第9話 彼女は優しい!
天野さんとコンビを組んで街に繰り出すのも、当たり前のようになってきた。だが、成果は少ない。時には、雰囲気を変えて美術館でナンパすることもあった。観光客狙いだ。
「すみません、どちらからこられましたか?」
「え! 広島です」
「観光ですよね?」
「はい、観光です」
「よろしければ、岡山を案内させてほしいんですけど」
「すみません、結構です」
「ああ……」
という感じだ。“案内させてください作戦”も、不発に終わることが圧倒的に多かった。こちらには天野さんという武器がある。天野さんはイケメンだ。なのに不発、何故だろう?
だが、たまに、
「岡山を案内させてください!」
「うーん、じゃあ、案内してもらおうかなぁ」
と、OKされることもある(そりゃあ、声をかける人数が多いからね。時には成功することも多いでしょう)。天野さんの愛車(某大きな車)で女性2人組を乗せて出動。僕は岡山の地理には疎いので、観光名所は天野さんが考える。夜、山から見下ろすコンビナートの夜景はキレイだ。
「次はどうします?」
「うーん、そろそろホテルに行く。予約してるから。送ってもらえる?」
「勿論」
「あ、ここ、ここ、このホテル」
「僕等も泊まろうかなぁ、ねえ、僕等も泊まったら、もう少し話せますか?」
「えー! 今日は疲れたから早く寝たいなぁ」
「そこをなんとか、もう少しお話したいんで」
「うーん、ちょっとだけやで」
ホテルのシングル2つを選んで、女性2人組のツインの部屋にお邪魔する。談笑して、
「僕の部屋は〇〇〇号室で、天野さんの部屋は〇〇〇号室です。眠れなかったら、遊びに来てください」
部屋で、女性が遊びに来るのを待つ。来てくれたら、“今夜はOK!”ということだ。来るかな? 来るかな? 来るのかな? やがて夜中になり、朝が来た。天野さんはどうだったのだろう? 隣室の天野さんを起こした。
「昨夜、彼女達、来ました?」
「いや、来てない」
「ああ、ダメだったかぁ」
女性2人組と合流、
「今日も案内しましょうか?」
「ううん、今日は私達2人で回るから、ごめんね、昨日はありがとう」
まあ、こうなるだろう。連絡先を聞いたが、教えてもらえなかった。
天野さんは、真面目に彼女が欲しい。だが、なかなかそこまで進展しない。そして、性欲というものがある。ということで、天野さんと風俗店に行くことになった。僕は岡山の風俗店は知らないので、天野さんのお気に入りの店に行く。普通の風俗店。
天野さんが時々行くその風俗店、最初は写真指名で女の娘(こ)を選ぶ。良かった、僕の好みの女性がいてくれた。その女性の名は遙(はるか)。
普通に、プレイをした。帰ったが、少しして、また天野さんとその風俗店へ。僕はまた遙を指名した。遙は僕をおぼえていてくれた。普通にプレイをして帰った。そして少ししてまたその店に。僕は遙を指名したが、もうプレイはしなかった。
「今日は服を脱がなくてもええで」
「え! どういうこと?」
「今日はお喋りしようや、遙ちゃんとお話がしたい」
「でも、高いお金を払ってくれてるのに、何もしないっていうのは気が引けるわ」
「ほな、膝枕してや」
「え! そんなことでいいの?」
「うん、膝枕が好きやねん」
「はい、どうぞ」
「うん、心地ええわ、なんか落ち着く」
「何のお話するの?」
「何でもええで、映画でも、音楽でも」
「映画やったら、〇〇〇〇が好き」
「ああ、いい映画やったね」
「見たことあるの?」
「うん、見た。当時の話題作やったから」
「恋愛モノが好きなの?」
「うん、めっちゃ好き」
「沢山、いい恋愛してきた?」
「沢山でもないし、いい恋愛でもなかった」
「そうか、まあ、僕もやけど。現実がツライから、せめて映画ではハッピーエンドが見たい」
「その気持ち、わかる!」
「わかってもらえる? 〇〇〇〇もハッピーエンドやったから好きやねん」
「そうそう、あんな恋愛、してみたいなぁ」
「遙ちゃん」
「何? 崔君」
「僕とデートせえへん?」
「えー! お客さんとデートなんてしたことないよ」
「ほな、僕が初めてということで」
「どこに連れて行ってくれるの?」
「大阪に行こか? 大阪やったら案内できるわ。1泊2日でどう?」
「大阪かぁ……なんか行ってみたいなぁ」
「行く? 土日で行こか?」
「うーん、じゃあ、行く!」
「マジ? ありがとう、嬉しいわ。最初は屋内プールやで」
「どうしてプールなの?」
「遙ちゃんの水着姿が見たいねん」
「既に私の裸を見てるのに?」
「裸と水着はちゃうねん、水着には水着の良さがあるねん」
「ふーん、そうなんだ、まあ、いいけど」
「いつ行ける?」
「次の土日にしようか?」
「ええよ、ほな、電話番号を教えるわ」
「うん、私の番号も教えるね」
「うん、僕、普通のデートがしたいねん。今、彼女がいないから」
「でも、私、風俗嬢だよ」
「それがどうしたん? 僕の最初の彼女も風俗嬢やったで」
「そうなんだ、なるほど、それで崔君はちょっと違うんだね」
「僕、何かおかしい?」
「おかしいっていうか、雰囲気とか、私に対する接し方とか、なんか違う。他のお客さんでは感じられなかったものを崔君は持ってる」
「そうなん? まあ、悪いことではなさそうやからええけど」
「悪いことじゃないよ、いいことだよ」
「じゃあ、土曜日に○○駅に10時。それでええかな?」
「うん、いいよ」
「良かった、久しぶりのデートや」
楓も僕に対して優しかったが、僕は風俗嬢に気に入られるのだろうか? とにかく、遙とのデートが実現して良かった。でも、このことは天野さんには言えなかった。
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