第3話  成功体験!

 天野さんとコンビを組むのも3回目。


「今日は、ナンパで成功体験を手に入れましょう。今、ナンパしながら、“こんなことして、ほんまに成功するんか?”って思ってるでしょう? なので、“ナンパで成功することもあるんだ”と思える体験が必要なんです」



 とは言ったものの、なかなか成功しない。仁志君(元級友)とナンパしていた頃を思い出す。土曜日の朝の10時からナンパをスタートした。


「昼飯は、ナンパした女の娘(こ)と食べるんですよ!」


 と言った僕だが、お昼になってしまった。


「崔さん、俺、腹が減った」

「しょうがないですね、女の娘抜きで、僕等だけで食事しましょうか? いや、もしかすると食事はチャンスになるかもしれませんよ」


 無難にファミレスに入った。そこで僕は作戦を思いついた。ウエイトレスが、


「こちらのテーブルへどうぞ」


と言ってくれたのに、


「僕達、あのテーブルがいいです!」


ウエイトレスの言葉を無視して4人用のテーブルに座った。何故か? 隣のテーブルに女性の2人組がいたからだ。ちょっとカワイイ娘とちょっとキレイな娘。僕達はまず、適当に料理を注文した。


 それから、


「隣いいですか~?」


 と、隣のテーブルのキレイな女の娘の横に座った。


「え! 何? なんでここに座るの?」

「まあ、ええやないですか、ここは僕等が全部奢りますから。天野さん! 天野さんもお嬢様の隣に座って!」


天野さんが僕の向かい側、かわいい女の娘の隣に座る。


「僕達、ちょっと強引ですけど許してくださいね-!」

「本当に強引だよね」

「ちょっと、こんな展開は初めてなんやけど」

「岡山では珍しいかもしれませんけど、大阪ならこんなの当たり前ですよ(←嘘)」

「大阪の人?」

「うん、僕は大阪。でも、天野先輩は岡山の人やねん。どう? 天野さん、どう? イケメンじゃない? イケメンやんなぁ、アーティストの○○に似てるやろ?」

「そう言われてみたら、似てるかも」

「そやろ? 良かったなぁ、天野さん、彼女募集中やねん」

「いやいや、私達には彼氏がいるから」

「それは聞かんかったことにするわ」

「いやいや、それはダメでしょ」

「天野さんは、イケメンやけど無口やねん。僕は喋るけどイケメンじゃないねん。どう? ナイスなコンビやろ?」

「両方、ダメじゃん」

「そうとも言うかもしれへん。で、お嬢さん達はOL? それとも学生?」

「学生」

「何学生なん? 大学生? 短大生? 苦学生?」

「苦学生って何?」

「いや、言うてもらわなわからんやんか」

「女子大の4年生」

「ほな、22歳かぁ、じゃあ、天野さんとちょうどええなぁ」

「ちょっと、勝手に話を進めないで」

「っていうか、天野さん、そろそろ何か喋ってくださいよ」

「あ、じゃあ、質問。彼氏はどんな人?」

「え? 普通の大学生だよ」

「私も。彼氏は同じ大学」

「天野さんは社会人やで、見てや、この落ち着きぶり! 天野さんに惹かれたりせえへんの? 天野さんは高給取りやから、なんでも奢ってくれるで! 多分」

「多分って何? っていうか、なんで私達のところに来たの? 他にも女性の2人組はいるのに」

「そちらのお嬢さんがかわいくて、こちらのお嬢さんがキレイやから。あと、服のセンスもいいから2人は目立ってたで。だから声をかけたんや。そのネックレスもセンスいいし」

「あ、ネックレスとかチェックするんだ。お兄さん、スゴイね」

「気になる女性のことはチェックするやろ?」

「それにしても、ええ臭いがするなぁ、香水? シャンプー?」

「香水かな? シャンプーかな? どっちだかわからない」

「本当に、2人とも魅力的やなぁ、こちらのお嬢さんはキレイ系、こちらのお嬢さんはカワイイ系かな? なあなあ、2人とも、天野さんのことどう思う? 彼氏がいなかったら付き合う? 付き合うやんなぁ」

「え! どうだろう? 確かにイケメンだけど、さっきから何も喋ってくれないし」

「そうね、外見はOKだけど、もう少し話をしてみないとわからない」

「天野さん! 喋ればOKらしいですよ! 喋ってください!」

「じゃあ……彼氏には満足してるの?」

「天野さん、その質問はナイスです! さあ、どうなん? 君達。ラブラブなん?」

「いやぁ、もう付き合って2年も経つから……正直、新鮮さは無いよ」

「私は3年付き合ってるから、もうラブラブではないかなぁ」

「天野さん! チャンスですよ。君達、天野さんと付き合って、ドキドキのときめきを思い出そうや!」

「っていうか、なんであなたは天野さんを推すの? 先輩だから?」

「うん、先輩やから立ててるところはある。でも、それ以前に、僕には彼女がいるねん」

「なんだ、彼女がいるのか」

「だから余裕があるのね」

「ということで、僕は天野さんの応援をしてるんや。天野さん、今、フリーやから」

「そういえば、あなたの名前を聞いてない」

「僕? 僕は崔。君達は?」

「靖子」


 と、キレイ系な方。


「晴子」


と、カワイイ系の方。


「遅ればせながら自己紹介もすんだし、天野さんと連絡先を交換したらどう? 彼氏がいても、男友達として天野さんに連絡先を教えたら?」

「えー! それは迷う」

「うん、迷うよね」

「なんで? 大丈夫や、天野さんは喋らへんから」

「だったら、ただの無言電話じゃないの」

「嘘、嘘、流石にそれは冗談。なあ、天野さんの女友達になってや」

「でも、肝心の天野さんが何も言わないから」

「天野さん! 天野さんからもプッシュ! プッシュ!」

「電話番号、教えてほしい」

「うーん、だめ!」

「私もダメ!」

「ほな、しゃあないなぁ」

「私達、そろそろ店を出るけど」

「あ、支払いはしとくわ、ありがとう、お疲れ様」



「天野さん、どうですか? 食事だけで終わったけど、“ナンパで女性と親しくなれる”っていう実感が湧いたでしょう?」

「うん、俺、頑張るわ!」



 天野さんの闘志に火が点いた!







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