家の庭にダンジョンが発生したら?」というテーマで執筆しました。
受賞後、編集者の方にアドバイスを頂きながら作品を書き直したところ、庭からダンジョンが消失しました。

庭からダンジョンが消えてしまったのは、物語について一から考えた結果のことでした。本作品の執筆過程にはそのようなことが多々あったので、作品の最大の特徴は作者(私)の考えが詰まっていることだと思います。

──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。

最初にWeb上で連載していたお話(Web版)では、主人公が序盤からある程度の強さを持っているにもかかわらず、話が進むにつれてさらに強くなっていくので、「あれ、おかしいな」と思いながら書いていました。気に入っているのは、その点です。

書籍化に向けて改稿した後の物語(書籍版)では、「登場するキャラクターたちと一緒にいることがとにかく楽しい作品になった」と感じられたことが最も嬉しかったです。

そう感じたきっかけは、イラストを担当してくださったKeG様が、それぞれのキャラクターをとても魅力的な姿で描いてくださったことでした。
イラストを頂いたあと、何気なく書籍版を読み返したところ、登場人物たちの姿があまりにも鮮明に浮かび、「この人たちってこんな感じだったんだ……」と愕然としました。
その時に初めて、「彼らと一緒にいることが楽しい」というのもこの物語の特徴の一つなのだと気が付きました。

たとえば書籍版では、リュイアという角の生えた少女、ヴァンという白いもふもふした獣が新キャラクターとして登場しています。

ヴァンは、低くて魅力的な声を持つ気高いもふもふなのですが、どことなく抜けているところがあります。リュイアに振り回されたり、意外な弱点を持っていたりするところがとても愛らしいキャラクターです。
作者としては、隙あらば彼のことを困らせたくなります。可愛いです。

リュイアは、天真爛漫な魔族(魔法が使える種族)の子です。
私の中では、周りの役に立ちたいと一生懸命に取り組む姿が印象に残っています。
シーンを描いているときには、「生まれて初めてひとりでおつかいに行く子」を見守っているような感覚になりました。
「がんばって……!」と何度も応援するような気持ちで、ストーリーを書き進めたことを覚えています。

また、Web版でも登場していた宮陽美都(みやび みと)という人物は、「氷魔法の使い手」という新たな設定を得て、書籍版でも重要な人物として登場しています。
「可愛くて、かっこいいヒロインを」という無茶な注文をしたにもかかわらず、イラストレーターのKeG様は私のイメージ以上に魅力的な美都を描いてくださりました。

最後に主人公の藤堂圭太は「ブラック企業で働いていたけれど、人生に疲れ果て、仕事をやめてしまった」という人物です。 このキャラクターは、私の数少ない知人の一人をモデルにして描きました。
社会の中で生き方を模索するその知人に、幸せなことや楽しいことがたくさん起こってほしい、報われてほしいという思いで物語を書き進めました。
本作品の藤堂圭太は、ダンジョンと関わることにより人生を好転させます。
現実の人生では色々なことが起こりますが、この物語を読まれる方には、癖のある登場人物たちとの、楽しくて、癒されるような時間を過ごしていただきたいと感じました。

上記のように書籍版では、それぞれの登場人物の存在感が大きく、私自身、これからも彼らとともにダンジョンを巡っていきたいと感じる作品になりました。

これはWeb版にはなかった特徴なので、書けたことを嬉しく思っています。

──受賞作の書籍化作業で印象に残っていることを教えてください。

この作品を担当してくださった編集者の方が、大変真摯に作品づくりに向き合ってくださったことです。
こちらが相談させていただいたことに対して、様々な角度からアドバイスをくださり、作者の「少しでもこの小説を納得のいくものにしたい」というわがままな考えに最後まで付き合い続けてくださりました。
その方のお力がなければ、書籍版の物語が完成することはなかったと思います。
とても心強かったです。

──書籍版の見どころや、Web版との違いについて教えてください。

「お魚に似たモンスターを育てていたら、進化してドラゴンになった」というイメージです。

私の中では、「Webでもともと連載していた物語」を、育てて、育てて、進化した結果が「書籍版」という感覚なのですが、読者の方からすると「こっちは魚……こっちはドラゴン!?? 全くの別物じゃん!!」という見え方になるのではと思っています。
育て過ぎた結果、あまりにも姿形が変わってしまったので、カクヨムの作品ページには「Web版」と「書籍版」のいずれも載せさせていただくことになりました。

お魚モンスターの頃から好きでいてくださったWeb読者の方々に感謝しつつ、これからはぜひバージョンアップ後の書籍版の物語を楽しんでいただけたらと思います。

──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんな中で、ご自身の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

私は現実の生活で、友人と呼べる人がほとんどいません。

そのこと自体は自分ではあまり気にしてはいなかったのですが、昨年からWeb上で小説投稿を始めて、自分の作品を誰かが読みにきてくださるということがこんなにも嬉しいことなのかと驚きました。

学校の休み時間に、教室の隅っこで自分が何かの遊び(たとえばマイナーなボードゲームなど?)を夢中でやっていたら、周りの何人かが興味を持ってくれて、気が付いたらそれが学校中に広まっていた……みたいな感覚です。(伝わりますでしょうか……?)

その時のような嬉しい感覚、幸せな感覚が先にあって、それからその遊びを通して、「これって○○ってことなの?」など普段話さない人たちからも声をかけられて。
「じゃあこうしてみよう」「今度はこんなルールを足そう」といった調子で、アイデアが少しずつ湧いてきたり、それを読者の方に見てもらうことを楽しんでいたという感覚が強いです。

上記のような経緯があるので、私の場合はなにか努力しよう、工夫しようというよりは、結果として少しずつ出てきたアイデアを加えていったという印象の方が近い気がします。

──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

他の方に対してのアドバイスはできないと感じたので、代わりに自分に対して伝えておきたいことを書かせてください。

自分が書いた文章を否定したり、粗探ししたり、足りない部分を見つけて補おうとするのはもうしなくていいと思います。
その方法でうまくいく人もいるのかもしれないけれど、あなたには向いてない気がします。
代わりに、自分の中から出てくる文章や物語をシンプルに受け入れ続けてみてください。
優れている/劣っていると自分の中でジャッジするのをやめて、頭に浮かぶ文章や物語に没頭してほしいです。
その行為によって出来上がったものを、難しいことは考えず読者の方と分かち合ってほしいです。
本当にそれだけでいいと思っています。

あなたはこれからも、周りの人からどのように見られるのだろうかと不安になったり、これではウケないのではないかと臆病になったり、文章の細かいことを気にしだしたり、なかなか執筆が進まないと悩んだりすることがあるかもしれないですが、その度に気持ちをフラットにしてみてほしいです。
「小説を書く」ことを、とにかく軽くしてください。
「足りないものを追い求めなくても、もう大丈夫だから」と自分に言ってください。
あなたの文章や物語は、どこか遠い場所ではなく、あなたの目の前にあることを思い出してください。そこにある充足感や充実感とともに、小説を書くことに浸ってください。
あなたならきっとそれができると思います。

自分に伝えておきたいことは以上です。
直接的な答えにはなっていないかもしれませんが、これを回答とさせてください。

最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

──ありがとうございました。


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