第24話 ささやかな幸運!
そして、また僕と天野さんはテレクラにいた。だって、岡山でナンパするって難しいから。そもそも人通りが少ないし、歩いてる女性も少ないし。やっぱり広島か大阪に行かないとダメだろう。僕達は、大阪行きも検討していた。
でも、テレクラに行けば、必ず誰かと会える。勿論、大ハズレが多い。でも、会える。天野さんはハズレに誘われるとバシバシ断っていたが、僕は“女性に恥をかかせない”というのがスタイルだから、無駄に経験人数は増えた。天野さんも、少し妥協した方がいいかもしれない。と、思ったりする。そんなわけで、選ぶ天野さんは開幕から連敗続き。まだ勝ったことが無い。だが、アポには行く。遠くても行く。
その日も、天野さんが先にアポを取って、
「行ってくるわ!」
と、意気揚々とアポに向かった。
僕も電話が繋がった。
「はい、もしもし」
「こちら28歳のサラリーマン。一応、大企業に勤務。怪しい者ではないです」
「ふふふ、元気がいいのね。でも28歳かぁ。20代の時は勢いがあるからいいわね。私、若い男の子は好きよ」
「ということは、そちらは30代ですか?」
「うん、30代」
「何歳ですか?」
「30代。それ以上は聞いちゃダメ」
「失礼しました。今日はどんな感じですか?」
「そうね、今日は遊びたい気分なの」
「遊びですかぁ」
「どうしたの? 遊びたくないの?」
「今、遊びよりも本気で付き合いたい気分なんですよね」
「それじゃあ、どうする? 会う? 会わない?」
「会うに決まってるじゃないですかー! 遊びが本気になることもあるんやから」
「私、国道沿いの○○(施設名)の駐車場で待っていてもいい?」
「そこなら10分で着きますよ」
「じゃあ、待ってるから。私、今日は緑の服」
「わかりました、行きます-!」
待ち合わせ場所に着いた。緑の服……いた。僕は車を降りた。
「初めまして、崔です」
「あら、思ったよりも素敵な人で良かったわ。ごめんね、私、名前は教えないの」
僕は心の中でガッツポーズ。初めて当たりを引いた。名前はわからないので、ここでは仮に淑子さんとしておくが、淑子は美人だった。ヒールを履いているが、身長は多分、155~157センチくらいだろう。どちらかというと細身だ。色気と気品を漂わせている。いいところの奥様だと言われても信じてしまう。初めて、美人と出会えた。僕は歓喜した。歳は30代だろうが、よくわからない。おそらく30代の半ば、33~37歳くらいだと思う。
「さあ、まずはどこに行きますか?」
「そんなの、ホテルに決まってるじゃないの。男性が欲しくて電話するんだから」
「じゃあ、目的地に直行で」
「ええ、その方がいいわ。体だけの関係の方がお互いに気楽でしょ?」
「あなたが相手なら、それでも構いません。本当は愛が欲しかったですけど」
ホテル。僕等は結ばれた。やっぱり淑子のスタイルはいい。僕は淑子と付き合いたかった。相手が淑子なら、真帆を失って寂しい今、セ〇レだって構わない。とにかくまた抱きたい。淑子を抱いていれば、嫌なことは忘れられる。
「あの……あなたをまた抱きたいです」
「また抱くのなら、今、抱いてよ」
僕等は再び結ばれた。一緒にシャワーを浴びたら、淑子は服を着始めた。帰り支度をするようだ。
「今日は、もう帰るんですか?」
「うん、帰る。崔君のおかげで満足できたし」
「また、会いたいなぁ」
「ごめん、それは無理なの」
「どうして? 電話番号を教えてよ。僕も教えるから」
「ダメ。私、遊びで寝る時は、同じ男と2回は寝ないの」
“カッコイイ-!”僕は凜とした淑子の雰囲気にますます惹かれた。これが遊び慣れている大人の女性のカッコイイ姿か? 惹かれたが、淑子がそう言うなら仕方ない。僕も1度だけの遊びだったと思うことにした。
待ち合わせ場所だった駐車場に淑子を降ろして別れを告げた。
天野さんの方は、またハズレだったらしい。お茶だけ飲んで帰ったと聞いた。ホテルに誘われても行かなかったとのこと。まあ、選ぶことも大切だ。僕はハズレをことごとく断る天野さんのことを否定はしない。ハズレでもことごとく抱いている僕だけど。僕は“女性に恥をかかせてはいけない”と思っていたのだから仕方ない。それに、フランスのことわざに“靴は履いてみないとわからない”というのがある。抱き合ってみないとわからないこともあるのだ。
