初心者の方も気軽に「第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト」にご参加いただくべくお届けしている、選考委員インタビュー。今回は第二弾、俳句の部・西村麒麟さんに聞いた「俳句の読み方・作り方」です。
また、カクヨム公式Twitterにて本日より5/31まで、質問箱に回答します。詳細は記事の下部をご覧ください。
本記事で紹介している内容
▼俳句の読み方
・俳句を味わう楽しみについて
・季語との付き合い方
・初心者におすすめの入門書
▼俳句の作り方
・初心者が「俳句を詠もう!」と思った時に考えるべきこと
・二十句連作部門に向けて、連作の作り方
・俳句を初めて作る方に向けて、選考委員として期待すること
▼質問箱開催について【受付終了】
【5/25~5/31】短歌俳句コンテストの疑問点にお答え!質問箱を開催します
→質問の受付は終了しました。いただいた質問は特設サイト下部に「Q&A」としてまとめておりますので、ご確認ください。
まずは、句作を始められたきっかけを教えてください。
大学の生協で種田山頭火の本を立ち読みしていたとき、「俳句ってかっこいいな」と思ったのがきっかけです。そこから18歳で俳句を始めて、自分なりに試行錯誤していたのですが、独学での句作に限界を感じて、20歳の時に結社に入門しました。石田波郷新人賞を受賞したのは、大学を卒業したあと、26歳の時ですね。
俳句を味わう楽しみについて、お気に入りの句とあわせて伺えますでしょうか。
その辺を一廻りしてただ寒し
高浜虚子
高浜虚子の有名な句で、「寒し」が冬の季語になるんですけど、「そのへんぶらっとしてきたら寒かったよ」っていうだけで、何にも面白いことは書いていない。おそらく詩が好きな人は全く感動しないと思います(笑)。でも、10回読んでも飽きないんですね。余白がある句は、飽きずに続けて読むことが可能な作品が多い。一方で、情報が過剰なものは、1回目は感動するけど、5回、10回とは繰り返し読めないんです。
この句は、虚子が小諸に疎開しているときに作った俳句です。日本がめちゃくちゃな時代に、不安を抱えながらも、平和な現代の日本で今日誰かが作ってもおかしくないような句を詠めてしまうところが、虚子のすごいところですね。
俳句の世界でもかっこいい句はあるんですよ。前衛運動の時に出された句で、
船焼き捨てし
船長は
泳ぐかな
高柳重信
物語のある句ですね。ただ、何度も読むと、もっと何気ない句がいいなと思ってしまう。何気ない句を読み続けて物足りなくなると、こういう句に戻ってくる……という風に、その時その時の好みで、交互に読んでいます。いろんな句があるということを応募する方にわかってもらえるといいですね。
また、かっこいい句だけじゃなく、「情けないこと」の詠みようは、俳句が得意なジャンルで、
勝つ事は勝てり蜈蚣と戦ひて
相生垣瓜人
「ムカデが出てきて、ぜーはー言いながら、かろうじて勝てた」という。これが殺虫剤撒いて勝ったよ、だとあんまりおもしろい内容にならない。「スマートに勝った」などと詠まないところが俳句っぽいですね。
ががんぼが襲ふが如きことをせし
相生垣瓜人
ガガンボって、倉庫とかにいる、足の長い、刺さない蚊みたいなやつで、古い宿とかにいると飛んでたりします。「ガガンボがまるで襲い掛かってくるように感じた」と詠んでいるんですが、ガガンボは襲ったりしない。弱々しいものをまるで大きなもののように詠んでいるところが、俳句特有のおもしろさだと感じます。
575の音数にこだわらない句としては、
算術の少年しのび泣けり夏
西東三鬼
十五音と二音、「夏」で急に季語が出てくる。575にとらわれなくても俳句は作れるよ、という良い例ですね。
よく観察して書いている句の例では、
流れつつ色を変へけり石鹸玉
松本たかし
これも、誰もが詠めそうで詠めないところを的確に表現しているのが、俳句のおもしろさであり、難しいところです。同じ松本たかしの句では、
鈴虫は鳴きやすむなり虫時雨
松本たかし
「虫時雨」が秋の季語。コオロギやスズムシなど、鳴く虫は秋の季語ですが、たくさんの虫が鳴いている中で、スズムシの声だけが聞こえなくなったよ、という非常に繊細な句ですね。表現が非常に美しい。
松本たかしは有名な能役者の息子ですが、病気がちだったので、能役者の道をあきらめて、俳句を詠みました。精神が澄んでいて、美的感覚に優れている作家ですね。
