第4話 本当の始まり!
天野さんのナンパに付き合いつつ、未唯との遠距離恋愛は続いていたのだが、そちらはどうも上手くいっていなかった。と言っても、喧嘩したりするわけではない。何も揉めることは無いので、平穏のはずだった。だが、未唯は冷めていた! まあ、仕方ないだろう。1度は別れて、僕に対する想いも整理されていたのだ。そこから再燃するというのは難しいかもしれない。僕は未唯に無理をさせてしまったようだ。抱き合っても、今までと違う、何か違和感があった。僕は、未唯との恋愛がいつ終わるかわからないと覚悟した。
“きっかけ”は、細かいことだったかもしれない。未唯が言ったのだ。
「長距離のドライブにグイグイ誘ってくれる人がいい」
僕は運転が苦手というか、嫌だった。通勤など、短時間ならいい。だが、長距離の運転はツライ。精神的にキツイのだ。というのは、僕は派手な交通事故に遭ったことがあるからだ。残業続きで居眠り運転して、気がついたら視界いっぱいに大型トラックの側面があった。急ブレーキでも間に合わなかった。僕の車は車高の高いトラックの側面に潜り込んだ。屋根がめくれあがる程の大事故だった(物損、人身ではない)。僕は咄嗟に助手席に寝転がって、奇跡的に無傷だった。だが、“あの時、助手席に誰か乗せていたら死んでいただろうな”と思うとゾッとした。その事故のトラウマで、僕は長時間の運転は嫌になってしまっていたのだ。勿論、そのことは未唯にも話していた。それを理解した上で付き合っていたはずだった。なのに、今更、そんなことを言うということは、未唯はこの冷めた付き合いをやめたいのだろうと悟った。
「ほな、しゃあないな。今度こそ本当に別れようか?」
「うん、その方がいいと思う」
「遠距離恋愛とか、無理をさせてごめんやで。社宅があるから、今回は上手く行くと思ってたんやけど、まあ、しゃあないな」
「今まで、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
僕と未唯の終わりは、突然で静かで穏やかだった。岡山という新天地を得たから、僕は浮かれて未唯とよりを戻そうとした。今度はきっと上手く行くと思っていた。未唯との新しい物語が始まると思っていたのに、ダメだった。これが現実か? 僕はガッカリしたが、別れを覚悟で来ていたのでショックは思ったより小さかった。沙那子を頼ろうか? と思った。だが、まだ沙那子に甘えるのは早い気がした。もう一度だ。もう一度、僕は頑張らないといけないのだろう。未唯は元々過去の女性だった。これからだ。これからが僕の新生活の本当の始まりだ!
だから、天野さんに言った。
「天野さん、僕、彼女がいなくなったので、僕も真剣にナンパに付き合いますわ」
「じゃあ、次の土曜日にでも」
「了解です」
で、また駅前でナンパを繰り広げることにしたのだが、また悪戦苦闘。岡山は、どうも大阪のノリとは違うような気がする。ミナミでナンパしたときと、女性の反応が明らかに違うのだ。ミナミをうろつく女性はナンパされることに慣れていて、岡山の女性はナンパされるのに慣れていないような気がする。岡山の女性はガードが固い。
で、何の成果も無いまま、ランチタイムを迎えた。前回利用したファミレスに天野さんと入った。今回も、20代前半と思われる2人組のテーブルの横のテーブルに座った。そして、懲りずにまた言う。
「お隣、いいですか?」
「何? あなた」
「男2人で食事してても楽しく無いんです。全部奢りますから、隣に座らせてください」
「ダメ! ダメ! 絶対ダメ! 座っちゃダメ」
撃沈。寂しく男2人でランチ。
「これから、どうします?」
「うーん、店を出たら、今度はそのままテレクラで」
「OKです。テレクラ、気に入りましたか?」
「だって、会えるもん」
「そうなんですよね-! でも、顔がわからないんですよね-!」
「そうだけど、これ以上ナンパで失敗したら心が折れるから」
「心が折れる? ほな、テレクラしかないですね。2対2が理想的ですけどね。2人組をゲット出来たらいいんですけどね-!」
「じゃあ、行こうよ」
「はいはい、僕も彼女を作らないといけなくなったので」
そして、テレクラ。空いている。既にネット社会になっている。“出会い”に関しては、テレクラよりも出会い系サイトが主流になりつつある時だった。かかってくる電話も少ないが、空いていてライバルも少ないのでスグに電話をとれる。そして、今回は僕の方が天野さんよりも先に電話をとることが出来た。
「もしもし、こちら20代の社会人やけど、そっちは?」
「22歳の社会人です。こっちは2人なんですけど、そちらは?」
「おお、良かった! こっちも2人やねん」
「会います?」
「会うに決まってるやんか! どこで会う?」
「そこ、国道沿いですよね? 国道沿いの○○の駐車場で会えますか?」
「おお! めっちゃ近いやんか。行く! 行く! 2人で行く!」
「関西の方ですか?」
「関西人1人と岡山県民が1人」
「じゃあ、駐車場で待ってます」
「天野さん! 出動ですわ! 2人組をゲット出来ましたよ!」
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