特別講義「頭ひとつ抜けた小説を書くためのシナリオ・センター式 創作術」アーカイブ動画を公開しました。

高校生限定の小説コンテスト「カクヨム甲子園2024」応援企画として、2024年7月24日(水)19時よりZoom Webinarにて開催された特別講義「頭ひとつ抜けた小説を書くためのシナリオ・センター式 創作術」のアーカイブ動画と書き起こし記事を公開いたします。

【講座の流れ】
・全体の長さから考える「構成の立て方」
・読者を感情移入させる「登場人物のつくり方」
・盛りすぎずに魅力的にする「設定の考え方」
・イメージさせて、心に刺す「文章表現のコツ」
・Q&A



全体の長さから考える「構成の立て方」

〜「カクヨム甲子園2024」ロング部門に応募するとして、2万字をどう使うか?〜

よくあるお悩みで、「物語の設定が長くなって、肝心の主人公が活躍するドラマ部分が薄くなっちゃう」とか、「序盤は力がこもっているのに、クライマックスが尻すぼみになっちゃう」というのは、全体像が見えてないから起きてしまうことなんですね。

シナリオセンターでは、「起・承・転・結」で説明しています。こう言うと4分割して書くように思えるのですが、実は「承」がいちばん長くて、全体の7~8割なんですね。「起」、始めが大体1割から多くて2割、「転」「結」で合わせて1〜2割、もっというと「結」は小説だと1〜2ページくらい、本当にわずかで、1割くらいが「転」。

今回、ロング部門に応募する小説を書こうとしたら、ざっくりとでいいので文字数を振るわけです。2万字の1、2割で「起」が2000字から4000字くらい、「転」「結」も同じ、ということは「承」は12000字から16000字になりますね。

こんな風に、文字数をベースに割り振りを作っておくと、全体のバランスが悪くなってしまうケースは減ります。その上で、構成として考えてもらいたいことは、構成の機能を使っていくということです。

・「転」ではクライマックスを盛り上げて、物語のテーマを伝える
・「結」ではテーマの要因を定着させる。
例)「友情の大切さ」がテーマ→読者が「やっぱり友情って大切だな」と思うような要因を持たせる
・「起」はテーマの反対、アンチテーゼを提起する。
例)「友情なんてどうでもいい」みたいな、テーマの逆の状況や考え方を持つ主人公
・「承」では主人公が壁に当たって、進めなくてイライラする気持ちと、進むための変化を受け入れるべきかどうか迷う気持ちの間で困らせる。

※動画では「承」について、『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』の関連ページをご紹介しております。

構成から考えると、始め〜中〜終わりに割く文量や、その枠のなかでやるべきことも決まっていて、それを踏まえて自分の作品を考えていくことになります。

読者を感情移入させる「登場人物のつくり方」

次の問題としては、立てた構成の上を、どんな主人公に歩かせようか、ということですね。まずは、主人公+主要な登場人物のイメージを膨らませます。当たり前のように聞こえますが、これがとても大切です。読者が、見たことも会ったこともない人を、実際にそこにいる存在だと感じてもらえるように文章で書かなければいけない。

さて、みなさんの目の前には、まだのっぺらぼうの状態で主人公がいるとします。それを物語の登場人物に仕立て上げていくために、自分が書きたいと思っている主人公は、身長が高いのか低いのか、体型は、髪型や髪色は、年齢は、顔だったら目は大きいのか、小さいのか、細いのかつぶらなのか、鼻は高いのか低いのか、具体的にイメージをしていきます。

外見のイメージが湧いてきたら、内面を考えてみましょう。「こんな時こういう行動を取りがち」みたいな癖や、普段の話し方は早口なのか、ゆっくりなのか、落ち着いているのか、自信なさげなのか、声の大きさ、言葉遣い、趣味、得意なことや苦手なこと、境遇は恵まれているのか、そういうことまで含めて、文章では伝わりにくい部分でも、イメージしておくことが大切なんです。あとは性格ですね。明るい、暗い、優しい、真面目、責任感がある……、そんなイメージが固まってきたら、こんどは名前を決めます。小説の場合、名前って読者の方が必ず目にするものなので、名前と登場人物のキャラクターが紐づいている方がいいわけです。かといって真面目な人だから「真面目」というのはやりすぎ感がある場合もあるので、真面目な人だったら「真二」とか、ほどよく結びつけていくのが大切です。

高校生の方の質問で、

地の文でのキャラクターの呼び方と、会話文での呼び方を統一すべきなのかが気になります。また、作品に登場するキャラクターが少ない場合、名前を書かずに「彼」「彼女」で書き切るのはいいのでしょうか?

