「カクヨム金のたまご」特集ピックアップから書籍化へ!|『シャーロック・ホームズを読んだことのない俺、目が覚めたらコナン・ドイルでした』 結城光流インタビュー



『新作紹介「カクヨム金のたまご」11月~12月新規投稿作品」』(2022年1月14日掲載)でも取り上げられた話題作『シャーロック・ホームズを読んだことのない俺、目が覚めたらコナン・ドイルでした』が11月15日(火)に富士見L文庫より発売されます。

◆カクヨム書籍化作品ページ

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著者の結城光流先生はWEB投稿からの書籍化は初めて、さらに約2年ぶりの新刊発売ということで、作品についてやカクヨムでの投稿についてなど、担当編集からお話を伺っていただきました。

■はじまりは真夜中のツイートから

ーーいよいよ本日11月15日(火)、『シャーロック・ホームズを読んだことのない俺、目が覚めたらコナン・ドイルでした』が発売となります。おめでとうございます!

結城光流(以下、結城):ありがとうございます!
このタイトル、長いですよね。長いので「俺ドイル」と略しています。

ーーこのお話をお伺いしている今(※2022年10月末)は、ちょうど書籍化の作業がすべて終わったタイミングということで、率直に今のお気持ちをお聞かせください。

結城:私事ですが、ここ数年体調を崩してしまいまして、前作からだいぶ時間があいてしまいました。生きてます、かめかめしく書いてます、と言えるようになって心底ほっとしています。まだまだかめですが…。

ーー 結城先生はこれまで、「少年陰陽師」「モンスター・クラーン」「吉祥寺よろず怪事請負処」など、さまざまな時代・場所を舞台にした物語を生み出されています。今作は舞台が19世紀のイギリス、さらにトリップファンタジーと、読者の皆様にとってはまた新しい世界のように思われます。本作の執筆のきっかけ・着想はどこから得られたのでしょうか。

結城:もう二年前になるんですが。
真夜中に友人とリモートで雑談していたときに、もし長めのタイトルのWEB小説を書くとしたら、というお題でなんとなく出てきたのがこれでした。
真夜中の謎テンションで、Twitterに「こんなタイトルが浮かんだ」とツイートしたのがすべての始まりです。寝て起きたら、びっくりするくらいいいねを頂いていて、読みたいです、書いて、というご要望も頂いていて。

とりあえず、サービスが始まった頃に登録したもののほとんど活用できなくて削除したカクヨムアカウントを復活させて、そのうちに話の筋ができあがるようなら書いてみようと思って。実際に話の筋が浮かんできて書き出したのは、アカウントを復活させてから一年経った頃でした。

実は、いちばんはじめは「シャーロック・ホームズを読んだことのない俺、転生したらコナン・ドイルでした」だったんです。でも、あれこれ考えているうちに、転生だと私自身があまり面白くないぞと感じて。お話としてこっちのほうがいいなとひらめいて「目が覚めたら」に変えました。

■あんなに加筆・・・(以下略)したのは初めて

――書籍化に際し、大幅な加筆修正をされていますよね。「WEB掲載時とはここが違う!」といったポイント、読みどころを教えてください。

結城:大筋はそのままですが、ラストがだいぶ変わりましたし、それ以外にもあらゆるところがちょっとずつ変わっていると思います。たとえば、書籍版のエディンバラはカクヨム版より相当治安が悪く、ジャックのガラも悪い…(笑)

カクヨムに掲載するときはできるだけ読みやすいように文字数を抑えていたんですけれども、それをそのまま書籍にしようとすると、状況説明や感情表現がかなり物足りない感じがしまして。書籍化するとなると担当チェックも厳しくなりますので、何度も何度も加筆修正をして、気がついたらカクヨム掲載分から100ページ以上増えていました。


――確かに連載版と比べても、生活感や現代の大学生である主人公・旭との考え方・価値観のギャップがより対照的に描き込まれています。

結城:あんなに加筆加筆加筆加筆修正加筆加筆修正加筆加筆修正加筆したのは初めてでした。もうね、これこのままお蔵入りするのと違うか? と。最後の最後に、やっぱりここにはこの描写を入れておくか、と加えた部分に「これを待っていた!」と担当がガッツポーズしたとき、それまでの苦労が報われた気がしました。いやー、つらかった。

――結城先生渾身の本編ラストシーンはぜひ書籍でお楽しみください! 笑
先ほどもお話に出ましたが、「ホームズ」シリーズを生み出す前、コナン・ドイルがまだ医学生だった頃、という時系列で描かれた本作は、舞台となる19世紀のイギリス・エディンバラの風景やそこに息づく人々の描写など、非常に作りこまれている印象です。ご執筆時に心がけていらっしゃったことはありますか。