香水や時折キッとなる婦人
京極杞陽
「香水」が夏の季語で、貴婦人みたいなマダムが話していると、時々キッとなるという。京極杞陽は非常におもしろい俳句をたくさん作るひとで、他にも、こんな句があります。
蛤の薄目を開けて居りにけり
京極杞陽
ハマグリが秋の季語なんですけど、「貝がちょっと開いている」というのを、「薄目を開けて」と擬人法で表現している。文章にしたところでつまんないことなんですね、情景としては。それが、俳句にすると面白い。俳句には平凡なことが、作品として平凡でなくなるという逆転があるんですね。
無駄な日と思ふ日もあり冬籠
高浜虚子
冬に家の中で「今日、無駄だったな」と思っているだけの俳句ですね(笑)。
青きところ白きところや夏の海
高浜虚子
こちらは「海の部分と、波が立っているところがあるよ」という句です。俳句の世界では、「そのまま素直に詠む」という行為が難しいんですよ。他人には良く見られたいし、かっこいい表現をしたいんですけど、その感情をどこまで抑えることができるか。高浜虚子は全くかっこつけない。このやり方で俳句を詠めるのであれば、死ぬまでガス欠になることはない、という詠み方だと思いますね。もう一句、
立つても見座りても見る秋の山
高浜虚子
景色の綺麗なところで、立って遠くを見て、座って眺めて……と言ってるだけなのに、秋の楽しい一日の感じまで伝わってくる。
応募する方も、天才的な表現を思いつく必要はなくて、「こういうのでいいんだ」と思っていただけたら。なんでも良い、身の回りのことを、できるだけ素直にシンプルに、思った通りに詠む方が初めての方は作りやすい。
現代詩や文章を書いている方はおそらく「船焼き捨てし船長は泳ぐかな」のような物語のある句を作りたいと思うでしょうから。そればっかりだと生むのが大変なので、もうちょっと力を抜いて、「その辺を一廻りしてただ寒し」ぐらいでいいんだ、と思っていた方が、作品の出来も良いことが多いですね。
初心者は季語に対してハードルを感じることも多そうなので、季語との付き合い方、楽しみ方について、アドバイスいただけますでしょうか。
一番のおすすめはデパートに行くのが良いと思いますね。
デパート(!?)
俳句の生徒さんにもよく言うんですが、デパ地下にはだいたい和菓子屋さんが入っています。必ず季節の和菓子が出ていますので、それを注意深く見る。見るだけだとあんまりおもしろくないので、苦手じゃない方は購入して食べていただくと、俳句を作る以外の楽しみにもなりますし。老舗のデパートは特に季節感を重視していることが多いので、子どもの日が近づくと武者人形を飾ったりだとか、夏になると立派な風鈴とかがおいてありますので、それも眺めたりして。購入できるものは少なくても、見て回って楽しんでもらえたらと。
なるほど、俳句のためにもなりますし、趣味にもなりそうですね。俳句と共にあることで、生活や、言葉の捉えかたにはどんな変化があるのでしょうか。
「季節と共に生きる」というのが俳句の特徴だと思います。
句作を始めて、旬のものを食べたり、植物や生き物といった、自然のものに対して意識して接するようになりました。
たとえば、お魚屋さん、八百屋さんに行っても、旬のものがわからないひとも多いように思います。大根なんか一年中ありますけど、大根は冬が旬なんですね。春に出ているのは「春大根」なんですよ。
花でも、春に桜、秋に紅葉、などはもちろん一般的ですが、足元を見ればどこにでも咲いているような花、イヌフグリだとかは、俳句をやるまでわからなかったですね。
あと、地元はお寺や神社が多い土地なんですが、俳句を始めたことで、土地に咲く植物に魅力を発見することができたり、おなじ場所を訪ねていても、俳句をやる前と後では見えている景色がかなり違ってきたかなという気はします。
身の回りの花鳥風月にグッとレンズのピントが合っていくんですね。
興味がない方だと、鳥と言えば「雀・カラス・鳩」くらいしかわからない、ということもあると思いますが、俳人は、ヒヨドリがどう、コジュケイがどう、といったことをとても意識しています。
あとは食べ物ですね。俳句を始めると当たり前なんですけど、春先になるとものすごい和菓子をたくさん食べるんですよ。草餅、桜餅、鶯餅、椿餅……春は結構忙しいんです(笑)。和菓子屋さんでは5月に入ってもしばらく売ってるんですけど、ぼくは立夏を過ぎたら口にしないマイルールがあって。次はもう柏餅、鮎菓子と夏菓子が出てくる。ゼリーや白玉ぜんざいの「白玉」も夏の季語ですね。飲み物でもソーダ水だとか、かき氷も食べなきゃ、アイスクリームも食べなきゃ……と本当に食べるのに忙しいんですよ。これも、立秋からは口にしない(笑)。