というのがあったんですけど、「彼」って書いた時の雰囲気ってあるじゃないですか。同じ男性を指す言葉でも、「あいつ」なり、「あの人」なり、いろいろあって、それぞれ全然違う物語の雰囲気になると思うので、目指している物語に合う形はどれなのか、という観点で考えていくとよいのではないでしょうか。

さて、無事イメージを膨らませることができたら、登場人物を魅力的にする必要があります。先ほどの構成の「起承転結」で、初めから終わりまで出ずっぱりなのが主人公なわけで、展開の谷や山も、主人公が魅力的でなければ読み進める気にならないからです。魅力的、とはどんなことか、かっこよければよいのか、と言うと、「なんか気になっちゃう」というのが良いんですね。「すごい性格の悪いやつを主人公にしたい!」OKです。悪役でも、「この人が捕まらなければいいのに」と思って見ちゃう映画とかドラマもありますよね。そういうことなんです。

ポイントは、一つ、登場人物がどんな性格なのか、なるべくイメージしやすくするために、「〇〇すぎる性格」というふうに、少しデフォルメしてください。そうすると、読者にとって、イメージがつきやすくなります。

ここで気をつけてほしいのは、複雑にしないこと。「とても几帳面なところがあるけど、人見知りでもあって、ただ、場が盛り上がるとその人はそのノリに乗ることができる性格」みたいなふうにしてしまうと、「どう書けばいいの?」と詰まってしまいがちなので、まずは「真面目すぎる性格」みたいに決めてしまうほうがよいです。一度、「〇〇すぎる性格」と決めたら、その人のどんなところに憧れる面があるか、逆にどんな面は共感できるか、憧れ性と共通性を考えてほしいと思います。

憧れ性を考える時のポイントは、特技などではなくて、「誰にでも優しくできる」とか、なるべく内面的なものを入れていただけると良いかなと思います。〇〇すぎる性格だから、憧れ性は△△で、共通性では××しがち、という感じで、性格と憧れ性、共通性を紐づけながら考えていくと、これがキャラクターの軸になっていきます。

脱のっぺらぼうですね。キャラクターの軸と、作り込んできた内面や特徴、見た目を踏まえて、そんな登場人物がもっているエピソード、たとえば過去、育ち、家族関係、友人関係、成功体験、失敗体験を膨らませてください。さっき性格について複雑にしないで、と言ったのは、登場人物の核となる性格がシンプルであればあるほど、上記のような外側の部分でアイデアが出てきやすいからです。

盛りすぎずに魅力的にする「設定の考え方」

設定は、物語の舞台となる時代や状況を考えることですよね。

ここは得意な人と不得意な人で極端な差が出る部分じゃないかなと思います。設定を考えるのが好きな人が陥りがちなのは、練りに練った設定をうまく活かせずに、設定倒れになってしまうパターン。逆に設定が不足していて、読者に「なんかよくある話だな」と魅力を感じてもらえないパターンもあります。このジレンマが起きるんですよね。

設定を考える時のポイントは、皆さんがこれから書く主人公が活きる設定にすること。「主人公が△△しようとする姿」をまずは1行書いてみる。悩んだら、読者にどういう主人公の姿を見せたいか、という観点で考えてみてください。そうすると、自分が書きたいというだけではなくて、読者はこういう場面が見れたら面白いはず、という視点からアイデアが出るはずなので。

その上で、設定を考える時のポイントは3つあります。

・テーマ
・モチーフ
・天(時代)地(舞台・場所)人(人物)


どこから考えるのでもいいですが、考えやすいのは一番具体的な天地人じゃないかと思います。

「天」=考えた主人公に合うのは未来・過去・現代どれなのか。
「地」=舞台はどういう場所なのか。
「人」=主人公プラス、主人公と絡む脇役

をしっかり考えていくとよいと思います。

たとえば、『桃太郎』の「昔々あるところに……」を桃太郎の村を現代の、渋谷にある学校の中学2年生のクラスにして、「鬼」役をこっそりいじめをしている奴らにしたらどうなるんだろう? みたいな感じで、「天地人」をずらしてみるだけでも全然違う話になるんですよ。

どういう「天地人」にしたら自分が考えた主人公が活躍するのか。活躍するといっても、どんどん問題を解決していくパターンもありますけど、必ずしも何かすごいことをやる必要はなくて、障害にぶちあたって悩みながら乗り越えていく時に最適なシチュエーションを探していくわけですね。

実は「天地人」を固めると「モチーフ」も自ずと生まれてきます。桃太郎の例で言えば、いじめっ子を倒すっていう話と決まれば、渋谷なのでいじめられっ子にオシャレさせて、ファッションでいじめっ子をギャフンと言わせちゃおう、じゃあファッションが「モチーフ」になりそう、というふうに、その物語ならではの「モチーフ」が出来上がっていきます。

「テーマ」は物語のなかで訴えたいことなので、「〇〇は××だ」というふうに、すごくシンプルに考えてください。このテーマは皆さんが書く時にどっちに向かっていくかっていうことを考えるための方向性を示す旗印だと思ってください。