後日、またテレクラ。
「もしもしー!」
「今から時間ある? 私は会いたいんだけど」
「場所はどこですか? 会いに行きますけど」
「国道沿いの△△(コンビニ名)の駐車場、□□(施設名)の近く。来れる?」
「そこなら15分か20分で着きますよ」
「そう、じゃあ、待ってるから」
待ち合わせの駐車場にいたのは……淑子だったー! 今回は紫の服を見ていた。
「また、お会いしましたね-!」
「えー! また、あなたなの-?」
「僕は再会出来て嬉しいですよ。やっぱり縁があるんですね」
「どうしよう、私、同じ男に2回は抱かれないって決めてたのに」
「ホテルでしょ? ええやないですか、行きましょうよ。今からまたテレクラに電話されたら、僕、めっちゃ悲しいですわ」
「そうね、今回は不慮の事故みたいなものよね。わかった。崔君にもう1回抱かれる。ホテルに連れて行ってよ」
「そうこなくっちゃ」
「どうですか?」
「崔君、わざと前回よりも激しくしたでしょう?」
「あ、わかりました? わざとというよりも、自然にそうなったんですけど。燃えちゃったから。もう会えないと思っていたあなたに、また出会えたのですから」
「でも、崔君とはもうこれっきりだからね。遊びで同じ男に2回抱かれたのは本当に初めてなのよ」
「でも、下手に新しい男を捕まえてハズレやったらどうするんですか? それやったら、確実に満足させてくれる相手をキープした方がええんとちゃいますか?」
「それは……そうだけど」
「電話番号を教えてくださいよ、僕も教えますから」
「うーん、それはダメ。特定の相手は作らないのよ。遊びなんだから」
「でも、僕、あなたを満足させてるでしょう?」
「そうだけど、電話番号はダメ」
「わかりました。だったら、せめてもう1度……」
淑子と別れて帰った。
またまたテレクラ。
「もしもーし!」
「ホテルに行こうよ」
「どこに行ったらいいですか?」
「国道沿いの××××(店名)の駐車場」
「ここから20~30分ですね。スグに行きます」
そして、待っていたのは皆様の予想通り……淑子だったー!
「本当に、よく出会いますね」
淑子は頭を抱えていた。
「また崔君とは……崔君、どれだけテレクラに通ってるのよ!」
「あなたこそ、どれだけテレクラに電話してるんですか?」
「まあ、偶然って怖いってことね。今まで、同じ男性(ひと)が2回も3回も来ることなんて無かったのに」
「行くでしょう? ホテル」
「仕方ないわね、わかった、行く」
「もう観念してくださいよ、このままだと、また会っちゃいますよ。観念して電話番号を教えてください。僕も教えます。あなたを毎回満足させてるんだから、時々僕の相手をしてくれてもいいじゃないですか」
「わかった。今まで運命とか奇跡とか信じてなかったけど、崔君と縁があることはわかったから。番号を教えてよ、私も教える」
「やったー! ちゃんと僕を呼んでくださいよ」
「呼ぶ、呼ぶ、もう諦めた。新しい出会いも求めたいけど、当分は崔君を呼ぶ。お互いをよく知ってるし無難だから」
「ついでにお名前も」
「教えない。そのくらいは秘密にさせて」
僕は淑子に時々呼び出されるようになった。僕は、淑子のことを天野さんに話した。
「いくら美人でも、俺、30代は無理だわ」
「そういうことじゃなくて、テレクラに通い続けたら、いつか自分の好みの相手が見つかるということが証明されたんです。天野さんも、諦めない方がいいっすよ」
そこで、佳代子から電話があった。佳代子とは何回か会ったが、結婚の話が出て来たので一線を引いていた。
「崔君、崔君に“僕はバツイチやから2度と結婚したくない”って言われて考えたけど、私はやっぱり結婚したいから別れよう」
「わかった、それやったら仕方ないな、お別れや。佳代子の幸せを祈るわ」
よし! 佳代子と別れることが出来た。後は、また運命の相手を探すだけだ。と思っていたが、それがまさかこんなことになるとは……その時は想像も出来なかった。
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