お酒を購入するときは、ビールは夏の季語ですから、夏に飲まないといけない。秋になると「新酒」といって日本酒が出るので、嗜んで、冬は日本酒を温めたら「熱燗」になって冬の季語になるので。春はちょっと困るんですけど、そういう時は「春の酒」とかで詠んでみたり、確実に生活は楽しくなりますね。
半分は楽しみのために食べているんですけど、半分は俳句をつくるために食べているところがあって。旅先でも、まず全国の和菓子屋さんを訪ねるようになりました。楽しみが増えた感じはあります。
文庫本サイズでも良いので、歳時記を何か一冊購入されても良いと思います。俳句を一生やらなくても、「季節の辞書」として参考になります。読んでみると、「こんなものが季語だったんだ」と気づくと思うので。夏だと「冷蔵庫」「うちわ」「扇」も季語。俳人が句会にいくと、若いひともベテランのひとも着物を着ているわけじゃなくても、みんな扇を持っています。みんな、季語が好きなんです。
その他にも、初心者におすすめの入門書などはありますか?
【おすすめ書籍その1】『大人も読みたいこども歳時記』
監修/長谷川櫂 編著/季語と歳時記の会(小学館)
この本は、例句に小学生の句がたくさん載っているんですね。
- きょうりゅうはほねしかなくてすずしそう
- せんぷうきあああああああおおおおお
- さつまいもたべたらさつまいものかお
こういう真っ直ぐな俳句があるんだと感動します。とはいえ、大人になると、純粋で素直な気持ちがなくなっていくので、かえってこういった句を作るのが難しい。勉強になりますね。また、写真が良いんですね。歳時記を選ぶコツとしても、写真が良いものをおすすめしたいですね。
【おすすめ書籍その2】『俳句の魚菜図鑑』
監修/復本一郎(柏書房)
こちらもすばらしくて。たとえば鰡のページ。ここまでボラを大きく取り上げてくれることも、普通の歳時記ではあまりないです。「おいしそうだな」と思える写真がついているものはおすすめですね。
【おすすめ書籍その3】日本文学全集第29巻 『近現代詩歌』
選/池澤夏樹・穂村弘・ 小澤實(河出書房)
俳句初心者が俳句に親しめない要因として、「読めない、意味もわからない、だからやめよう」という問題があると思うんですが、この本には仮名が振られているので、読めない漢字がない。また、一句につき、四行分くらい解説が書いてあるので、世の中にどんな俳句があってどんな有名俳人がいるか、「みんなが知ってる句はどういうのがあるの?」っていうことも知れる。
野球を観に行っても一人も知ってる選手がいなかったら面白くないと思うんですね。まずはこの本で入門してもらって、ひいきの俳人を見つけてもらえれば、こんどはそのひとについて調べればどんどん広がっていくので。
【おすすめ書籍その4】大岡信『折々のうた』選 俳句 (二) 』
編/長谷川櫂(岩波新書)
大岡信の新聞連載で取り上げられた俳句から、長谷川櫂が選んで載せている本です。俳句編は2冊あるんですけど、二巻をおすすめします。(一巻は江戸時代のものなので、いきなり買うには厳しい)これも新聞連載ですから、難しい漢字は仮名が振ってある。全ての句に、一般読者が読んで楽しい文章で書かれた解説が載っています。いきなり読んで、わけがわからないということにはまずならないので、入門書としておすすめですね。
では、初心者が「俳句を詠もう!」と思った時には、最初にどんなことを考えると良いのでしょうか。
「俳句なんて、私には無理だよ」と思っているひとは、天から十七文字が降りてくると思っているかもしれないんですけど、そんなことはなくて、まず五音埋めてみてはどうでしょうか。ぼくの場合だと、季語から入ることが多いですね。たとえば「柏餅」と決めると、残りは十二音しかないので。
季語でなくても、頭の五音でも、下の五音でも、まず埋めてみる。鎌倉に行ったら、「鎌倉や」「鎌倉に」でも良いわけですよ。季語をいれたら残り七音くらいしか使えないので、難しいところもそこですけど、簡単でもありますよね。