テーマを伝える時は、構成でいう「転」のところで伝えるわけですが、クライマックスを盛り上げれば、「起」でアンチテーゼからスタートしているので、直接書く必要はないです。「友情って大切だよ」と言ってしまうと、すごく興醒めしてしまいます。ちょっとかっこよく言うと、「テーマは無言で伝える」ということですね。むしろ、最後テーマを書かないと伝わらないような気がするなら、物語で起きる変化を通してテーマが伝わらない、構成に問題があることになります。

イメージさせて、心に刺す「文章表現のコツ」

テーマを文章で表現していくためのコツは、読者にイメージをさせることです。小説を読んでいて、読むのをやめたくなる時って、読んでいる場面のイメージが浮かばなかったり、会話文で誰が話しているのか見えてこなかったりとか、お話に没入できなくなる時じゃないですか。なので、読者に、頭の中でイメージさせることがとても大切だと思うんです。シナリオ・センターってシナリオの勉強をしているのに、小説家がいっぱい生まれるのはなんでかって言うと、映像をイメージさせるテクニックをみんな身につけるからなんですよ。

映像を思い浮かべてもらうためには、まず「どこに」「誰が」いるのか、5W1Hですね。たとえば放課後の教室で太郎と花子が話している。その時単に向かい合って話すよりも、花子は黒板に何か書いたり消したりしていて、太郎は窓を眺めてて、という情景があった方がイメージが湧くと思うんです。その上で「その時、太郎はふと花子の手元を見てこんなことを思った」ってなると、心理描写が活きてきます。心理描写はつい最初に書きたくなっちゃうと思うんですけど、先に書くと読者に伝わりづらいので、読者の頭に「今こういう状況なんだ」というのをちゃんとイメージさせてから書くようにしてみてください。

描写の取捨選択のコツについての質問を事前にいただいていましたが、映像的に見せる、というのはその一つだと思いますね。「太郎が花子が黒板を消している姿を見て何か思う」というシーンなら、「黒板を消している」っていう状況は書いていいと思うんですが、その時に「風が吹いてきて、教室の後ろ側に貼ってある習字の半紙がカラカラと乾いた音を立てる」という描写は、太郎がその音に対して何か思うなら入れてもいいと思いますが、ただ「習字の半紙が貼ってある」という描写があるだけなら、読者も何か意味があるのかな、と立ち止まってしまうかもしれないので、ドラマに関係ないものを書かない、逆に関係あるなら細かく書いてもよい、と考えるとよいと思います。

大切なことは皆さんが物語を通してどういう人間の一面を描きたいと思うのかです。「人間を描く」と聞くと哲学的に聞こえるかもしれませんが、物語というエンターテインメントを使って、人間ってこういう一面あるよね、とか、こういうふうに感じることあるよね、ということを書いていく、そのために技術がある。「技術」と聞くと、自分を縛るもののように感じられて、特に10代の方なんかは感性を生かしたいという気持ちも強いと思います。 でも、実は「技術を鍛える」ことでみなさんが書きたいことはもっと自由に表現できるようになります。書きたいことを面白い物語にする「技術」を身につけてもらえたら嬉しいです。

※動画ではこの後受講者からの質疑応答を受付ましたが、記事では割愛いたします。気になる方はぜひ動画をご覧ください!


この講義の内容はKADOKAWAより刊行されている『シナリオ・センターが伝える 14歳からの創作ノート』をもとに著者の新井一樹さんにより行われました。
ご興味がある方はぜひチェックしてみてください!

「どんどん物語を書けるようになりたい」「物語を書くのを好きでいたい」
勉強や部活で忙しい毎日を過ごしているけれど、物語を書くのが好き! そんなあなたへ向けた1冊です。
もちろん、14歳の方だけでなく、日々忙しい社会人も、昔書くのが好きだったという大人も、スランプ気味なあなたも、誰でも楽しく創作ノウハウを学べます!

700人以上のプロを輩出している日本随一のシナリオライター養成スクール「シナリオ・センター」にて、のべ5000人以上の小・中学生に創作の出前授業をしている新井一樹が、物語形式で創作の仕方を解説。
登場人物の作り方、動かし方、アイディアの出し方から、アイディアを形にする方法、アウトプットの仕方など、創作のやり方をこの1冊でばっちり説明しています。

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シナリオ・センターとは

シナリオ・センターは、優秀な脚本家やプロデューサー、監督や小説家を養成することを目的に、1970年に新井一によって創設された脚本家や小説家を目指す人たちの養成学校です。第一線で活躍する脚本家や小説家は、700名を超えています。
シナリオコンクールの約9割を受講生が受賞。連続ドラマの約7割を、シナリオ・センター出身の脚本家が執筆。
一般の方向けの講座に加えて、小・中学校への出前授業や、小・中学生向けのオンライン講座『考える部屋』も開催。
『考える部屋』の受講生には「角川つばさ文庫小説賞」「ENEOS童話賞」の受賞者もおり、シナリオ・センターからは直木賞作家やミリオンセラーの小説家、映画監督も輩出しています。
www.scenario.co.jp