第16話 天敵、部長登場!
「私、トップセールスマンになりたいの」
或る日、真帆が話してくれた。
「なんで?」
「女性でも仕事でトップになれると証明したいし、自分の限界までやってみたいの」
「もう、認められてるやろ? その年で支店長なんやから」
「でも、まだまだ足りない。私はもっと上を目指してるから。岡山でトップになってもまだまだよ。会社全体のトップになりたいの。部長みたいに」
「部長? 急に会話に出て来たなぁ、部長って?」
「私が就活してる時に、合同説明会で会社説明をしてた人。当時は課長だったけど今は部長なの。私、部長の話を聞いて、部長に憧れて今の会社に入社したのよ」
「ふーん、やり手なんやろうね」
「めちゃくちゃやり手! 私の憧れで、私の目標!」
「そう思える人物と出会えたのは幸せやね」
「崔君にも、そういう経験ある?」
「名古屋の代理店の時の課長がそうやったわ。こんな営業マンになりたいって思った」
「そういう、自分の人生を変えてくれる人との出会いって、運命だよね」
「そやなぁ、そうかもしれへんなぁ」
「だから、私、結婚とか、あんまり考えてないのよね。崔君は結婚したい?」
「結婚したいか? って、相手によるやろ? 相手が真帆なら結婚したい。一応、社宅もあるし。3DK。まあ、古い建物やから真帆には似合わんけど、辛抱してくれ」
「ごめんね、結婚願望が無くて。それでも崔君は離れない?」
「結婚という形にはこだわらへんよ、真帆の側にいられたらそれでええねん」
「そう言ってくれるなら良かった」
「自分の可能性を信じられる真帆は素敵やな」
「そうかな? そうでもないんじゃない?」
「その部長さん、どんな女性なんやろ? 興味は湧くなぁ」
「会ってみる? 会わせてあげるで」
「いや、会いたくはない。真帆の職場の人間には会わない方がいいような気がする」
それからしばらくして、真帆から相談された。
「今度、部長が岡山に来るんだけど」
「そうなん? 打ち合わせ?」
「うん、定期的に来るんだけどね」
「それで?」
「部長が来るなら、男の子を呼んで飲もうと思ってるの」
「面倒臭い部長やなぁ、僕の嫌いなタイプかも」
「私の男友達を呼んだら嫌でしょ?」
「うん、嫌。いくら男友達って言っても、ヤキモチを焼いてしまう」
「そう思ったから、今、正直に話してるんだけど。じゃあ、崔君が男友達を呼べる?」
「うーん、うん、呼ぶのは簡単やねんけど」
「簡単だけど? どうしたの?」
「どうせ、部長はイケメンが好きなんやろ?」
「うん、よくわかるね」
「わかるわ。ほんで、今の会社の人は呼びたくないねん。会社の人に真帆を見せたくないし、今、工場やから、トークの上手い人って限られてるから」
「じゃあ、今の会社以外の人を呼べる?」
「呼べるけど……誰を呼ぶか? それが問題やねん」
「イケメンはいない?」
「いる。ずっと飲食をやってる奴とか、元アパレルで今は工場で働いてる奴とか」
「どっちを呼ぶ?」
「元アパレルの方はトークに不安があるねん。接客をやっていた割にはトークがおもしろくない。飲食の方がトークはおもしろい。でも、元アパレルの方が飲食よりも更にちょっとイケメン。イケメン度合いなら元アパレル、トークで選ぶなら飲食、どっちがいい?」
「じゃあ、トークの方を選ぼうかなぁ」
「ほな、連絡してみるわ。要するに、合コンに来いって言えばええんやろ?」
「あ、後、これ」
「これ、香水やんか。香水ならつけてるけど」
「こっちの香りの方がいいよ」
「どんどん、僕を自分の好みにしていくんやね」
気の進まない合コンが始まった。男を用意させる部長が気に入らなかった。
場所は、普通の居酒屋だった。僕が呼んだ友人は三村。はっきり言って、元アパレルの男の方が良かったかもしれない。例え、トークが下手だったとしても。やっぱりイケメンだったし、多分、男性としてのムードはある。三村君は、ちょっとムードが足りない。イケメンだし、トークは上手なのだけれど。
とはいえ、合コンが始まってしまった。後は、三村君に託すしかない。三村君の健闘を祈った。だが、その日の三村君は、何故か“駄洒落”が多かった。普段、滅多に駄洒落なんか言わないのに。おいおい、どうした三村君。今日の君はいつもの三村君じゃないぞ。僕の人選ミスだ。僕は内心、頭を抱えていた。これは、部長からするとかなり不評だろう。
ちなみに、驚いたことに部長は普通の30代の女性だった。もっと美人だと思い込んでいた。よくこれでトップクラスの営業成績を維持できたなぁ? と疑問に思うくらいだった。これで部長になれるのなら、真帆もやがて部長になれるだろう。僕は確信した。真帆の方が、絶対に売れるはずだ。ビジュアルに恵まれているのだから。しかし、このビジュアルで部長になれるとは、この部長、どれだけトークが上手いのだろうか? 一度、部長が営業しているところを見てみたい。そういう興味は湧いた。
三村君、不発のギャグを連発し続けた。女性陣が作り笑いをしてくれたので、場は盛り上がっているように見えたが、絶対に盛り上がっていない。女性陣はきっと冷めている。予想通り、2次会は女性2人で行くとのことだった。僕達は、1次会で部長に斬り捨てられたのだ。真帆にはソッと囁いた。
「ごめん、僕の人選ミスや」
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