結城:物を書く方は当たり前にやっていらっしゃると思いますが、まずできる限り資料を集めて頑張って調べるのが基本です。が、なにしろはじめて向き合う時代ですので、どこからどう手を付ければいいのかがさっぱりわからない! ヴィクトリア朝、19世紀、イギリス、でヒットするものを取っ掛かりに、わからないことが出てきたらもっと詳しい資料を探して、の繰り返しでしたね。

ロンドンの資料は比較的見つかるんですけれども、エディンバラはなかなかなくて。ロンドンの資料を参考に空想の翼をばっさばっさと羽ばたかせて創作の神が降臨してくれるよう頑張った。そう言って頂けるなら、神はちゃんと降臨してくれていたのでしょう。よかったよかった。

空気感などはドラマのグラナダ版ホームズが大きな助けになりました。
エディンバラの風景はGoogle Earth様様です。真夜中にGoogle Earthでオールド・タウンをぐるぐる見て回り、画面酔いして動けなくなったこともいまでは良い思い出です。

―― 主人公の旭はもちろん、「ホームズ」シリーズの実際の登場人物の名を冠したジャック、アイリーン、ファウラーなどのキャラクターの魅力も、本作の面白さのゆえんに感じます。描かれるにあたり、キャラクターの相関関係や立ち位置などはどのように決められたのでしょうか?

結城:彼らの立ち位置や関係性はこの物語の仕掛けのひとつになっているので、そこはぜひ書籍を読んで頂きたいと思います。これがあれか、そういうことか、と思い至ってくださったら嬉しいです。

――連載から刊行まで約1年、じっくりと原稿に向きあわれていた間、特に印象的な出来事がありましたら教えてください。

結城:どうにもこうにもわからないことがありまして。完全に行き詰まり、意を決して恐る恐る漫画家のもとなおこ先生(※)に助けを乞いました。私にとってはイギリスと言ったらもと先生なのです。その道を突き詰めたプロの凄さに触れました。もと先生がいてくださらなかったらこの作品が日の目を見ることはありませんでした。心から感謝しています。

※編集部註:
もとなおこ/漫画家。『レディー・ヴィクトリアン』(秋田書店、プリンセスコミックス)著者。

■自分の作品を自分でさほど理解できていなかったことに気づかされた


――これまでは作品内容についてお伺いしてきましたが、本作の特徴である「WEBからの書籍化」についてもお話をお伺いします。既に商業作家としてのキャリアを積まれている結城先生が、カクヨムで投稿をはじめられたきっかけはなんだったのでしょうか?

結城:カクヨムのサービスが始まった当初に、いままでとはまた違った面白いことができるかなと思ってアカウントを取得したのが始まりです。
既存作の番外掌編やコミックの原作として書いた「暁の誓約」の小説などを載せていたんですが、当時はそれ以上のことができなくて。
色々考えて仕切り直すことにして、アカウントを一度削除しました。

復活のきっかけはさっきちょっと触れたように「シャーロック・ホームズを~」です。
俺ドイルという物語は私がこれまで書いてきたものとは時代も舞台もがらっと変わっていますので、これまで私が書いてきた話をまったく知らない方々に見つけてもらいたい、興味を持ってもらいたいという思いがありました。
これまでに使ったことのあるブログ形式のサービスは、連載小説を追ってもらうにはちょっと不向きだなと感じたのもカクヨムを選んだ理由のひとつです。

それと、「書籍化決定しました!」と言ってみたかったんです。Twitterをやっていますと、あちこちでこのセリフをお見かけするんですよ。作者も読み手も一緒に盛り上がって喜びや熱意が伝わってくるあの感じが、とてもいいなぁと思っていて。俺ドイルのおかげで夢がかないました。あともうひとつ、「コミカライズ決定しました!」も言ってみたいのです。コミック系編集部の皆様、ぜひよろしくお願いします。

――実際に「俺ドイル」をきっかけにカクヨムで活動を再開されて、新しい発見などはあったのでしょうか?

