第21話 ルール違反!
広島は良かった。都会だ。でも、大阪とも名古屋とも違う雰囲気。新鮮だった。そして、女の娘(こ)達の広島弁がかわいい(作中では、広島弁を忘れたので標準語で書いている)。僕は、女の娘の方言が好きだ。ナンパを始めたが、いつも通り女の娘達をゲット出来なかったので、天野さんと2人で広島焼きを食べた。僕は、良い釣り場を見つけたと思って希望と期待でテンションは爆上がりだったが、天野さんのテンションはあまり上がっていないようだった。
「崔さん、作戦会議しようよ」
「え! なんで? ここなら作戦なんか不要ですやん。これだけ人がいて、これだけ女性が多かったら、片っ端から声をかけるだけですよ。岡山は、やっぱりナンパに向いてなかったんですよ。だって、人通りが少な過ぎますもん。広島を見てください、これだけ女性が歩いていたらきっと成功しますよ」
「そういうものなのかなぁ。なんか、成功するイメージが湧かないけど」
「大丈夫です、打率が低いなら打席を増やせばいいんです。打席を増やしましょう。1割バッターでも、10打席に1回はヒットが出るということです。ブンブン振り回してれば、いつか当たりますから。あ! 今思いついた! 天野さん、作戦です。まずは女の娘達の足を止めさせて話を聞いてくれる状態にしなければいけません。それで、第1印象が良い方が後が楽なので、最初の声かけは天野さんがやってください。天野さんが話しかけて、相手の足が止まったら僕も援護射撃します。天野さんのビジュアルなら、女の娘も足を止めます」
「うん、いいよ。そのくらい。俺は最初に声をかけたらいいのね?」
「そういうことです。ほな、行きますか? ああ、広島焼き、美味しかったなぁ」
「よし、行こう! 崔さん!」
「ねえ、少し時間くれない?」
「時間、無いです」
「一緒にパフェでも食べようよ」
「食べない」
「広島を案内してくれない?」
「どうしようかなぁ、うーん、パス!」
「僕達、岡山から来たんだけど、ちょっと付き合ってよ。この辺を案内してくれない?」
「案内しません」
「ドライブしようか?」
「しません」
「崔さん、全然ダメじゃないですか」
「声をかけ続けたら、必ず誰か引っかかるもんですよ。気長に声をかけ続けてください」
「俺ばっかりじゃん」
「だって、女性の足が止まってませんもん。立ち止まったら僕も行きますよ」
「でも、みんな足を止めてくれないし」
「思ったより、広島って手強いのかもしれませんね。でも、岡山と違って次々とターゲットが歩いてくるからいいでしょう?」
「まあ、そうだけど」
「イケメンの天野さんでも足を止められないなら、僕なんかもっと足を止められませんよ。天野さんのビジュアルをフル活用してください。僕はビジュアルに恵まれてないので、すみません」
その日は収穫無しで岡山に帰った。だが、
「また広島に来よう!」
と、天野さんと誓った。
それから、僕の大阪の知人、谷が遊びにやって来た。3連休を活用して、来なくてもいいのにやって来た。特に歓迎するつもりは無い。どうせ、宿泊代を浮かせたいだけなのだろう。安い小旅行がしたいのだ。僕は最低限の相手しかしなかった。谷は、偶然、風呂で会った山内さんに積極的に話しかけていた。
そこへ、天野さんがやって来た。
「明日は休みだから、また広島に行こうよ」
「ええっすよ。ほな、行きましょうか?」
「え! 崔君達、広島に行くん? 俺も行きたい!」
「ちょっと待て、2人組をナンパしたら、女の娘達の座るところが無いやんけ」
「まあ、いいんじゃねーの、5人乗りの車だし」
「まあ、天野さんがそう言うなら」
「崔君、さっき風呂で会った山内さんも誘おうや」
「ますます女の娘達の座るところが無くなるけど、天野さん、どうします?」
「ついでだし、いいんじゃないの?」
「谷、天野さんのOKが出たから山内さんを誘って見ろよ。〇〇〇号室やから」
谷は、山内さんの部屋をノックして、ノックして、ノックしまくったらしい。そして、ドアのノブに手をかけたら、鍵がかかっていなかったのでドアを開けたとのこと。すると、谷の足元で何かが起き上がった。勿論、山内さんだ。実は、山内さんは漫画、ゲーム情報誌、ゲームなど数々のオタクグッズで部屋がいっぱいになっているので玄関で寝起きしていたのだ。谷は驚きつつも、