もう一つ、俳句の世界では、テレビの食レポといっしょで、直接「おいしい」とは言わずに、「味のフランス革命や!」とか言わないといけないんです(笑)。「おいしい」を我慢する文学なんですね。このコツを掴めば俳句が作りやすくなります。
鰻重をまつすぐのびてゆく光
西村麒麟
この句は、「タレで鰻重のうなぎが光っている」という句なんですが、まさに「おいしそう」を我慢している一例です。
とにかく外に出て、あちこち行って遊ぶのがいいと思いますね。露店の八百屋さんでは、その時の旬のものが輝いて見えますので、商店街を歩いてみたりだとか、世の中のイベントも、季節に関連したものが多いので、「お祭り」はもちろん、お花を見に行けば、「薔薇」も「牡丹」も夏の季語。身近に季語があるんだな、とわかるようになります。
まったく知らない季語で、かっこつけて詠まないほうがいいかもしれないですね。誰もが知ってる「暑さ」「汗」だとか、観察するなら「金魚」「カブトムシ」もあります。なじみのある季語から接していって、今日魚屋さんでカツオのお刺身でも買って帰るところから始めればいいんじゃないかと。
今回のコンテストには二十句連作部門がありますが、一句部門と比べて、必要な技術はどう違うのでしょうか。
二十句連作と一句との差は、自分の作品を冷静に見つつ、一句ずつには魂を込めなければならない、というせめぎ合いを乗り越えなければならない点にありますね。
二十句出す時に、大抵のひとは二十句ぴったり作るわけではないので、たとえば五十句作ったら、三十句落とさないといけないですよね。そこで「自選力」がないと、良い句を落としてしまうかもしれません。
連作の一つのコツは、いかに冷静に自分の作品を見られるか。自分の句って、やっぱり一生懸命作ったので、どの句も可愛いんですよ。でもそれは、残念ながら読者には関係のない話なので、自分の句を他人の目に近いくらい突き放して見ることができると、うまくいくことが多いですね。
では、連作のタイトルはどのように決められるのですか?
正解はないですね。ひとによっては、とても長い、それ自体が一行の詩のようなタイトルをつける方もいらっしゃる。
ぼくはものすごくそっけなくつけるのが好きなタイプです。自分としては「静かな朝」は若い頃だったので、サービス精神のある付け方で、次が、「思い出帳」(宿に泊まると記入できる自由ノートのこと)。角川俳句賞を取ったのは「玉虫」。普段の雑誌に出すタイトルも「花」とか「月」とかですね。シンプルなタイトルだと、中身がわからないじゃないですか。そこで「なになに?」と興味を持ってくれるといいな、と思っています。かっこいいタイトルをつけると、タイトルが肌に合わなかったら、もうそこで見てくれなくなるので、できるだけ幅広いひとが興味を持ってくれそうなタイトルをおすすめしています。
今回のコンテストをきっかけに俳句を初めて作る方に向けて、選考委員として俳句に求めるものなどがあれば。
初めてのひとから学ぶことって結構多いんです。ぼくたちは俳句慣れしているので、予想外のことができなくなってきていますが、「俳句に興味ないけど、ちょっとやってみようかな」というひとが、ボクシングの試合で回し蹴りするような、俳句らしい俳句じゃないけれど、光るものがあるような作品を出してきてくれることを期待しています。
西村さんのインタビューには続きがあります!次回は「句会のしくみ」と題して、俳句を詠むことでつながることについて、お話いただいた内容をまとめる予定です。短歌の部・大森静佳さんのインタビューの後半も公開予定ですので、お楽しみにお待ちください。
* 西村麒麟 プロフィール
【5/25~5/31】短歌俳句コンテストの疑問点にお答え!質問箱を開催します
第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト。
初開催に当たり、投稿ルールなどについて疑問を抱いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
応募に迷っている方、分からないことがある方など、ぜひお気兼ねなく質問いただければと思います。
カクヨム公式ツイッターにて、順次回答していきます。
※本質問箱は、「第1回カクヨム短歌・俳句コンテスト」に関連するご質問のみ受け付けます。
peing.net
短歌の部・大森静佳さんのインタビューはこちらから kakuyomu.jp
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