結城:タイトルだけでなくキャッチコピー、紹介文などを全部自分で設定するというのは実に新鮮な作業でした。ジャンルを選ぶのも、この作品はこの区分けで本当に合ってる? どういうタグをつける? なども、時間をかけてじっくり考えました。
ひとつひとつ手探りしていくうちに、自分の作品を自分でさほど理解できていなかったことに気づかされましたね。曖昧さを削いでアピールしたいところをより明確にしていく。これから創作していく中で活かしていきたい部分です。

――原稿を執筆するだけでなく「投稿」という段階を踏むのも今までにない体験ですよね

結城:投稿するにあたり、ほかの方の作品のタイトルのつけ方やキャッチコピー、ジャンルや概要などを参考にさせてもらおうと思ってあちこち拝見しましたが、カクヨムはページのデザインがシンプルで見やすいですよね。欲しい情報がトップにまとまっていて、スクロールしなくても確認できるのがありがたかったです。

閲覧者にどう見えるかを編集画面でプレビューできるのもよかった。ルビの振り忘れや改行忘れなど、編集画面ではなかなか気づかないもので。何度も見直したはずなのに誤字脱字に公開後に気づいて、慌てて直すということもよくありました。

いざ投稿してみると、どれだけの人が見に来てくれているのか、ものすごく気になりますね。pv数でモチベーションが左右されるというのはこれか!と(笑)
★やレビューがそれはもう励みになりました。目に見える反応は本当にありがたい。
小説を書くようになってからそれなりの年月が経ちますが、どんなに作品を書いても、読者の方の反応や感想が一番の宝物であることに変わりはありません。作品を投稿されているほかの皆さんもそうだろうと思います。

■カクヨムは「創造の坩堝」

ーーカクヨムでは、結城先生のようなプロとして活動されている作家と、まだ書籍化デビューには至っていないアマチュア作家が同じ場所に並んで作品が掲載されています。そのことについてはどのように感じられましたか。

結城:創造の坩堝ですよね。たくさんの人がいて、様々な作品がひしめき合っていて。
プロもアマチュアも関係なく同じところに立っている。
なら、もしかしたら、ずっと見ているだけだった自分も何か書いていいのかもしれない。
いま抱えている形のないものを、表現することができるかもしれない。
それをどこかの誰かが見てくれるかもしれない。
それが誰かの心に何かを生み出すかもしれない。
やがてそれが大きなうねりになって、いつか世界を動かすかもしれない。
カクヨムは、あるかもしれないそういう未来に向けて、はじめの一歩を軽やかに踏み出せる、そんなところなのではないでしょうか。

ーー仕事としてのご執筆と並行して、カクヨムで活動することは大変なこともあるのではと思います。活動をされるやりがいはどのようなところにあると感じられていますか。

結城:私にとってのカクヨムは、やったことのない新しいものにチャレンジできる場でした。
読むのは苦手なホラーの掌編をあえて毎日投稿してみたり。読めなくても書くことは意外にできるものだなと、新たな自分を発見しました。
こんなふうに自分の知らない自分を見つけられるから書きつづけているのだと思います。

ーー今後、カクヨムで「こういうことをしてみたい!」など、展望はありますか?

結城:ずっとお待たせしているあれやこれやそれがあるのでいまはそちらを優先しておりますが、「暁の誓約」や「犬執事・小十郎」はいずれつづきを書きたいと思っています。
それ以外にも書きたいと思うものが降りてきたら。異世界を舞台にした作品などもカクヨムでなら気負わずにチャレンジできそうですし。そのときは応援をよろしくお願いします。

ーー結城先生のお話にもあったように、自由に書ける、発信できる場が「ある」ということが大事なのかもしれませんね。最後に、改めて読者の皆様へメッセージをお願いいたします!

結城:改めまして。
カクヨムに投稿されている皆様、カクヨムでたくさんの方の作品を楽しまれている皆様、結城光流と申します。これまでは、平安時代ですとか、化け物退治ですとか、陰陽師ですとか、そういう方面の作品をこつこつと書いてまいりました。
このほど、カクヨムで連載していた『シャーロック・ホームズを読んだことのない俺、目が覚めたらコナン・ドイルでした』というお話が書籍化されることになりまして、富士見L文庫さんから11月15日に発売されます。

シャーロック・ホームズを読んだことのない俺が目覚めたらコナン・ドイルになっていた、なんでどうしてこうなった!? というお話です。どういうことかまったくわかりませんね。ですので、どういうことなのか、何が起きてそうなったのか、ぜひ書籍をお買い求め頂いて、お確かめください。とき間先生の手になる物語性にあふれた美しい表紙イラストが目印です。お手に取られました際には帯をはずした全容も必ずやご覧ください。
略して俺ドイル、どうぞよろしくお願いいたします!

ーーありがとうございました!


◆書籍の詳細情報について

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