「ナンパをしに広島に一緒に行かないか?」
と誘ったらしいが、
「行かない」
と言われて帰って来た。谷は山内さんが玄関で寝ていたことがかなりショックだったらしい。
「前もって言うといてくれや、ビックリするやんか」
と、言っていた。
とりあえず、3人で広島を目指した。夕方5時半くらいからの出動だったので、広島に着いたのは夕食時だった。
女の娘と食事がしたかったので、天野さんと谷が女の娘達に声をかけまくった。だが、空腹に負けて、また男だけで広島焼きを食べた。その日、僕は体調が良くなかった。チューハイ1杯だけで気分が悪くなった。変だった。僕は酒に弱いが3杯は飲めるはずだ。店を出たときには、僕は吐き気をこらえていた。冷たい水を買って飲む。時間が経てばおさまるだろう。それは経験でわかる。しばらく休んだらいいだけだ。僕は道端に座り込んだが、天野さんと谷は張り切ってナンパを再開していた。広島の夜は長いようだ。まだまだ人通りが多い。そしてこの時間なら飲みに誘える。僕も、天野さんと谷ほどっではないが、期待は膨らんでいた。
「崔君、崔君もこっちに来いや-!」
「悪酔いしたー! 吐きそうや-! 僕はここで休憩-! 2人で勝手に盛り上がってくれ-! 僕は今は動かれへん-!」
「わかったー!」
道端から、客観的にナンパをしている姿を見るのは新鮮だった。おもしろい。何がおもしろいって、女の娘達の冷たさがおもしろい。いかに面倒臭そうに拒絶されているのかがわかる。すごく迷惑そうだ。それでも声をかけ続ける。女の娘達は苛立ち始める。そして、最後は無視され、去られる。滑稽だ。本人達が思ってる以上にウザイと思われているのが、見ていて笑える。僕も普段、こんな感じだったのだろう。ちょっと恥ずかしくなった。
僕は人間観察を楽しんだ。それはそれで良かったのだが、酔っ払っているせいなのか(運転手の天野さんは飲んでいないはずだが)? テンションが上がって浮かれていたせいなのか? 天野さんと谷はナンパ師としてのルール違反をやらかした。
他の3人組が先に声をかけているのに、天野さんと谷がそこへ割って入ろうとしたのだ。それは、僕もスグに注意した。
「やめとけー! 先に声をかけてる人達がいるんやから、手を出すな-! 他人のナンパを邪魔するのはルール違反やぞー! こっちへ来い-!」
遅かった。
「邪魔すんなー!」
天野さんと谷は男達から蹴りを入れられまくった。何故、拳じゃなくて蹴りなのか? わからなかった。もしかすると、怪我をしないように気を遣ってくれたのかもしれない。多分、そうだろう。誰だって、傷害事件は起こしたくない。でも、ムカついたから蹴らずにはいられなかったのだと思う。
「僕は知らんぞー!」
3人組の1人が、僕の目の前に立った。
「お前も仲閒か?」
「やめとけ、やめとけ、後悔するで~!」
僕はゆっくり立ち上がった。すると、腹に膝蹴りを喰らった。アカン、もう、アカン。僕は胸ぐらを掴まれたが、次の瞬間、ゲボッと相手の顔にゲロを吐いた。
「おいおい、どうなってるんだよ? なんだ? 何が起こった? これは何だ?」
男が動揺している隙に、僕はスッとその場から去った。
僕達は駐車場に集まった。僕はまだ吐き足りなくて、排水溝に吐いた。残さず吐いた。それから言った。
「今のは完全にお前等が悪い! 他人がナンパしてる最中に、横から割って入るとか、邪魔をしたらアカンやろ。谷はそこら辺はわかってたはずやろ? なんであんなことをしたんや? 谷はいつもこんなルール違反をやってたんか?」
「いや、今日の俺はおかしかった」
「おかげで、吐かなくていいゲロを吐いてしまったやんけ」
「崔君、すまん」
「それで、天野さん、谷、今日、まだナンパを続けるんか?」
「いや、今日はもうええわ」
「今日は帰ろう」
「よし! 今日は帰るで。また今度、広島に来たらええねん」
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