浪速区紳士録【社会人編:烈風】2度目の離婚を中心に書きます!

崔 梨遙(再)

第1話  新天地より!

 僕の新天地、岡山。僕は年下の先輩の天野高雄さんから、“ナンパを教えてほしい”と言われたので街へ繰り出すことになった。寮で待ち合わせたら、同い年の先輩、山内さんとバッタリ会った。その日は土曜日だった。山内さんも休みだったので、急遽、山内さんも引っ張り出した。山内さんは、“部屋でゲームをしたい!”と言っていたのだが、僕と天野さんで強引に引っ張り出したのだ。


 大きな繁華街が無かったので、とりあえず天野さんの大きな車で駅に移動した。駅前に陣取る。この時点で、今日のナンパは上手くいかないと僕は思っていた。僕は良く喋るが、身長169センチ、58キロのブサイク、天野さんは顔は某アーティストに似たイケメンだが無口。山内さんは、変色して脇が破れているTシャツを着ているぽっちゃり男。山内さんは髪ももじゃもじゃ。これで上手くいくわけがない。


「天野さん、今日は練習です。女の娘(こ)に声をかけることに慣れてください。本番は、次回です。それでいいですか?」

「いいよ」

「なんでカメラ持ってるんですか?」

「いや、先輩がナンパした証拠写真を撮って来いっていうから」

「ほな、まずは僕が声をかけますわ。まあ、断られるでしょうけど、断られて当然やから心が折れないようにしてください。ほな、いってきます」


「ちょっとごめん! 悪いけど、食事を奢らせてくれへん?」

「えー! これ、ナンパですか?」

「うん、ナンパ。なあ、彼女のいない僕等のことをかわいそうやと思って食事を奢らせてや。ほら、あそこにイケメンがいるやろ? 彼と一緒に! どう?」

「すみません、遠慮します」

「はい、失礼しました-! はい、天野さん、こんな感じです。ちょっとやって見ますか? 要するに、お茶か食事に誘えばいいんです」

「いや、いきなり1人は……」

「わかりました。ほな、今度は2人で声をかけましょう。隣に立って、援護してください。次は……あ、あの2人組でいいですか?」

「いいよ」

「ほな、行きましょう! ちょっと、ごめん。何も言わずに食事をご馳走させてくれ! 君達と一緒に食事がしたいねん。ちなみに、これはナンパやけど、ナンパやから軽いと思わんといてや、ナンパから真剣にお付き合いすることもあるんやで」

「急いでるから」

「ちょっと、このイケメンを見てや! このイケメンと食事できるんやで!」

「すみません」

「あ……足早に去って行ったかぁ……天野さん、こんな感じです。心を折らずに続けていれば、必ず成功しますから、次は1人で声をかけてください。あ、声をかける相手は選んだ方がいいですよ。どうせやったら、自分の好みの娘に声をかけないと、ほな、どうぞ」


 僕は山内さんと一緒に手すりにもたれて様子を見ていた。天野さんは、しばらく動かなかった。おそらく、声をかけることに抵抗があるのだろう。だが、やがて戸惑いつつも女性に声をかけた。スグにスルーされた。こちらに戻って来た。


「あきませんよ、1回で心が折れてたら。もっともっと、声をかけないと」

「完璧に無視されたよ」

「そういうこともありますよ」


 僕が横についたり、天野さん1人で行かせたり、しばらく悪戦苦闘した。


「天野さん、そろそろ山内さんという秘密兵器を使いましょう。“これはもうアカン”と思ったら呼ぶんです。山内さん、呼んだら来てくださいね」


「なぁなぁ、僕、大阪人なんやけど、ここら辺を案内してくれへんかな? 食事を奢るから。アカンか? ええやろ?」

「ダメです。お断りします」

「ほな、秘密兵器を出すわ、山内さーん!」


 山内さんが、変色した(元は白だったと思われる)脇の破れたTシャツで突入して来る。女の娘達は、


「「きゃー!」」


と叫んで走って逃げて行った。その状況に、僕と天野さんは笑った。痛快だった。それから、ナンパに失敗する度に山内さんを呼んだ。どの女の娘達も、同じように悲鳴を上げて去って行く。それは、僕と天野さんの笑いのツボにはまった。


だが、


「あ、写真を撮るのを忘れてた」


と、天野さんが言ったので、しばらく写真を撮ることに専念することにした。


「ちょっとすみません、先輩から、“かわいい女の娘と仲良くしてる写真を撮ってこい”と言われているので、一緒に写真を撮らせてもらえませんか?」

「まあ、写真くらいなら」

「なんなら、その後、お礼に食事をご馳走しても構いませんけど」

「食事はお断りします」

「ほな、もう1人いるので呼びますね。山内さんー!」


 突入してくる山内さん。


「きゃー! 何? この人?」

「ウチの秘密兵器、山内先輩や。さあ、写真を撮るからもっとくっついて。そこ、もっと山内さんにくっつかないと!」

「嘘-! これ、何の罰ゲーム?」

「はい、撮れました-! ご協力、ありがとうねー!」


 その後も、ナンパが上手くいかないと判断したら山内さんを呼び、女の娘達の悲鳴と引き替えに写真をゲットしていった。悲鳴を上げられているのに、山内さんは何故か満面の笑みだった。まあ、山内さんも楽しそうなので良かった。



 夜、山内さんが“風俗にも行ったことが無い”と言うので、僕と天野さんで山内さんを風俗店に放り込んだ。山内さんは、“嫌だ、嫌だ”と言っていたが、指名用の写真を出されると、


「この娘!」


と、即指名していた。ちなみに、指名したのは1番胸の大きな女性だった。山内さんの好みがなんとなくわかった。スッキリした笑顔で出て来た山内さんと3人で食事して帰り、やがて、僕等が撮った写真は職場でいい話題になった。ちなみに、僕が写真を撮る役だったので、どの写真も女の娘2人と天野さんと満面の笑みの山内さん。僕が写っている写真は無かった。この時に、意外と写真は簡単に撮らせてもらえるものなのだと知った。


 写真は皆さんの暇つぶしになってくれたが、数多くの写真を撮ったことよりも、山内さんを風俗に放り込んだことの方が評価された。


「崔、なかなかやるなぁ」


と、言われた。これが、岡山での初めてのナンパだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る