第2話  年下の先輩!

 ということで、天野さんとの2度目のナンパ。僕は新しい提案をした。


「彼女が出来るまで、これからもナンパするかもしれませんけど、ちょっとテレクラというのを体験してみませんか? 会うだけなら手っ取り早いですので。その代わり、顔は選べませんよ。声しかわからないので。ナンパと違う所はそこです。ナンパは相手を見てから声をかけるので顔を選んでますから」


 天野さんが乗り気になったので、僕等は天野さんの車で国道沿いのテレクラへ。すると、なんと僕よりも早く天野さんが女の娘(こ)とのアポをゲットした。


「良かったですね。相手は1人? 2人?」

「1人」

「ほな、僕はお邪魔ですね。いってらっしゃい、僕はタクシーで帰りますわ」

「いや、初めてだから崔さんにもついて来てほしい」

「場所はどこですか?」

「○○」

「岡山県でも、かなり北部じゃないですか!」

「そうなんだよね」

「車でどのくらいかかります? 1時間? 1時間半?」

「多分、1時間半くらい」

「でも、行きたいんですね?」

「行きたい。初めてのアポだから」

「行くんですね?」

「行く!」

「ほな、いってらっしゃい-!」

「崔さん!」

「遠いですよ! そこまでして行って、もしも相手がブサイクちゃんやったりブーちゃんやったらどうするんですか? リスクが大きいですよ!」

「行こうや」

「……」

「もしも、とか、そんなこと言わずに」

「わかりました、行きますよ。相手が美人でもブサイクでもブーちゃんでも、天野さんが相手してください。僕は同行するだけですからね」

「うん、行こう!」



「ここら辺? もうそろそろとちゃうの?」

「電話番号を聞いてるから電話する」

「お願いします」

「……もしもし、今、〇号線沿いの○○まで来たけど、ここからどこへ行けばいいの?」

「……」

「ああ、○○がある。ここを左に曲がるの? それで? ○○を右? これで家に着くの? あ、外で待ってくれてるの?」

「まさか、あの人とちゃいますよね?」

「あ、見えた。……お待たせ。車は家の前に停めていいのね?」

「えー! 天野さん、ご愁傷様です」


 僕達を出迎えてくれたのはアザラシだった。いや、トドかもしれない。


「崔さん!」

「あははははははは、アザラシや! トドや!」

「どうしよう?」

「美人でもブサイクでも天野さんが相手をするという約束ですよ」

「助けてや」

「いや、もう逃げられへんし、車から降りましょう」


「あなたが天野さん?」

「そうですけど」

「あなたは?」

「僕は付き添いなので気にしないでください」

「さあ、中に入ってよ」

「お邪魔します。一軒家やけど、家族は?」

「今、私1人で住んでるの」

「ごめんやけど、僕は寝たいねん。どこか寝れるところはある?」

「この部屋。布団を出すから」

「すみませんね、ほな、僕は寝ます。後は、天野さんとお嬢さんでたっぷり語り合ってください、おやすみなさーい!」


 僕は早々に戦線を離脱した。隣の部屋で、何か話し声が聞こえるが聞き取れない。本当に眠くなってきた。僕は微睡んだ。襖が開いて目が覚めた。だが、動かない。寝たフリをする。


 アザラシ(名前は不明)が天野さんと入って来た。僕の横に布団が2つ敷かれる(僕は部屋の奥)。アザラシを僕と天野さんが挟んで、川の字になって寝ることになったようだ。僕はこれからの展開に期待してしまい、笑いを堪えるのに必死だった。天野さん達には背を向けて寝たフリ。


 静かな音と気配。僕は寝返りをうつフリをして天野さん達の方を向いた。薄く目を開ける。なんと! アザラシの方から天野さんの布団に滑り込んで行った。天野さんは頭から布団を被っているので表情が見えない。


 掛け布団が動く。これはどうなっているのか? 掛け布団の動きが次第に大きくなっていく。最終的には、掛け布団が浮き上がった状態で、布団の中の状況がわかるようになった。アザラシが上で藻掻き、天野さんが下で藻掻いている。燃え上がっているのか? と思ったがそうではなさそうだ。そして、わかった。アザラシが天野さんに抱きつこうとして、天野さんは抵抗していたのだ。アザラシが攻め、天野さんは防戦一方。


 遂に、天野さんが足を使ってアザラシをはねのけようとした。アザラシの身体が宙に浮く。それでもアザラシは天野さんにしがみつこうとする。無言の戦いが続いた。僕はもう、笑いを堪えられなかった。声を殺して笑う。


 天野さんはアザラシを抱くのか? 抱いてしまうのか? おもしろいから抱いてしまえ! と思っていたら、天野さんがアザラシの手を振り払って立ち上がった。


「崔さん、崔さん!」

「何? どないしたん?」

「帰るよ」

「え! 帰るの?」

「行くよ! 行くよ!」


 天野さんと僕は、逃げるようにアザラシの家から出た。天野さんはキョロキョロして何かを探している。


「何を探してるんですか?」

「自販機。水を買いたい」

「それなら、あそこに」


 天野さんは水でうがいをして、次に口の周りを洗い流した。


「何をしてるんですか?」

「キスされたから、洗ってる」

「ディープですか?」

「かなりのディープキスだった、気持ちが悪い」

「あのまま、始めるのかな? と思いましたわ」

「あんなアザラシとしたくない」

「だから言ったでしょう? テレクラは顔を選べないって」

「これなら、ナンパの方がいいかもね」

「ナンパは相手を選んでしますからね」

「でも、テレクラで女の娘(こ)と出会えるということはわかった。勉強になった」

「2人組で2対2とかならいいですよね」

「テレクラにもまた行くわ。会えるんだから、いつか美人に当たる可能性もあるでしょ?」

「そうなんです。みんな、当たりを引くことがあるからテレクラに行くんです」

「こんなところがあるとは知らなかった」

「まあ、テレクラも上手く使って、ナンパもして、素敵な女性をゲットしてください」

「今度はナンパにしようかなぁ」

「お好きなように。ナンパが上手く行かないときにテレクラに行ってもええし」



「崔さん、次回もお願いします。ナンパでもテレクラでも、一緒に……」







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